O T H E R

□刀語
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宿の中の小さな一間。

明かりさえつけず、七花はそこにいた。

「………入るぞ」

一言そう言って、とがめは部屋に足を踏み入れる。

「ああ、とがめか。何かあったのか?」
「いや、何もないが……その…」

大丈夫なのか?ととがめは訊いた。

「何がだ?」

七花は不思議そうにとがめに問い掛ける。

「…………七花」
「ん?」

とがめは歩を進めると、七花の後ろに立った。

「とがめ」
「七花」

とがめは七花を見上げて言う。

「お前の……姉の事だ。寂しくはないか?」
「寂しい…」
「そうだ」
「よく……分からない。姉ちゃんは姉ちゃんだけど、さ。俺は刀を蒐集できたから満足してるよ」
「そうではなくて………!」

ああ、もう。
何と言ったら良いのだろう。

「とがめもそれで満足だろ?」

そう言って、七花は笑った。

………自覚している訳ではないだろう。

その笑いが、切なげで、苦しそうで――今にも泣き出しそうな笑みである事を。

「七花……」

とがめは一歩踏み出すと、七花の背に自分の頭を預けた。

「……どうしたんだ?具合でも……」

七花は振り向いてとがめの頬に触れた。

とがめは七花の頭に腕を伸ばす。

「―――七花、泣くな」

刹那、七花は目を見開いた。
……ほんの、一瞬。

「泣いてなんか………」
「泣くな」

そっと、とがめの指先が七花の髪を撫でてすべっていく。

「私がいるから……だから」
「…とがめ……」

今でも鮮明に蘇る、あの溜息の似合う姉の表情。

「とがめ……俺は、姉ちゃんが、好きだった」
「……ああ」
「大好き、だった」
「……ああ。…きっと、七実も同じだ」
「……そうか」
「そうだ」

そこまで言って、とがめはばっ、と頭を上げた。

「何故私が泣きそうになっておるのだ!七花!」
「はい!」

突然声を荒げたとがめにつられて、七花の声も大きくなる。

「………泣きたい時は泣け」
「……」
「返事は」
「…………ああ」
「よし。……それだけだ」
「え?……あ、ああ」

何だか拍子抜けしてしまった。

とがめらしいと云えばとがめらしい。

「じゃあ私はそろそろ寝るぞ」

そう言って踵を返したとがめの手を、七花の手が掴んだ。

「…何だ?」
「………いや、何、だろ……」

自分でもよく分からない。

「………七花。その……お前が良いなら、今日は髪を触らせて寝てやっても良いぞ?」

突然の提案だった。

「……ああ、頼む」

拒む理由などない。


それを聞いてとがめは小さく笑う。

「寝るぞ、七花」


短くなったとがめの髪が、柔らかく揺れた。




---fin.---



 
 

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