隠し連載

□真実
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act.00 かつて仰いだ空





縁側で見上げていた夕空。朱と藍のコントラストが美しかったのを覚えている。
まるで夕日を見つめるように東には月が輝いていて、丁度朱と藍の狭間で見上げたそれらは何よりも美しかった。頬を撫でる風は秋だけれど、まだ夏の名残で少しぬるかった気がする。庭に生えていた薄が風にそよいで静寂に心地よく響いていたのを鮮明に覚えている。
そして、大好きな人と空を仰いでいた。
沈みかけた太陽が残る夕空には鴉が何羽か飛んでいて、月が煌々と照らす夜空には一等星が瞬く。仰ぐ空は次第に明暗を濃くしていき、やがて空は西の空に白みを残してほぼ全天を黒に覆われる。その、短くも長い時間を言葉もなくただゆったり見ていた。
それが幸せだった。そんな些細な時間が、手に入れがたい幸せを運んでくれた。
こんな時間がいつまでも続けばいいのに、何度そう思ったことだろう。

『────にい、さ、』

けれど、それは到底望んではいけないことだったのだ。




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