ラブ★コン二次創作

□Are you ready?
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「あたし、そろそろ帰るなー」
 時計の針が6時を指す少し前。
 大谷とふたりでテレビを見ていたあたしは、そろそろ家に帰ろうかと立ち上がった。
 大谷は、「んー」と言いながら、テレビから目を離し、上目遣いにあたしを見た。

 今日はめずらしく、大谷の家でまったりデート。
 海坊主のDVDをみたり、雑誌を読んだり。
 いつもはカラオケやゲーセンのデートばかりやから、なんだか妙に新鮮で。

 でも、せっかくのふたりっきりの時間だったのに。
 久しぶりに、ずっと一緒にいれたのに。
 楽しい時間は、ほんまあっという間や・・・
 「はぁ・・・」と、あたしは軽く溜息をついた。


「・・・小泉さー」
 大谷の声にハッとしたあたしは、いつの間にかドアを塞ぐように大谷が立っていることに気がついた。
「なに?」
 大谷とあたしと、二人してドアの前に立っていた。さっきまでついていたテレビも、いつの間にか消してあった。
 それまでの和やかな空気が、なんとなく変わった気がして、あたしはちょっとだけ身構えた。
「今日、オレん家に誰もいないって知ってる?」
「え・・・・・・・?」
 大谷は頭を掻きながら、あたしとは目を合わさないようにして言った。
 あたしは大谷の言葉の意味がわからなくて、頭の中で何度も言葉を繰り返す。


 家に、誰も、いない。
 家に・・・誰も・・・いない・・・
 イエニ ダレモ イナイ・・・


 そういえば、お茶の準備も大谷がしてたっけ。
 大谷のおかんも、今日は一向に部屋に来ないし。
 だいたい、家全体から、声とか音が全くしないし。
 大谷以外、誰にも会ってないし・・・


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 あたしは顔が熱くなるのを感じつつ、後ずさりをした。
 大谷はそんなあたしを伺うように見た。
「家族みんな、親戚の結婚式で田舎に帰省中やねん」
「・・・大谷は?結婚式でえへんの?」
「オレは明日行くねん。日帰りで」
「ああ、そう・・・」

 会話自体は、当たり障りのない内容なのに。
 今の状況を考えると・・・なんだか、ちょっと・・・
 あたしは気がつかれないように、また少し後ずさった。

「このあと予定でもあるん?」
「いや、予定は・・・ないけど」
「じゃあ、まだ帰らなくてもええやろ?」
 相変わらず大谷はドアの前に立ち塞がっているから、無理に帰るわけにも行かず。
 あたしは「うん」と返事をすると、力が抜けたようにその場に座りこんだ。
 ・・・そんなあたしを見て、大谷もあたしの隣に座りこんだ。

「テ、テレビでもみよか!」
 肩が触れるぐらい近くなった大谷に、あたしは動揺して慌ててテレビのリモコンを手にとった。
 あかん、あかん・・・!
 理由はわからんけど、この状況はあかん気がする・・・
 ・・・あたしはテレビをつけようと、何度もリモコンのスイッチを押したものの、慌てていたせいかテレビの電源を入れることができず、
「テレビ?みんの?」
 さらには大谷にリモコンを取り上げられてしまった。


 なんだか。
 あたし、逃げ場を失った気が・・・する・・・


 大谷は取り上げたリモコンを、使うわけでもなく弄っていた。
 あたしはその場から動くこともできず、ただ黙って座っていた。


 どないしたらええん?
 あたし、どないしたら・・・


「今夜さー」
 突然大谷が話しかけてきて、あたしはビクッとしてしまった。
 おそるおそる大谷のいる左側に顔を向けると、大谷はじっと俯いたまま呟いた。
「今夜、遅なってもええやろ?」
「へ?・・・・・・あ、そ、れはー・・・」


 ど、どないしよう。
 これって、やっぱりそういうこと・・・意味しとるん??
 そんなん考えたことないいうたら・・・そんなんは嘘やけど、でもっ!
 こんなんいきなりなんてっ!
 ・・・でも、大谷が、もし本気やったら??
 本気でそういうつもりやったら??
 あたし・・・大谷と・・・


「小泉」
「は、はいっ?」

 大谷に名前を呼ばれて、あたしは思わず返事をした。
 大谷は相変わらず俯いたままだった。
 あたしは、ゴクリと唾を飲み込んだ。


「・・・・・・今日さ、泊まってく?」



「・・・・・・・・・あ・・・・・・・・は・・・」
 あたしは鈍いかも知れんけど、ここまで言われたら、いくらなんでも分かんねん・・・
 大谷の言いたいことは・・・・・・ようするに・・・・・・

 返事もできずに、ただ呆然とするあたしを知ってか知らずか、大谷はリモコンをテーブルに置いた。
 そして、あたしのいる右側に顔を向けたから、あたし達は至近距離で見つめ合う形になった。
 そのまま数秒・・・



 プッ・・・
 大谷がいきなり笑った。

「・・・おまえ、いまめっちゃこわい顔してん」
「なっ、なに言うてんのよ!」
 含み笑いをしながら大谷が言うから、あたしは大声をあげてしまった。
「おまえ今、へんなこと考えてたやろー??」
「なんも考えてないもんっ!!」
 大谷はクククと笑いをかみ殺しながら、
「大丈夫やって。冗談冗談。なんもせーへんから」
 そう言うと、耐え切れなくなったのか声をあげて笑い出した。
 あたしは、ただ呆然としていた。


「いやな?メシ食っていくかなー思てさ・・・」
 大谷は相変わらず笑いながら、何がなんだかわからないあたしに説明を始めた。
「たまには家でなんか作ってもええかな思ったんやけど」
「な、な、な・・・」
「オレ、けっこう料理うまいんやで?材料買うてこなあかんけど・・・」
 ニコニコしながら話す大谷に、あたしは顔が真っ赤になるのがわかった。


 なによ、なによ!!
 ってことはさー!
 全部あたしの独り相撲ってヤツ!?
 あれも、これも、それも、なにもっ!
 大谷に遊ばれてたってこと!!??
 ひとりで先走って・・・あたし・・・めっちゃ恥ずかしすぎやん・・・
 めっさハラ立つーーーーーーーーーーーー!!



 あたしは笑い続ける大谷をギロッと睨み付けた。
 そして、そんなあたしに気がついた大谷は「ごめん、ごめん」と軽く謝りながら、
「でもさ、怒ってるってことは、ちょっとは期待してたん?」
 そんなことを言うから。
 あたしはテーブルにあったリモコンを、思いっきり大谷に投げつけた。


  *   *   *   *   *   *   *

(・・・ていうか、あんな泣きそうな顔してたら、なんもできへんよなあ・・・)
 大谷はそう思いながら、リサに隠れて深い溜息をついた・・・。



END



 (2007-9-3)
 

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