ラブ★コン二次創作

□不機嫌な理由
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「なんもない言うてるやん・・・」
 あたしは大谷をキッと睨みつけながら、この上ないぐらい不機嫌な声で言った。
「だから、オレが何したっちゃうねん!」
「なんもしてない言うてるやん・・・」
「だったらその態度はなんやねん!」
 大谷のイライラが最高度に達してるのはよく分かった。
 このままやったら、マジで怒り出すかもしれん。
 でも・・・
 あたしは今それどころやないねん・・・


 言い争いの原因は、大したことじゃなかった。
 大谷とあたしは、学級委員の仕事で遅くまで学校に残っていて。
 仕事の間、あたしの機嫌が悪かったのが、大谷はずっと気に入らなかったらしい。
 「理由を言え」「なんもない」・・・何度も同じことを繰り返したせいか、あたしたちはお互いにイライラを増して・・・。


「ほんまうるさい。ほっといてんか・・・」
「おまえなあ!!!」
 机をバンと叩きながら、勢いよく立ち上がった大谷に、あたしは言い返す気力もなく、そのまま机に突っ伏した。


 ズキン・・・・


 あかん。
 もうあかんかも・・・。


 さっきから、いや今朝から、いや昨日の夜から痛かった。
 ずっと痛かったのに、気がつかない振りしてごまかしてた。
 けど、もうあかん・・・


 ズキン・・・


「・・・・・・小泉?」
 目もうつろなあたしを、大谷はさっきまでとは違って心配そうに見た。
「もーほっといてや・・・」
 半分涙声になりながら大谷に答えるあたし。
 もうあかん気ーする。
 だけど、大谷には言えん。
 言ったら・・・もし言ったとしたら・・・絶対に・・・


 ズキッ!


「うっ・・・・・・」
 あたしはそれまでとは格段に強い痛みに、右頬を押さえて唸った。
 そんなあたしを見て、大谷は言った。
「・・・お前、もしかして歯痛?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ちゃう」
 短い沈黙の後、あたしは消え入りそうな小さな声で、そう答えるのが精一杯だった。
 大谷にばれたら、絶対歯医者に連れてかれる。
 昔から歯医者だけは駄目やねん。
 あの音、匂い、機械・・・なんもかもが怖いねん。
 絶対あかんねん・・・


 そんなあたしをしばらく見ていた大谷は、
「歯、痛いんやろ?医者いこうや」
 あたしが想像していた通りの言葉を言ってきたから。
「あかん。大丈夫。我慢できる」
「あほか。そんなに痛いんやったら我慢せんと医者行って・・・」
「平気やもん!」
 自分に言い聞かせるように、あたしは大声を出した。


 大谷は腕をくみながら、あたしを覗き込むようにしていた。
 居心地の悪さを感じつつ、同時に歯の痛みも感じつつ、あたしはずっと黙っていて。
 しばらく沈黙が続いた後、大谷はあたしの机の上に腰をかけ、目を合わさずに静かに言った。
「ふぅーん、平気なんか」
 それはそれまでとは違う冷静な声で。
 机の上に腰掛けている大谷と、その椅子に座っているあたし。
 いつもは見下ろしている大谷が、見上げる形になっていて、あたしは少しドキっとした。
「時間がたてば大丈夫やねん。な?」
 自分でもぎこちないと分かる笑顔を作りながら、大谷にそう答えると、
「だったら、こういうことしても平気だよな?」
 そう言いながら、大谷はすばやくあたしの肩を押さえ、顔を近づけてきた。
「ちょ、ちょっと・・・今そんなんしてる場合じゃ・・・」
「だって平気なんやろ?」
「・・・・・・・・・っ!!」
 あたしは大谷を突き飛ばすようにして、キスから逃れた。
「ほ、ほら、ここ学校だし。誰がみてるかわからんし・・・な??」
 真剣な顔であたしを見ている大谷に、必死で言い訳するも、
「誰もおらんやろ。それともオレとはキスしたないんか?」
 そんなことを言い返してくるから・・・。


 ズキン・・・


 ど、どうしよう・・・
 めっちゃそういう雰囲気やねんけど・・・
 ・・・正直、今それどころやないっちゅうねん・・・。
 痛いし、痛いし、痛いし!
 めっちゃ痛くておかしくなりそうやし!
 ・・・で、でも大谷、目がマジやし。


「そんなん言うてへんよ・・・でも・・・」
「でも?」
「あ、いやほら、もう帰らないとあかん時間やし」
「話そらすな」


 あかん・・・
 大谷、その気みたいやん・・・


 ズキン・・・


 あたしはどうしたらいいのか分からず、黙り込んでしまった。
 そうしている間にも、痛みは増すばかりで。
 でも、そんなあたしを気にもせず、大谷はあたしの腕を引っ張り、抱き寄せたから。
 あたしは痛みをこらえつつ、そっと目を閉じて・・・











「・・・・・・・・・・・・・」










「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん?」


 あれ?


 あたしはそっと目を開けてみた。
 大谷の顔はすぐ側にあったけれど、そのまま動く気配もなく、ニヤッとしながらあたしをじっと見ていた。


 え?え?え?
 なに??
 なんなん?
 
 あたし・・・すっかりそういう雰囲気だと思ってたんやけど・・・
 ち、違うん??
 なんなん?
 っていうか、こういうのって、こういう状況って、めっちゃはずかしいんやけどーーー!!


「虫歯ってうつるんやで。知っとった?」
「え?」
 状況が理解できず、おまけに恥ずかしさで心臓がドキドキしながら、あたしは大谷を見た。
 大谷はさっきからニヤニヤしていて。
 だからあたしは余計恥ずかしくなって・・・。
「キスするとうつるんやて。ということは、オレら、キスできへんよなぁ。オレ虫歯になんの嫌やし」
「は?」


 ・・・・・・何言ってんの?
 今、そんなん関係ない・・・いや、虫歯はあたしに関係あるかもしれんけど・・・
 というか。
 もしかして、もしかして。
 大谷・・・面白がってる・・・?
 あたしのこと、面白がって遊んでる・・・??


 ハッとして、あたしは大谷の腕から逃げようとしたけれど、ちっこい体にもかかわらず大谷はやっぱり男の子で。
 あたしは抱き寄せられたまま、動くことができなかった。
 大谷はさっきからずっと笑っていた。
 その態度にあたしは無性にイライラして、強く睨み付けると、大谷は妙に芝居がかった声で言った。
「オレってめっちゃかわいそうやと思わん?」
「なにがよ!」
 あたしはムッとしながら返した。
「だって、彼女に八つ当たりされるわ、キスしようとしても嫌がられるわ、つーか、もしキスしたら虫歯うつされるわ、ほんまかわいそうやで」
「・・・・・・」
「彼氏がこんなん言っても、歯医者行かんのやろ?もうキスできへんよなぁ」
「・・・・・・」
「あーあ、かわいそうなオレ」
 大谷は自分に酔っているかのように、そしてあたしに見せつけるかのように大げさに溜息をついた。


 ・・・そりゃあさ。
 そりゃあ、あたしだって行った方がいいとは思ってん。
 けど。
 だってさ・・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「で?どうすんの?」
 大谷の腕の中で黙り込んでしまったあたしに、にっこり笑いながら大谷は聞いてきた。
 その顔は勝ち誇ったかのようで。
 なんかちょっと悔しい・・・けど。


「・・・行けばええんやろ?はぁ・・・」
 溜息をつきながらあたしは呟いた。
 歯痛も、もう限界に近いし、大谷にここまで言われたら行かなあかんよな・・・
「よっしゃ。じゃあ今から行くで?」
「・・・い、今から?? ・・・・やっぱしこわい・・・」
「オレがついてったるから。ほら行くで」
 大谷はあたしの腕をとると、強引に歩き出した。
 あたしは歯医者のことで頭がいっぱいで。
「はよ治せや。・・・オレかて次は我慢できへんわ」
 大谷がそう呟いたのに気がつかなかった。


END



 (2007-9-12)

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