H I T O I Z U
□それだけで
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「なー零崎、僕が悪かったってば」
「知るか」
「ぎゃはは、そんなに嫌だったか、僕のちゅー」
人識は自分に絡もうとする出夢の腕をはらった。
「照れんなよー」
「照れてねぇよ!大っ体てめぇの所為でなぁー……」
――時は30分程前に遡る。
「何か楽しい事無いかなー…。理澄との約束の時間にもまだ早いしなー………」
そう呟きながら、出夢は一人歩く。
ふと顔を上げると、出夢の瞳に見慣れた後ろ姿が映った。
「ん・んー………零崎発見ー、ぎゃははっ。………ん?」
うわ……女の子連れてるし……。
「……嫌がらせしてやるか。Mな零崎の事だから喜ぶぞー」
そう言って、出夢は気配を隠して人識の背後に忍び寄った。
そして、
「はっろーん、零崎。ぎゃはっ」
「んなっ…!何でおま」
出夢の突然の登場にテンパる人識の唇に自分の唇を重ねた。
ちゅっ、と云う音が、隣にいた少女には聞こえただろう。
「……はぁ!?ちょっ…出夢」
出夢はぎゅうーっと、後ろから人識を抱きしめる。
「えっ…と………汀目くん…あっ……あたし帰るね!邪魔しちゃってごめんね!」
「いや!邪魔なのはコイツだから!!ちょ、待っ………」
少女は出夢の顔をちらっと見ると、駆け足で離れて行った。
「ぎゃははは!零崎逃げられてやんの、だっせー!」
「てめ…………最っ……悪だ……」
肩を落とす人識に自分の腕を絡ませて出夢は言う。
「んー?零崎あの娘とベットインでもする予定だったワケー?僕が代わりになってやろうか、なんつって!ぎゃはははっ!」
「……触んな」
……そして、今に至る。
「でもさー、ひどいよなー零崎。僕が何も考えないでちゅーしたと思ってるワケ?」
「お前の考えてる事は何時も解んねーよ………」
人識は呆れた顔で呟いた。
――まぁ……僕自身もあんまり解んないんだけどさ。
でもさ、零崎があの娘と歩いてるの見た時ちょっと苛っとしたんだ。
それが理由じゃ駄目かな?
「……なんて言ったら、零崎は怒るかねぇ」
「はあ?何一人で言ってんだよ」
出夢は人識の耳元に唇を近付けると囁くように言った。
「僕はお前が好きなんだよ」
「……あぁ?」
「だ・か・らー、僕が零崎にちゅーする理由。さっきのはヤキモチだったんだって」
「………お前あんまふざけんなよ……」
「……何、零崎僕の告白が嘘だとでも?」
好きだと言った瞬間、露骨に顔を背けた人識の顔を出夢は下から除き込んだ。
――……って…は?
人識は、顔を真っ赤に染めていた。
「……零崎もしかして照れてんの?」
「ばっ……てめーの嘘なんかに照れるワケねーだろ!」
「へー?」
出夢は人識の頬に軽くキスをした。
「でもさ、嘘じゃないぞ零崎。もし零崎があの娘を好きだとしてもさ、僕はお前の事好きだからな」
「…………本気なのかよ」
「マジだって!ぎゃははは」
そこで出夢は一息つくと、再び口を開いた。
「じゃー僕はこれから可愛い妹に会いに行ってくる。ちゃんと返事考えとけよなー零崎」
そして、出夢は未だ顔を少し赤くしたままの人識のそばを離れた。
――振り返ると、零崎がもう見えなくなっていた。
そこで僕は一度立ち止まり、笑う。
「やっぱ僕零崎の事好きだなー…」
もしも零崎が僕を好きじゃなくても。
僕が零崎を好きだ。
それだけで、いいと思った。
*
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