Z E R O B O K U

□イベント曜日
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零崎はイベントが好きだ。
クリスマスも誕生日もバレンタインも、一人で騒いで僕を巻き込む。

7月31日。
今日は、夏祭りの日だ。





浴衣を着終えると、零崎が後ろから腰に腕を回してきた。

「……何、気持ち悪いんだけど」
「別に、いーたん可愛いなあと思って」

思いっきり足を踏み付けてやる。
痛、と低く呻いて、零崎は僕から手を離した。

「痛いぜいーたん」
「自業自得って言葉知ってる?」
「かはは、じゃあそろそろ行くか」

すれ違ったみいこさんに挨拶をして、屋台で金魚掬いをやっていた萌太くんと崩子ちゃんと少し話して、僕らは休憩することにした。

「………零崎さあ、買いすぎじゃない?」
「うん?」

両手に林檎飴を持っているにも関わらず、腕にも綿菓子をぶらさげている零崎を見て僕は呆れる。

「いや、普通だろ。いーたん」
「ん」

腕を引っ張られたかと思うと、そのままキスをされた。
顔の角度を変えて、零崎が僕の中に舌を入れてくる。

「どう?」
「………甘い」

零崎から受け取った飴のかけらを舐めながら、僕は答える。

「もうすぐ花火始まるみたいだぜ」
「あ、じゃあ移動しよう。人多くなってきたし。穴場知ってるんだ」

僕は立ち上がって零崎の手をひいた。

「いーたん、そっち川じゃん」
「いいから、はやく」

川沿いの土手には階段があって、下へ続いている。その階段を途中で曲がると、公園がある。
寂れていて、もう誰も使っていないようだけど。
頭上で音がした。

「始まった」
「うん」

繋いでいた手を離して、僕はベンチに座る。

「すげえ、誰もいない。しかも眺めがいい」
「だから穴場だって言ったじゃん」
「うん、さすがいーたん」
「うわっ」

いきなり零崎に肩を押すように掴まれて、衝撃で僕はベンチに寝転がる形になる。

「なにっ……」

零崎は屈んで姿勢を低くすると、僕の首に吸い付いた。

「待って……浴衣汚れるから」
「……汚れなきゃいいんだろ?」
「え?」

零崎は僕を抱え起こして立たせると、手を引いて倉庫の所まで連れていった。
そのまま倉庫の壁に僕を押し付けるようにしてキスをする。
必然的に僕は壁に寄り掛かる姿勢になった。
浴衣の上からお腹のあたりをなぞられる。
零崎は一瞬手を止めると、僕の耳元で囁いた。

「………いーたんさあ」
「……っ……」
「もしかして、下着つけてない?」

一気に体が熱くなったのが分かった。

「―――っ……、だって、みいこさんがっ……」
「かはっ」
「何、悪いっ!?」
「いや」

零崎は行動を再開させながら言う。

「やりやすくていい」
「ふ……っ…」
「いーたんだってそう思うだろ?」

いつものようににやにやしながら聞いてくる。
否定する理由が見つからなくて、だけどそれを認めたくなくて、僕は小さく俯いた。

「いーたん、好き」
「んっ……」

答える代わりに、僕は零崎のキスを受け入れる。


遠くで花火の音が聞こえた。





「………結局浴衣汚れちゃってるし」
「どうやってもそうなってたって、かはは。いーたんだって下着も着ずに準備万端で」
「違うから」
「かはっ」

ああ、もう。
やっぱりちゃんと着てくれば良かった。
でも着付けの本にも書いてあったし、何よりみいこさんに言われたしな。

「でもあれだ、良かっただろ?」
「…………」
「やっぱりいつもと違うのはいいよなー」
「ちょっと黙って」
「いーたん、顔赤いぜ」
「黙っててってば」

また、否定できない。

なんだ。イベントを楽しみにしているのは僕も一緒じゃないか。

「次は何月だろうな」
「………今月」
「は?」
「今月、海行きたい」
「………いーたんがデレ期だ」
「何だよデレ期って」

零崎はそれには答えず、ただ笑いながら僕にキスをした。



8月3日。
次のイベントは、零崎いわく、海デートらしい。





*





→小宵様

 

 
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