Z E R O B O K U

□バレンタインデー
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「なあ、まだ?」
「まだだってば。……あ、ちょっ」

零崎がボールの中に指を突っ込んだ。
僕から目をそらさずに指にすくったチョコを舌先で舐めとる。

その行動を目で追ったことが何故か急に恥ずかしくなって、僕は顔を伏せた。

「甘い」
「……だってチョコレートだから」
「いーたんも食ってみ?」
「は?僕はいい…っ……」

零崎は再びチョコをすくうと、僕の唇にちょん、とあてる。

「ほら」
「………」

小さく口を開けると、隙間から零崎の指先が這入りこんできた。

ああ、甘い。

そっと舌先を絡めると、それに応えるように指が僕の舌を押した。

「……っ……?」

もうチョコレートは残っていないのに、零崎はそのまま指を突っ込んでくる。
上から下、右から左、舌の裏まで、指先が這う。
まるで、指に犯されているみたいだと思った。

指が奥まで突っ込まれて、衝動で僕は咳込む。

「かはっ………」
「ごめん、やりすぎた」

零崎が僕の背中をさする。
涙目で見上げると、零崎は薄く笑っていた。

「いーたんって結構指フェラ上手いよな」
「…………変態」
「かははっ。あ、いーたん、俺甘い方が好きだから、チョコそのままでいいよ」
「…じゃあミルクのままでいく」
「うん、そうしてくれ」

ふいに手を握られたかと思うと、零崎の顔が近付いてきて、僕にキスをした。
深く落ちる甘いキス。

「んっ………」

唇を離すと、引かれた糸が途中でぷつ、と途切れた。

「いーたん、やらせて」
「まだチョコ固めてないから駄目」

またこのパターンか。

僕はひとつ溜息を吐いた。









冷蔵庫からチョコレートを取り出す。
ちゃんと固まっている。

あの後、発情した零崎から激しい攻防で守り抜いたチョコレートだ。

「おお、すげー!」

隣から伸びた腕がチョコレートを掴んだ。
零崎は子供のように笑っている。

「つくったばっかなのに……」
「だってはやく食いたいじゃん」
「………」
「………うっわー……すっげー美味い!いーたん天才!さすが俺の嫁!」
「ただ溶かして固めただけなんだけどね………て云うか誰がお前の嫁だ」
「かはっ」

ぱき、とチョコを割ると、零崎は半分を僕に寄越した。
ハートは恥ずかしい(と云うか有り得ない)から、ただ丸や四角でシンプルに固めたチョコレート。

ああ、でも、美味しいかもしれない。

「溶かして固めただけでも、いーたんの愛が込もってるからな」
「何でそんな恥ずかしいこと言えるんだよ……。……あれ、もう食べないの?」
「いや、後の楽しみにしとく」
「後?」
「やろうぜいーたん」
「早速かよ!」
「いいじゃんバレンタインデーだぜー?今日は一日中いーたんといたいんだよ。あ、いたい=したいで」
「………ったく……」

欝陶しい。

「今日だけだからな」
「いーたん愛してる!」
「ちょ、待……っ………」


重ねた唇からはチョコレートの味がした。




 
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