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□お人形の夢と眠り
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久々に心躍る帰り道。少年の頃にでもかえったようだ。全てが新鮮で…鮮やかに見える。
不思議だな。毎日目にしていた光景のはずなのに。僕はそんなに周囲に対して無関心だったんだろうか?
そうだ。「窓辺の彼女」以外にこんなにも気になった人間はいただろうか。


「彼女」は朝と全く同じ姿で姿勢よく座った。「彼女」は道中にいる僕に目もくれず、ただ夕日を真っ直ぐにみつめていた。
そんな姿をみていると、なぜだか僕は「彼女」の注意を引いてみたくなった。いつもお守り代わりにポケットに入れているハーモニカを取り出して奏ではじめた。ずいぶん久しぶりに演奏するものだから、指が少しぎこちなかったが、「ゆうやけこやけ」を何とか吹ききった。
我ながら心が洗われるようで、夢中で何曲も演奏した。
気が付くと、日もとうに沈んでいた。僕は期待半分ゆっくりと窓の方をみた。


真っ直ぐな瞳が僕を射抜いた。

僕は思わず立ちすくんだ。
「彼女」が、僕を見ている!
そう考えただけで急に気恥ずかしくなり頭に血が上った。乱れる呼気を直そうと、無理矢理深呼吸した。そして彼女の方をちらりとみた。

「彼女」はもう部屋に戻っていた。
僕は落胆と同時に安堵をおぼえた。この気持ちはいったいなんだろう。どうして、「彼女」の仕草に一喜一憂しているのだろう。こんなにも「彼女」が気になるのだろう…。どうも最近の自分はおかしい。病院にでも行ったほうがいいのかもしれない…そうぼやきながらその日僕は家へ戻った。
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