ラブ★コン二次創作
□し り と り
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「なぁ、大谷ー?」
2月半ば。
受験を終え、進路も決定した大谷とリサは、卒業試験にむけ勉強をしていた。
余程のことがない限り、この試験で卒業できなくなることはない・・・ハズであったが、実はリサは卒業できるかギリギリのラインだった。
なにしろ、受験勉強をしたくないがために、専門学校に進路を決定したのである。
当然、普段からまともに勉強などしてるはずがない。
逆に、大谷は受験勉強のおかげで、卒業試験は余裕を持って望める状態だった。
とはいえ、そこは恋人同士。
家庭教師とまではいかないまでも、リサがきちんと勉強するよう見張りも兼ねて、大谷はリサと二人で勉強していた。
図書館の静けさが苦手な二人が選んだ場所は、もちろん大谷の部屋である。
しかし、勉強を始めて15分。
リサは既に勉強に飽きたのか、シャーペンを机に置くと、頬杖をつき、大谷に話しかけてきた。
「大谷ぃ?」
「なんや」
「ちょっと息抜きせぇへん?」
「あほか。勉強せえよ」
「だって、慣れないことしてるから、なんか疲れてん・・・」
大谷はギロッとリサを睨む。
「なにが疲れてる、や。お前、卒業でけへんでもええんか?」
「だから、ちょっとひと休み・・・な?」
「お前なぁ・・・」
元はと言えば、大谷もリサ同様『あほっ子ちゃん』である。
しなくてよければしたくない勉強に、飽きてきたのは大谷も同じだった。
「な、そや。しりとりしよ!」
「はぁ??」
持っていたシャーペンを机に置きながら、大谷はあきれた顔をする。
「負けた方がなんかおごりでどう?」
「お前、勉強する気ないやろ」
「ええから、ええから。じゃああたしからなー・・・」
リサはちょっと考えて、にっこり笑って言った。
「・・・おおたに。」
「・・・・・・・・・ニラレバ。・・・ったくなんでこんなことせなあかんねん」
「ええやん。息抜き息抜き。えっと・・・・ばさし」
「しまうま」
「まり」
「りす」
「すいか」
「カラス」
「するめ」
「めだか」
「かとりせんこう」
「小泉のすきな、うさぎ」
リサはともかく大谷は嫌々ながら始めたはずだが、二人のしりとりはテンポよく進んでいた。
さすが3年間お笑いコンビを組み、そして恋人同士にまでなった二人である。
こういうノリの良さも相性ピッタリなのである。
「ギター」
「たんぼ」
「ボク」
「クリスマス」
「すし」
「しあい」
「インコ」
「コアラ」
「ラッパ」
「パイナップル」
「ルビー」
「ビーだま」
「ま?ま、ま、えっとぉ・・・あ!魚のますっ」
「スーパー」
「パチンコ」
「こども」
「もも」
「お前、それは卑怯や・・・も・・・もぐら」
「らっきょう」
「うま」
「まいたけ」
「まいたけってなんやねん。名前はあかん。マイティなら・・・・・・」
「ちゃうちゃう!、きのこやて」
「・・・あ。・・・じゃあ、けがに」
ここまでくると、二人は真剣である。
お互いににらみ合い、負けるもんかと闘志むき出しで言い続けた。
「ニガウリ」
「りか」
「かさ」
「サッカー」
「かみ」
「ミーハー」
「はこ」
「コマ」
「まんざい」
「いか」
「カッター」
「たこ」
「・・・」
そこで、リサは一瞬考え込み、そしてそのまま何もなかったかのように続けて言った。
「こいずみ」
「リサ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!!!」
その言葉を発した瞬間。
大谷はハッとした表情をし、そのまま固まった。
「ん?どうしたん??」
リサは満面の笑みで、大谷に話しかけた。
大谷は顔を真っ赤にして、しばらく固まったままだったが・・・、やがて手で口を押さえながら、目を見開いてリサを見た。
しりとりをしていたことは、大谷にもわかっていた。
・・・十分にわかっていたのだが、つい、うっかり、口が滑ってしまったのだ。
なにも考えず、連想ゲームがごとく、言ってしまった。
・・・ ・・・彼女の名前を。
「・・・・・・・・・・・お、お前ッ。これ狙てたんやろ!」
机をバンと叩きながら、大谷はリサに食って掛かった。
「えー??なんのことぉ??」
「オ、オレに名前呼ばせ・・・・」
「えー??しりとりやからね。大谷の負け!」
「なんやねんっ、ハラたつーーー!」
大谷は真っ赤な顔で、頬を膨らませ、悔しがった。
(ちょっとせこい手やったけど、大谷が名前呼んでくれたなんて、シアワセッ)
とっさの思いつきとはいえ、作戦がうまくいったリサは、ニコニコしながら悔しがる大谷を見ていた。
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「もう一回、勝負せえ」
しばらくふてくされて勉強していた大谷は、負けず嫌いな性格の為か、もう一度勝負をしようと言ってきた。
「ええよ。あたし絶対負けへん!」
「オレかて負けへん」
「じゃあ、大谷からでええよ」
さっきの勝利で余裕があるせいか、リサは先攻を大谷に譲った。
大谷はよしッと気合をいれ、二人は再度しりとりを始めた。
・・・始めたのだが・・・。
「うみぼうず」
「ずこう」
「うみ」
「ミッキーマウス」
「すずめ」
「めだか」
「カラオケ」
「けむし」
「しか」
「かた」
「たこやき」
「きー・・・・・・・・、・・・・・・」
そこまでくると大谷は急に黙り込み、じっとリサを見つめた。
さっきまでふてくされていた大谷とは、別人かのような雰囲気である。
「ん?」
それまでと違い、急に見つめられたリサは、少しきょとんとした顔をした。
大谷は真剣な表情で、リサを見つめていた。
・・・そしてリサは、この真剣な表情の大谷を、何度か見たことがあった。
「・・・・大谷・・・?」
ゆっくりと。
リサはいつも呼び慣れているはずの名前を言ってみた。
その言葉に反応したかのように、大谷はすっと手を伸ばし、リサの髪に触れた。
リサは一瞬、体を硬くしたように見えた。
大谷は2度3度と髪に触れ、頬に触れ、そして静かに言った。
「・・・『キ』・・・だったよなぁ・・・・・・・」
「・・・・・・・・うん」
「・・・・・・・・・・じゃあ、キスってのは?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
それは。
その真剣な表情は。
いつもキスする直前の、大谷の表情で。
「・・・・次は『す』、やな」
表情は変えず、真剣なままで。
少しぶっきらぼうに言いながら、リサの頬に手を当てたまま大谷は少し顔を近づけて。
リサは大谷のまっすぐなその瞳から、目を逸らせなかった。
「・・・す・・・・・・・・・?」
リサは小さな声で、囁くように言った。
「・・・・す、・・・・す・・・・き?」
その声に反応するかのように、大谷はまた言葉を繰り返す。
「・・・・・・じゃあキス」
そして、リサも同じ言葉を繰り返す。
「・・・す、き」
「キス」
「すき」
「キス」
「すき」
「キス」
「すき」
「キ・・・・・・・・」
そこで大谷の言葉は途切れた。
ゆっくりとお互いの顔が近づき、目を閉じ、そして・・・。
「・・・はは・・・はは」
キスの後、リサはテレながら、それでも嬉しそうに笑っていた。
「さっきのお返しや。これでアイコやからな」
「・・・アイコて・・・なにが・・・」
大谷は少しふてくされた表情で、机にあったシャーペンを持ち、勉強を始めた。
いつも、そう。
キスした後、大谷はふてくされた表情をして。
でもそれは。
大谷流の照れ隠しだってことを、リサはよく知っていた。
「・・・お前はよ勉強せえよ、卒業でけへんかったらどないすんねん」
いつまでも勉強しようとしないリサに、大谷はちょっと睨むようにして言った。
リサは、シャーペンを持ち、勉強を再開しようとして、ちらっと大谷を見た。
「大谷」
「なんや」
「・・・ううん、なんでもなーい」
エヘヘと笑いながら、リサは机に向かって勉強を始めた。
机に向かっている大谷の頬は、まだ少し赤くて。
(大谷、だいすき)
そんなことを思いながら、リサは顔がにやけてくるのを止めることができなかった。
end
(2007-8-24)