G I F T

□こんな日は
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6月中旬。


今年の梅雨は短いらしいとニュースで言っていた。
でも蒸し暑いのには変わりない。

「……ぁ…っつ…」

べたつくような暑さで頭がくらくらする。

応接室には冷房がついているが、今はまだ校内を見回り途中。
さっさと切り上げて戻るのも如何なものか、と雲雀はため息をついた。

バタバタと慌しく廊下を走る音が聞こえる。
昼休み恒例の光景、いつもなら軽く足でも引っ掛けて軽く注意するところだ(勿論相手は軽くと思っていない)
だが今日はそんな気が起きない。
走るなら走ればいい、なんて投げやりに生徒達を見つめる。

身体がだるい。
思うように足が運べない。

「雲雀!!」

そんな状態のときに限って、この男は現れる。

「りょ……笹川」

「ん?どうした、顔色が悪いぞ」

購買で買ってきたらしいパンを片手に下げ、了平は雲雀の顔を見るなり怪訝そうにそう言った。
ガサツだが、了平はそういう所によく気がつく。

「……何でもないよ」

遅れて返事を返す。

それでも了平はなおも心配そうに、今度は顔を覗き込んできた。

「今の季節は体調を崩しやすいんだぞ。一応保健室に」

「いいってば」

もう戻る、と雲雀は了平を振り切ろうとした。

来た道を振り返った瞬間、ぐにゃっと視界が歪む。

次に脳に酸素がいってないような感覚に襲われ、了平の声が遠くに聞こえたのを最後に雲雀は意識を手放していた。

















「………っ…?」

重い瞼を上げると、無機質な白い天井が見えた。

身体が沈む感覚と消毒液の匂いで、自分が保健室のベッドに寝かされていることを理解する。

「目が覚めたか、雲雀」

「了平……」

思わず名前を口にして、ハッと雲雀は口を噤んだ。
学校では名前は呼ばないと、あれほど自分から言っていたのに。

しかし了平はそれに気付いた様子もなく、大丈夫か?と不安そうにそう尋ねてくる。

「…うん。此処…」

「保健室だぞ」

「見たらわかるよ。…君が此処まで運んできたのか、って」

「あぁ。驚いたぞ、急に倒れるんだからな」

「…………まさか、」

お姫様抱っことかしてないよね?

そう続けたかったのだが、思わず躊躇った。

そんな所を気にしてどうするというんだろうか。
馬鹿らしい…

「しかしおぶって運ぶのも大変だったぞ、すっかり意識がなかったからな」

「…そう」

雲雀は、小さくほっと息を吐いた。

程よくドライになっている室内と、乾いたシーツの感触が身体のだるさを忘れさせてくれる。

ベッドの縁に腰掛け雲雀の髪を触ってくる了平の手も、今日はとても愛おしく感じた。
普段なら一睨みもするところだが、むしろ自分からその手に触れる。

「ねぇ、……了平」

「ん?」

甘く囁くように名前を呼ぶと、了平はそっと顔を近づけてきた。

「どうした」

「………………………………………キス」

「なに?」

「キス、して……」

了平の首に腕を伸ばす。
ベッドに重心が掛かってギシッと音が鳴った。

無言で了平は顔を近付けてきて、ゆっくりと、雲雀の目尻から頬を親指で撫でる。

唇が触れる一瞬前に、雲雀は目を閉じた。

互いに強く抱き合いながら、フレンチもなしにいきなり舌を絡ませた。

何度も向きを変えては深く口付ける。


雲雀は薄っすらと目を開け、了平の顔を見る。
キスしているときの了平は驚くほどに色気があって、身体を抱いてくる腕は力強くも優しい。

そうやって真剣になってキスをする了平が、雲雀はたまらなく好きだった。

「……んっ……んん……」

声が漏れ始める。
吐息まで絡むようなしつこさに、段々理性がなくなってきつつあるらしい。

了平の手が、腰から服の裾を捲って素肌を撫でできた。
あぁだめだ、と頭の隅でそう思ったが抗えなかった。
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