ラブ★コン二次創作・2

□君の隣に
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 不意に、冷たい手の感触を頬に感じて、大谷は目を覚ました。


 ・・・・・・なんや?
 ・・・冷たい・・・・手?
 つーか・・・、頭ガンガンすんねんけど。
 ・・・・・・・えっと。
 オレ・・・・・・ビールがぶ飲みして・・・それから・・・
 ・・・・・・・


「目ー覚めた?」
 そして、その声に、大谷は一気に現実に引き戻される。


 ・・・・・えっと?
 オレ、ベッドに横になってる・・・よな。
 でもって。
 オレを、ニコニコしながら見てる・・・・・・・。


「小泉・・・」
 目を擦りながら、大谷はリサを見た。
「・・・オレ・・・なにして・・・ん?」
 そして、そう呟きながら、大谷はのろのろと身体を起こす。


 ・・・・・・
 確か・・・オレ、ビール飲んでたよな。
 で、急にふらふら〜して、床に寝転がった気ーすんねんけど・・・
 ベッドに寝とる・・・?


 まだ、視点の定まらない大谷の顔を覗きこみながら、リサはほっとした表情をする。
「ごめんなー。髪が乱れてたから、直そう思て、顔に触れてもーた」
「あー・・・」
「まさか起きるとは思わんかったから、びっくりした」
 少しおどけて言いながら、リサは大谷に笑いかける。

「・・・大谷、急に倒れてん。どうかしたんかと思て焦った」
「・・・わりぃ・・・」
「ベッドまでひきずったんけど、ちっとも起きんかってん。気がつかんかった?」
「・・・うん」
「でもよかった。このまま朝まで起きひんかったら、ちょっと寂しーな思てた」
「・・・・・・」
 リサはえへへと笑いながら、床に腰を下ろす。
 大谷は、そんなリサから目を逸らすと、時計に目をやった。
 すでに午前1時をまわっている。


「・・・帰らなかったんか」
「うん。明日休みやし」
「オレ・・・明日、学校あるけど」
「かまへんよ。あたしのことはほっといてくれてええから」
 そこまで言うと、リサは上目遣いで大谷の顔を見つめる。
 そして、少し寂しそうな、それでいて甘えるような口調で、大谷に訊ねる。

「・・・泊まったらアカン?」
 そんなリサの様子に、大谷は思わず唾をゴクリと飲みこむも。
 わざと素っ気無い口調で答える。 
「そうは言うとらん」
「よかった!お泊り何週間ぶりやろ〜えへへ!」
 嬉しそうな表情をみせるリサに、大谷もつられるように笑顔を見せた。


 ・・・が。


『マジハンパない電話だぜ!』
 その時、突然、リサの携帯に着信が入った。

「こんな時間に誰やろ・・・もしもし?」
 リサは大谷に謝る仕草をしながら、携帯で話し始める。
 相手が誰かは、大谷にはわからない。
 それでも、かすかに漏れ聞こえてくるのは、間違いなく男の声で。
 その事に気づいた途端、大谷はそれまでと一転して、険しい表情になる。


 ・・・・・・なんやねん。
 いま、夜中の1時過ぎやで?
 つーか、話してんの男やんけ・・・
 なんでこんな時間に、男から電話かかってくるん?


 楽しげな会話を続けるリサを横目で見ながら、大谷は深い溜息をつく。
 ついさっきまで、熟睡していたはずなのに。
 まだ、アルコールが体に残っているはずなのに。
 睡魔を感じないどころか、目が冴えてくる自分に、大谷は少し驚いた。

 聞くつもりがなくても、聞こえてきてしまうリサと男との会話。
 最初は、電話をかけてきた男に向けられていた大谷の腹立ちも。
 いつしか、それは笑い声が絶えないリサへと向けられ。
 大谷は、その表情の険しさを、より増していく・・・。



 しばらくして。
 電話を切ると、リサは申し訳なさそうに謝った。
「ご、ごめんな。学校の友達やねん。さっき会ったやろ?」
「・・・・・・・・仲ええねんな。こんな時間に電話してくるなんて」
 大谷は自分の言葉が、思っていた以上に冷たく響くのを感じた。
「へ?あ、あたしは女やないから、話しやすいんちゃう・・・かな?」
 自分の様子を窺うかのようなリサの口調に、大谷は苛立ちを感じる。
「・・・そーですか」
「あ・・・あの」
「そらよかったな」
「・・・おー・・・たに?」
 いつもとは違う、大谷の冷たい口調に、リサは不安げな表情をうかべる。

「お、大谷・・・」
「なんや」
「な、なんか怒ってる・・・?」
「怒ってるって、なにがや」
「だって・・・なんか・・・」
「・・・・・・」
 リサは一瞬躊躇して、それでもおそるおそる口にする。

「言葉に・・・トゲがあんねん・・・」
 その言葉を聞くと、大谷はフッと冷たい視線をリサに向ける。
「後ろめたいことがあるから、そう感じるんやろ」
「へ?」
「なんか、やましいことでもあるんちゃうか」
「な、なんもないよ!?てか、大谷こそ、さっきからめっちゃ機嫌悪い・・・やん・・・」
 それでも。
 これ以上ない程に、不機嫌そうな表情の大谷を見て。
 リサはなにも言うことができなくなってしまった。



 しばらく、沈黙が続いた後。
 大谷は、急に立ち上がるとキッチンへと向かい、冷蔵庫から缶ビールを取り出す。
 そして、一気にゴクゴクと飲み干した。
「・・・そんなに飲んだら、また酔うてまうよ」
 心配そうな顔をするリサを一瞥すると、大谷は冷たく言い放つ。
「別にええやろ。おまえには関係ない」
「・・・か、関係ない・・・て・・・」
 リサはいつもと違う様子の大谷に、戸惑いを感じていた。
 明らかに、自分に対する敵意みたいなものが、伝わってくる。


 ・・・でも。
 なんで?


「お、大谷・・・、酔ってるん?」
 リサは、大谷から強引に缶ビールを取り上げると、その正面に立った。
 大谷はムッとした顔をして、リサを睨みつける。
「酔ってなんかいませんよ?!たかだかビールで酔っ払うわけないですよ?」
「完璧、酔ってるやん・・・」
 そう言いながら、リサはアルコールでふらふらしている大谷の体を支えようとし。
 手を伸ばして、肩に触れたその瞬間。



 大谷はその手を払いのけた。



 何が起こったのかわからず、リサは呆然とする。
 大谷は俯いたまま、なにもしゃべろうとはしない。



「・・・・・おー・・・たに?」
「・・・・・・・・」
「あ、あたし・・・気に障ること・・・した?そ、それやったら言うて?あたし、アホやからわからへん・・・」
 頭が混乱しつつも、リサは努めて明るく話しかける。
 それでも大谷は立ち尽くしたまま、返事をする気配がない。
「・・・あ・・・・の・・・・」
 リサはもう一度、黙り込んだままの大谷に触れようと、おそるおそる手を伸ばした。
 そして、その手が大谷に触れる直前。
 それまでの酔った大谷とは別人の様な、ひどく冷たい声が聞こえた。



「・・・オレにかまうな」
「え?」



 リサは自分の耳がおかしいのかと思った。
 もしくは、聞き間違いをしたのかと思った。



「お、おー・・・たに?」
「・・・」
 無言のまま、大谷はリサに背を向けると、ベッドにゴロンと横になった。
 リサは、何度も声をかけようとし、ためらいがちに大谷に近づくも。
 結局、話しかけることができなかった。
 そして、居心地の悪さを感じつつ、リサは台所に移動し、洗い物を始める。



 食器を洗う水音だけが、静かな部屋の中に響いていた
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