きものは衣替えが煩わしいから…
そう思い込んでいる人、居ませんか?
よく云われる衣替えの時期。
六月から単、七月から薄物、九月から単、十月から袷。
これはあくまでも、江戸や上方の公の場所での、ある一定以上の身分の人達の、正装或いは礼装の規定を示した、江戸時代からの慣習です。
庶民の普段着は、この限りに非ず、寒ければ袷のきものに綿を入れ、綿を買えない人は座布団を背中に巻きつけ、暑ければ薄い半襦袢と半股引のみになり、と云った具合で、数少ない手持ちのきものを、気候に合わせて工夫して着ていたに過ぎません。
しかし江戸時代の文献によれば、六月朔日に古い単を着る事を恥とし、真新しい単を着て、洒落を競う庶民も居たそうです。
そうした人達は、侠気ある者と云われ、金の無心をしてでも単を仕立てていたそうで、つまりは全うな庶民では無い人達だったようです。
六月朔日に単に衣替えして町に集う庶民が、寧ろ奇異な人達として記録されているあたりから、当時のごく平凡な庶民は衣替えの慣習とは程遠かった事が伺えます。
ところで、夏の薄物等に縁が無い庶民が、半襦袢に半股引姿で暮らしていた事は先に触れましたが…
この姿、ちょっと想像してみて下さい。
どこかで見覚えありませんか?
そうです。夏物衣料として定番の、甚平なんですね。
暑い盛りに暑苦しいきものを、無理に着る事無い、と考えるのは昔も今も変わらないのです。
暑ければ薄い服を、寒ければ厚い服を、普段着は自由に着ましょう。