H I T O I Z U

□それだけで
1ページ/2ページ

 

「なー零崎、僕が悪かったってば」
「知るか」
「ぎゃはは、そんなに嫌だったか、僕のちゅー」

人識は自分に絡もうとする出夢の腕をはらった。

「照れんなよー」
「照れてねぇよ!大っ体てめぇの所為でなぁー……」




――時は30分程前に遡る。




「何か楽しい事無いかなー…。理澄との約束の時間にもまだ早いしなー………」

そう呟きながら、出夢は一人歩く。

ふと顔を上げると、出夢の瞳に見慣れた後ろ姿が映った。

「ん・んー………零崎発見ー、ぎゃははっ。………ん?」

うわ……女の子連れてるし……。


「……嫌がらせしてやるか。Mな零崎の事だから喜ぶぞー」


そう言って、出夢は気配を隠して人識の背後に忍び寄った。

そして、

「はっろーん、零崎。ぎゃはっ」
「んなっ…!何でおま」

出夢の突然の登場にテンパる人識の唇に自分の唇を重ねた。

ちゅっ、と云う音が、隣にいた少女には聞こえただろう。

「……はぁ!?ちょっ…出夢」

出夢はぎゅうーっと、後ろから人識を抱きしめる。

「えっ…と………汀目くん…あっ……あたし帰るね!邪魔しちゃってごめんね!」
「いや!邪魔なのはコイツだから!!ちょ、待っ………」

少女は出夢の顔をちらっと見ると、駆け足で離れて行った。

「ぎゃははは!零崎逃げられてやんの、だっせー!」
「てめ…………最っ……悪だ……」

肩を落とす人識に自分の腕を絡ませて出夢は言う。

「んー?零崎あの娘とベットインでもする予定だったワケー?僕が代わりになってやろうか、なんつって!ぎゃはははっ!」
「……触んな」



……そして、今に至る。




「でもさー、ひどいよなー零崎。僕が何も考えないでちゅーしたと思ってるワケ?」
「お前の考えてる事は何時も解んねーよ………」

人識は呆れた顔で呟いた。

――まぁ……僕自身もあんまり解んないんだけどさ。



でもさ、零崎があの娘と歩いてるの見た時ちょっと苛っとしたんだ。

それが理由じゃ駄目かな?



「……なんて言ったら、零崎は怒るかねぇ」
「はあ?何一人で言ってんだよ」

出夢は人識の耳元に唇を近付けると囁くように言った。

「僕はお前が好きなんだよ」
「……あぁ?」
「だ・か・らー、僕が零崎にちゅーする理由。さっきのはヤキモチだったんだって」
「………お前あんまふざけんなよ……」
「……何、零崎僕の告白が嘘だとでも?」

好きだと言った瞬間、露骨に顔を背けた人識の顔を出夢は下から除き込んだ。




――……って…は?




人識は、顔を真っ赤に染めていた。

「……零崎もしかして照れてんの?」
「ばっ……てめーの嘘なんかに照れるワケねーだろ!」
「へー?」

出夢は人識の頬に軽くキスをした。

「でもさ、嘘じゃないぞ零崎。もし零崎があの娘を好きだとしてもさ、僕はお前の事好きだからな」
「…………本気なのかよ」
「マジだって!ぎゃははは」

そこで出夢は一息つくと、再び口を開いた。

「じゃー僕はこれから可愛い妹に会いに行ってくる。ちゃんと返事考えとけよなー零崎」

そして、出夢は未だ顔を少し赤くしたままの人識のそばを離れた。









――振り返ると、零崎がもう見えなくなっていた。

そこで僕は一度立ち止まり、笑う。


「やっぱ僕零崎の事好きだなー…」



もしも零崎が僕を好きじゃなくても。

僕が零崎を好きだ。

それだけで、いいと思った。








徠様へ→
 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ