戦場の夢

□アイ(お題)
1ページ/1ページ

 軽く流血表現有り



  ‐アイ‐





「司馬懿さま」

水面に映るぼやけた私
あぁ血の池でもこの姿は見えると発見してしまった。

「司馬懿さま、私の顔が真っ赤です。どうしましょう」
「馬鹿者、鏡でも見ろ青白いではないか」
「見ましたよ真っ赤なんです」

彼は大きな大きな溜息をついて、未だ水面を眺める私の体をそっと抱き上げた。
まるで硝子人形でも抱いたように優しく、慎重に。

「部屋に戻れ、悪化する」
「へーきですよ」

自分の顔はわからないが、きっと楽しく笑えてる。
だってアナタが私のことを心配してくれているのだから嬉しくて、嬉しくて。

「でも司馬懿さまはへーきなんですか?移っちゃいますよ。痛いのも苦しいのもお嫌いでしょう」

問い掛けても返事が無い。
これは彼が不機嫌な証拠だ。

「ごめんなさい」
「そう思うなら出歩くな、探す方の身にもなれ」
「だって退屈なんです」

結核なんて、嫌な病気。
毎日毎日ただベッドの上で死を待つだけなんて耐えられないの。
だからせめて、心配してくれる人が居る間だけ我が儘言ってもいいでしょう?

「司馬懿さま、司馬懿さま」
「何だ」
「寒いです」

抱かれたまま彼の耳元で呟いた。
当たり前に聞こえているはずなのに、やはり彼は答えてはくれなかった。

「寒いです、心が冷えます」

先程より大きな声で言ったのに彼はまた聞こえないふりをしたから、ぎゅっと首にしがみ付いた。
窒息させる程力を込めたのにたいして効果はなかった。それというのも私の筋力が赤子のように落ちてしまったからだろう

「‥‥司馬懿さまはなんだかいい匂いがします」

彼に顔を近付けたら、私の好きな香の匂いがした。
今の私は、私の大好きなモノに包まれている。

「‥優しい匂い」
「毎日飽きもせずたけばこうなるわ」
「飽きもせず迎えに来てくれるのは司馬懿さまの方でしょう?」

毎日毎日、私の大好きな香を部屋に充満させてアナタを待って。
毎日毎日、いつ自分も感染するかわからないのに私の部屋に来ては小難しい話をして帰る。
職務忙しいだろうに、こんな死に損いの為にわざわざ‥。


「司馬懿さま」

楽しくて、名前を呼んで笑ったら
胸が詰まった。

心配させるから咳き込みたくないのに、苦しくて息が出来なくて何度も咳き込んだ。


 ふと見た手が赤くて、溜息を吐いて見ないふりをした。


「へーきですから」

手を握れば掌に付いた赤い液体は彼には見えない。
口の中に残る鉄の味に慣れてもアナタのその悲しそうな瞳だけは未だ慣れなくて。
だからお願い

「司馬懿さま泣かないで」

こう言えば恥ずかしいのか目付きを変えて、馬鹿めがって言ってくれる。



私が消えたら、彼はどうなるんだろう。
泣いてくれるのかな、あの冷静な彼が

そんな事を考えたら、もっと嬉しくなって咳き込んだ。




溢れ落ちた血が、私と彼を綺麗に染めて
私達はまた見ないふりをした。




(アナタの瞳に宿るのは血に濡れた真っ赤な幻想と、愛に燃える私の魂、どちらでしょう?)

20071007.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ