らーぜ
□I Wish I Were...
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浜ちゃんが挫折したときの背中を、未だに覚えている。
――やっぱりだめみたいで。
私は背中越しにその声を聞いた。ベンチの中で浜ちゃんと監督が話していて、私はベンチの裏にいた。ぴたりと背中につけた塀の冷たさは服の上からでも十分に伝わっていた。ポケットに両手を突っ込んだまま、私は生まれて初めて何かが終わることに直面していた。
――帰るか。
ほんの数分、監督と話をしただけで浜ちゃんの野球は終わった。びっくりするくらい呆気ないものだった。
帰り道、行きと同じように私は何も言わずに浜ちゃんの三歩後ろを歩いていた。夕暮れで赤く染まる道を浜ちゃんと歩くのは久しぶりだったけれど、嬉しい気持ちは何ひとつ湧いてはこなかった。幼馴染とは、不便な関係だと思う。家族ほど近くになれず、恋人ほど親密になれない。私には何もすることができない。
浜ちゃんは始めから最後まで笑顔で通した。少なくとも私は浜ちゃんが涙を落したのを見ていない。何をどうしたら浜ちゃんが泣いてくれるのか、怒ってくれるのか、そうやって感情をぶちまけた上で前を向いてくれるのか。わからなくて、涙が出た。
――野球、本当にやめていいの?
声が震えた。
――いいよ。
――普通には続けられるかもしれないって。
浜ちゃんの足が止まる。三歩の距離を埋められずに私も立ち止まった。
――普通って何だよ
振り返った浜ちゃんの顔は、浜ちゃんの向こうから射す夕陽で見えない。
――お遊びで続けろっていうのかよ。体だってでかくなって足だって速くなって速い球投げれるようになってくのに、それが自分でわかるのに、可能性はないって諦め続けろっていうのかよ。
――ちが
――本気で甲子園とかプロとか目指していく中で、俺だけ、俺だけっ
隠すように太陽の方へ向いた浜ちゃんの肩は震えていた。
――そんなのひでぇよ
浜ちゃんの肩が震える度に、ちらちらと赤い陽が揺れた。
――泣いたって、肘、治んねぇんだよ
浜ちゃんの言葉はもっともだった。もっともだから胸が潰れるように圧迫された。縋りついても放したくない大好きなものに、少しでもと縋りつけるほど割り切った感情を持つには、浜ちゃんは子どもだった。そしてそれがわかるほど私も大人ではなかった。
この時、早すぎる終わりに一番途方に暮れていたのは、他の誰でもなく浜ちゃんだった。
あの日の背中を、時々思い出す。私の涙と夕陽に滲んだ、学生服の後ろ姿。あの出来事を境に私たちは遠くなり、幼馴染という関係はただの名前になってしまった。きっと浜ちゃんは思い出すのだ。私を見る度にあの日の挫折やどうしようもない気持ちを。私が引っ掻き回してしまった心を。だとするなら、私に出来ることはゆっくりと自然に離れていくことだけだった。
I Wish I Were...
私が神様であったなら、浜ちゃんの祈りを叶えることができたのに。
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