らーぜ
□拍手
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彼女を年上だと意識することは普段ほとんどないけれど。こうして向かい合って座ってコーヒーなんか飲んでみるとやっぱ大人だな、なんて思う。
「苦くね?」
ミルクと砂糖の入った甘いミルクコーヒーの向こうには、顔がくっきり映ってしまいそうなほど真っ黒なブラックコーヒー。
「慣れればおいしくなるよ」
甘いものが大好きなくせに、ブラックコーヒーを易々としかもうまそうに飲んでしまう大人さにちょっと複雑な気持ちになる。
「ちっちゃかった頃、まわりの大人が何も入れないコーヒーを飲んでるのがうらやましくて」
格好良いって思ってた、と一口コーヒーを飲む。白いマグカップに口紅のあと。何か恥ずかしくなって目をそらす。
「真似してね、苦いのに我慢して飲んでた」
今じゃその『格好良い』に自分がなってることに気付いてるんだろうか。
「慣れないとうまくないって、それってアリ?」
「ありあり」
とくったくなく笑う。
「そうかぁ?」
「いいでしょ?慣れれば慣れるほどやめられないって」
飽きないってこと、と両手をマグカップに添える。
「そうだけど」
「私たちもそんな風だったらいいな」
「慣れれば慣れるほど、一緒にいればいるほど、離れられなくなるの」
マグカップを弄びながらそんな可愛いことを言う。いや、弄ばれてるのは俺か……?
「俺といる時は、ブラックコーヒー飲むのやめね?」
急な俺の言葉にキョトンとして
「どうして?」
ときいてくる。何か淋しい、なんて言えない。
「じゃあさ、アズも一緒に飲むのはどう?」
俺の方へマグカップを押す。じっと見られてしょうがなく一口飲む。
「どうでしょう?」
俺は顔をしかめて
「ニガイ」
と答えた。それを見ると口を尖らせて不服そうな顔をする。そして何かを思いついたように寄ってきて、俺の足をまたごして足の上に座る。
「ちょ、ちょっと!何して…」
この体勢は刺激が強すぎる!
彼女は俺なんてお構いなしにそのままコーヒーを口に含んで口付ける。
ゆっくり流れ込んでくる苦いもの。口から口へ、そして喉へ胃へ。それが通ったところ全部が焼け付くような錯覚。
苦いはずなのに身体が痺れるほど甘い気さえして。
口を離すと俺の口の端からコーヒーが少し零れた。そこに彼女がまた口付ける。掬い上げるような舌の感覚。
「どう?」
その瞬間、今起こったことを理解してぼっと赤くなる俺。すっげェ熱い。
「………これだったら、飲む」
そんな俺に彼女は
「甘えんぼアズ」
と嬉しそうに笑ってぎゅっと抱きついてくる。
「もっとコーヒー好きになっちゃうよ」
その言葉に俺はもちろん赤面して。
子どもっぽいのに色っぽくて、大人っぽいのに可愛いくて。一緒にいればいるほど離れなれなくなる。
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