ラブ★コン二次創作

□雷
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「・・・なにしとんねん、小泉」
 教室のドアを開けたオレの目に飛び込んできたのは、机の下にもぐり、手で両耳を押さえて縮こまっている小泉の姿だった。
 さっきから途切れることなく続く雷と激しい雨の音、停電で消えてしまった教室の蛍光灯。
 夕方のせいもあって教室は薄暗く、一瞬だけなら誰もいないかのように見える。

「だ、だって・・・・雷・・・めっちゃすごいやん・・・」
 震えながら、今にも泣きだしそうな顔をして、小泉は机の下からチラッとオレを見る。
(こいつ・・・いつもの勢いどうしたん?)
 めったに見れない弱気な小泉に驚きつつ、オレは薄暗い教室の中に入っていく。



ピカーーーッ
ゴロゴロ・・・
ドカーン・・・・



 雷は相変わらず、激しさを増していた。
「光った後、すぐに雷が落ちると近い言うよなぁ」
「・・・そ、そんなん・・・・いま光ってすぐ落ちたやん・・・」
 相変わらず両手で耳をふさいで。
 机の下にもぐって、目をぎゅっと閉じて震える小泉に、オレはちょっとだけ近づいて。
 すぐそばにしゃがみこんで、のぞきこむように話しかける。
「小泉って・・・雷こわかったん?」
「・・・ ・・・」
「おーい・・・ ・・・」
「・・・ ・・・小泉ー?」
 まるでオレの声が聞こえていないかのように、ひたすら震える小泉の肩に手を触れようとしたその瞬間。



ピカーーーーー
ドッカーン!!!



 今までにない激しい光と音、一瞬で近くに大きな雷が落ちたのがわかった。
 そして。
 それとほぼ同時に。

「いやーーーーーーーあかーーーんっ」

 小泉の絶叫が教室に響き渡り・・・。










ドキン・・・・・・ドキン・・・・

(ちょ、ちょっと待て、落ちつけオレ・・・・)

 それまでにない、激しい雷が落ちた。
 それはいい。
 問題はその後だ。
 パニック状態になったらしい小泉は、・・・・・・



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・今、 オレに抱きついている。



 暗い教室の中。
 オレと小泉しかいない教室。
 さっきまで聞こえていた雷や雨の音が、どこかいってしまったかのように遠くに聞こえる。
 反対に、自分の心臓の音が、明らかに激しくはっきりした音となって聞こえてくる。


ドキン・・・ドキン・・・


 首にまわされた小泉の腕は思っていたよりも細く、少し小刻みに震えていた。
 ふわりと小泉の髪の毛が、オレの鼻先を撫でる。


ドキン・・・ドキン・・・


(な、なんやねん、この状況・・・っ)


ドキン・・・ドキン・・・


ドキン・・・ドキン・・・


(静まれっちゅーねん、心臓っ!)


ドキン・・・ドキン・・・









「こ、こいず・・・」
 どれくらい時間がたったのか。
 オレは動かずじっと固まったままの小泉の名前を呼ぼうとして。
 呼び終える前に、小泉の体がビクッと動いた。
「あっ、ご、ごめんっ」
 そして慌てて自分の腕をオレの首から外し、直ぐにオレから距離をおく。
 床にペタンと座り込んだその顔は、薄暗い教室で1メートルは離れているのに、真っ赤なのが直ぐにわかった。
「・・・パ、パニックに・・・なってもうた・・・」
 消え入りそうな声で小泉が呟くと、ふたりの間を沈黙が支配した。







 相変わらず、教室の電気は消えたまま、雷も雨も相変わらず激しいままだった。 
 落雷の直前に、一瞬だけ教室内も明るくなるが、そうでないときはさっきよりも薄暗かった。
 少し落雷の間隔が長くなった気はするが、そのかわりに雨は激しさを増していた。


 ・・・先に沈黙を破ったのは小泉だった。
「雷・・・嫌いやねん」
 ポツリ、そういうと、ふぅっと溜息をついた。


ドキン・・・ドキン・・・

 オレは心臓の音が聞こえないかと不安になりながら、平静を装って言った。
「ま、まぁ、たしかに今日のはすごいけど・・・」


ドキン・・・ ドキン・・・


「・・・そんなに激しいのじゃなければ・・・我慢できるんやけど、今日みたいのは・・・もうあかん・・・」
「・・・そうなんか・・・?」
 半べそをかきながら、最後は消え入りそうな声で話す小泉を、オレはじっと見つめていた。



 みんなから漫才コンビだの、相方だの言われてるヤツ。
 ジェットコースターのごとくいつも大騒ぎしてるヤツ。
 オレのことすきとか言いながら、他の男のファンクラブまで作るヤツ。
 オレがヘタレになると、あほパンチで目を覚ましてくれるヤツ。
 なのに、いまオレの目の前で、雷に怯えて涙目で震えてるヤツ。


 ・・・人がせっかく告白したそのときに、居眠りして聞いてなかったヤツ。


 なんだかんだ言って、こいつはオレのことを振り回して。
 むかつくはずなのに。ハラたつはずなのに。
 なぜか気になって。
 オレは・・・こいつのことばっかり考えて。


 そこまで考えて、オレは思わずフッと笑みがこぼれてしまった。


 ・・・ ・・・なんか、笑ってまうわ。
 振り回されてんのに、こいつが気になってしゃーない自分に。





 そんなことを考えていると、小泉はすごく不満そうな表情をしてオレの顔を覗き込んだ。
「・・・ ・・・なんか、笑われてる気ーするんやけど・・・」
「え?」
「・・・大谷、あたしのこと笑てるやろ・・・」
「そんなことないって」
「うっそ!めっちゃ笑てるやん!」
「笑てへんて。まぁ、小泉が雷に弱いなんてこともあるわな・・・」
「嫌いなもんはしゃーないやん!」
「そ、そやな、しゃーないわな・・・・・・・・・・・・・ ・・・ははははっ」

 あはははっ・・・
 そこまで言うと、オレは我慢しきれなくて笑い声をたててしまった。
 そんなオレを、小泉はさらに不機嫌そうに見つめている。

「・・・だってしょうがないやろ!こわいもんはこわいんやから!!」
「はいはい。こわいんだからしょーがないわな」
 オレは笑いながら小泉を見る。
 小泉はいつもの、口をとんがらせた、不機嫌なときにするブサイクな顔をしていた。


 ったく、しょうがないなぁ・・・
 こいつ、もう少しかわいい顔とかできんのか?
「おまえ、そのブサイクな顔どーにかせぇよ」
「そんなん生まれつ・・・わぁーーーーっ」

ピカーーー
ドカーン

 途中まで言いかけて、雷の落ちる音にビクッと反応する。
 ・・・こいつ、ほんとおもろいわ・・・
 おもろくって、退屈せんわ・・・


「・・・・・・・お、大谷・・・??」
 オレは「あはは」と笑いながら小泉に近づき、そして。
 その手をとって、ぎゅっと握り締めた。
「へ?」
 その瞬間、何が起こったのか理解できないのか、小泉は握り締めた手をじっと見つめ、それからゆっくりとおれの顔に視線を移した。
 ・・・・・・目が点になるって、こういう表情のこと言うんやろなぁ。


 ・・・ほんとに。
 こいつおもろいなぁ。


 オレは少し笑いをこらえながら、子供をあやすかのようにニコニコしながら言った。
「ほら、これならもうこわくないやろ?」
「え・・・・えっ・・・・・」
「すぐ側にいてやるから、もうこわないやろ?」
「あ・・・・・・う・・・ん・・・」
 ちょっと雷にびくびくしながらも、小泉はきょとんとした顔でオレを見つめていた。
 オレにはそれがなぜか妙に嬉しかった。


 何度も殴られたし、言いたい放題言われたし、漫才コンビやし。
 「彼女としては考えられない」なんて言ったこともあったけど。
 いつからかなんてわかれへん。
 けど、 気がついたらこいつのことで頭がいっぱいだった。
 こんな風に、こわがっているこいつも。
 いつものお笑いコンビの相方なこいつも。
 一緒におると、退屈せぇへん。
 これからも、きっと、ずっとそうや。
 

「・・・あはは、へんな顔っ」
 オレをのぞきこむ小泉の顔を見ながら、オレは繋いだ手をさらに強く握りしめた。


 それは、リサ18歳誕生日の、少し前の出来事だった。


 end
 (2007-8-22)
 

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