Z E R O B O K U

□No Title
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―――そんなことがあったのが、一週間前。


あんなことをしてしまって、本当に良かったんだろうか。
大体なんで俺はいーたん相手に理性を止められなかったんだろう。
男なのに。



「やあ人識くん。何を考え込んでいるんだい?お兄ちゃんが相談に乗ってあげようか?」
「帰れ」
「そんなこと言わずに、ねっ☆」
「うわうざ」

☆じゃねーよ馬鹿兄貴キモい。

「ん?好きな子のことでも考えてたのかなー?」
「………は、」

好き?
………そんな馬鹿な。

「………人識くん?」
「………なんだよ」
「恋、してるんだね……顔が真っ赤だよ」
「は……え……?」

兄貴は俺の肩に馴々しく腕を置く。

…………好き、とか。

「ちょっとアスー!赤飯炊いて!人識くんが恋してる!」
「うるせえ何言ってんだ殺すぞ!」
「お兄ちゃんに対してその言葉遣い!躾が必要かな、ん?」
「死ね!」
「うるさいっちゃお前ら……」

大将が俺を押し倒して馬乗りになっていた兄貴を引っ張り離す。

「……どうも」
「何ずっと寝転がってるっちゃ」
「……は、気にすんな」
「顔赤いっちゃよ」
「…………」


好き?









某メイド喫茶にて。


「……で?何だ相談てのは。俺にしかできない話か?」
「はい、まあ……。別に狐さんじゃなくてもいいんですけど…他の大人は変態ばっかっていうか……いや、狐さんも変態ですけど……」
「失礼だな」
「あ、すいません」
「で、その相談てのは」
「………その……」
「ん?」

狐さんが軽く首を傾げて僕の顔を覗き込む。

「……やっちゃったんですよね……」
「やったって、何を?」
「いやその、え、えっち?みたいな?」
「何だお前その歳になって童貞だったのか」
「違いますよ!いや、違くないですけど!あの……相手が男っていうか………まあ、事故みたいなものなんですけど」

ああ、もう。恥ずかしい。
…死にたい……。

「………男?」
「………男」
「……そうか」
「……はい。これからどうすればいいのか…」
「そいつのことが好きなのか?」
「え?え…あ、ああ……よく、分かんないです」
「嫌いではない」
「はい」

不思議と何故か即答できた。

「……まあ、付き合うってのも視野に入れて考えてみたらどうだ?このまま友達でいるって訳にもいかんだろう」
「………そうですよね。やってみます。……あ、じゃあこのへんで。ありがとうございました」

僕は口をつけてないコーヒーを横に下げて立ち上がった。
狐さんは座って前を向いたまま、僕の方を見もせずに呟くように言う。

「ちょっと待て、俺の敵」
「はい?」
「そいつじゃなくて、俺じゃあ駄目か?」

狐さんは相変わらず前を向いたまま。
僕は一呼吸置いて、小さく答えた。


「お断りします」





 
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