隠し連載

□真実
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縁側で見上げていた夕空。朱と黒のコントラストが美しかったのを覚えている。夕日を見つめるように月が反対側で輝いていて、丁度狭間で見上げたそれらは何よりも美しかった。
頬を撫でる風は秋だけれど、まだ夏の名残でぬるかった気がする。庭に生えていた芒が風にそよいでいて静寂に心地よく響いていたのを鮮明に覚えている。
そして、大好きな人と空を仰いでいた。
太陽が残る夕空には鴉が何羽か飛んでいて、月が煌めく夜空には一等星が瞬く。見上げていると空は次第に明暗を色濃くしていき、やがて空は黒に覆われる。そのさまを言葉なくただゆったり見ていた。
それが幸せだった。些細な時間が手に入れがたい幸せを運んでくれた。
その時間がいつまでも続けばいいのに、何度そう思ったことだろう。けれどそれは到底望んではいけないことだったのだ──。



*****



「宮部ー。いつまでも寝てんでこの問題解いてみろー」

現実と夢の狭間をたゆたっていた意識を引き上げられる。心地よいそこから急浮上させられた俺は薄く目を開け、やがて緩慢な動作でのっそり起き上がるのだった。眠いと訴える脳と体を叱責するため腕を突き上げて伸びる。教師が「おいおい本当に眠そうだな」と呆れるが、俺はそれを無視し無気力な体を奮い立たせて黒板に向かう。
あーねみい……これ、何だったかな…。
十分に働かない頭を懸命に回す。えーと…ああ、そうそう。欠伸を噛み殺しながら汚い字で書かれた数式を見つめて、ぽっと思い出した公式をずらずら書く。

「──よって、解はX=12、Y=11である。と、いかがでしょうか先生」
「正解。言うことなし。やっぱりお前には易しすぎんだなあ」
「十分難しいですよ」

半ば聞いていない教師に言ったところでもちろん反応はない。そんな教師に背を向けて教壇から下りる。
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