平凡を心の奥底からまっじで願う
□オリジナル
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一 始まり
平和な時代。
それは天界・人界・魔界の三つの世界が安定していた頃。
三つの世界には秩序があり、それは絶対で、互いの世界を侵してはならないというものだった。
だが、千年経った今では秩序は乱れ、天界と魔界は何のためにか戦っている。
それに人界の人々は参戦せず、人界の王は両界に『人界は戦争には参戦はしない。我々は戦争を放棄する』と、誓ったのだ――。
帝暦2373年。
人界の歴史は黄后時代を迎えた。
天界と魔界から交友を絶ってから千年、人界は遥かなる発達を続けた。
高層ビルはいくつも連なり、車が空を飛ぶようになり、他にもいろいろと発達をした。
だが、ひとたび都心を離れ、高層ビルが見えないような果ての村に行くと高層ビルがあるわけでも、車が空を飛んでいるわけでもない。
ただの人家があり、移動手段は馬だ。
そんな果ての村でも、都心でも戦闘手段は昔から変わっていない。
昔から、戦闘手段は自分に合った武器で戦う。それだけだ。
長年戦争が無かったため、人界の人々は戦闘手段を考えてはいないようだ。
そんな人界では五年に一度、人界最大の大会がある。
その大会は大剣部門、小剣部門、槍部門、斧部門、弓部門の五部門の優勝者を決める。
優勝した者には栄誉と大金が贈られる。
今のこの時期は大会間近で、出場者は自らの身体を鍛え技に磨きをかけている。
果ての村に住んでいるライルもその大会の出場者だ。
彼は背中に大剣を背負い、その大剣は幅広で長身のライルと変わらない位の長さがある。
ライルの髪は短髪で、自然と立っているようだ。色は人界では滅多にいない金色。双眸は蒼く、彼の整った顔に引き付けられる女性は少なくない。だが、歳はまだ十七歳。
濁った緑のような茶色のような帽子の無いローブを纏い、首の部分にある釦だけでそれを止めている。そして手には手袋中に着ているのは黒いノースリーブのような物で、腰には太いベルトがある。ズボンは白く、結構な余裕がある。裾の邪魔な部分はブーツの中に終っている。
その傍らには 夜の水面を見ているかのような黒い双眸に、星が瞬いている夜空のような黒い髪。全身も黒い服でまとめている。袖のない革着を地肌に着て、指の部分を切り落とした革手袋をはめている。ズボンも黒く、腰に巻いているベルトは太い。ブーツも黒く、肌の色が際立って白く見える。色があるとすれば、首にかけている赤いネックレスに、手首にある金色に輝く細い腕輪。
彼の名はブラッド・ラディソン。
ブラッドは人界、天界に嫌われる魔族、魔界人である。
人界で魔族は忌み嫌われている。いかなるものも喰い尽くし、殺戮と破壊しかないといわれているからだ。
だが、二人は今、仲良く話をしている。まるで、人間と魔族という関係を感じない、仲良しの親友みたいに。
今歩いている道は、大きく大きくそびえている、緑の木々が茂る山に向かう森の中の道だ。
そこは少なからずも馬を使って商人が通るので、道は広く、きちんと整頓されている。
「なあ、ライル。よかったのかよ、ナイツなんとかって」
その話題は深刻そうで重要そうだが、黒目黒髪のブラッドは他人事のように、陽気に訊いた。
蒼目をちらりと覗かせ、こちらも陽気に笑って応える。
「別にいいんだよ、あんなナイツレイソンとかいう騎士団なんか。どうでもいいんだ」
普段は寡黙で、滅多に口を開かない彼だが、この時は酔ったように話し出す。
「いるか分からないモンスターの討伐や、たかが盗っ人を捕らえたり、これまたいるか分からないペガサスの保護、それに、炎のブレスを吐く超ー巨大なドラゴン討伐っ! 命がいくつあっても足りねぇよ!」
足をふらふらっふらつきながら歩く。千鳥足というのだろうか。そのような状態だ。
ちなみに、酔ったようなという表現は正しくない。実際に酔っているのだ。
そのため、顔はほんのり赤くなっている。
ちなみに、ブラッドも酒を飲み、酔っている状態だ。
周りから見れば昼間から、と呆れるだろう。しかし、ライルは決して自分で飲んだのではない。隣で勝手に肩を組んでいるブラッドに、騙されて飲んだのだ。
そんな、人界の人間と魔界の魔族という異色のコンビを組んだのはほんの数時間前。
事の始まりはライルの大切な、愛しい人がさらわれてから。
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