ラブ★コン二次創作

□不安な気持ち
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「バイトするん?」
「大学入ったらな。今までできへんかったから、めっちゃ楽しみや」
 そう言って、大谷はゴキゲンそうに笑った。
 卒業アルバムの準備で、遅くまで残っていたあたしと大谷は、仕事をしながらおしゃべりをしていた。
 その話題は、自然と卒業後の話となり、大谷は4月からのことを色々と語っていた。
「サークルも入りたいしなあ。新しい世界が広がるって感じ?」
 目を輝かせながら笑う大谷に、あたしは複雑な気持ちでいっぱいだった。
 それは、前からわかっていたことやけど。


「・・・これからは毎日会うとか難しいもんな・・・」
 あたしがぎこちなく笑いながら言うと、
「そうやなあ。毎日会うてたけど、これからは難しいやろなあ」
 大谷はさらっと、何事もないかのように言うから。
「・・・そうやな・・・」
 あたしは力なく返事をした。
 そんなあたしを見て大谷はちょっとからかい気味に言った。
「オレと毎日会えん様になるから、さびしいんやろー。あはは」
「そんなんちゃうもん」
 軽く睨みながら答えると、大谷はあたしの顔を覗きこむようにして、ニヤッと笑いながら言った。
「だってめっちゃそういう顔しとるで?」
「ちゃうもん」
「ちゃうんかぁーさびしないんかー」
 大谷があんまりしつこく絡んでくるから、あたしはムッとして言った。
「・・・毎日会いたいに決まっとるやん。大谷は違うんやろうけど!」
 言い終わると、あたしは頬を膨らませて、きょとんとした顔の大谷に背を向けて椅子に座った。


 ずっと思ってた。
 大谷は、電話もメールもなかなかしてくれへん。
 けど今までは、それでもかまへんかった。
 さほど気にもしてへんかった。
 学校に行けば大谷がおったから。
 当たり前のように、会って話をして、一緒におったから。


 でも、これからはそうじゃないねんな。
 会いたくても会えない時がきっと増える。
 声すら聞けない時も。
 あたしだけがいつも会いたいんかな。
 大谷はあたしと会えなくても、大したことないのかな・・・


 しばらくの間、あたしらは二人とも黙ってた。
 大谷はあたしの後ろに立ち、あたしは机に向かい、なにをする訳でもなく、ただ机を見ていた。
 あたしのことをすきだと信じてるのに、会えないと思うと不安になるのはどうしてなんやろ。
 こんなんじゃ、これから遠距離突入の、のぶちゃんと中尾っちに笑われるわ。
 でも、しゃーないやん・・・不安なんやもん・・・


「小泉」
 大谷が急にまじめな口調で名前を呼んだから。
 あたしは振りかえろうとして、その瞬間。



 ぎゅっ・・・・・・と。
 いきなり抱きしめられた。
 椅子に座っていたあたしは、大谷に背中から抱きしめられた。



「な、なに・・・」
「おまえほんま、かわいない」
 あたしの声を遮るように大谷は大きな声を出す。
 ていうか、かわいないって・・・なんやねん。それ・・・。
 あたしがちょっと不満に思ったのも、気がつかないかのように、大谷は言い続けた。
「かわいない。かわいない」
「なんなん、それ・・・」
 頬を膨らませて、文句を言おうとするも、大谷はあたしを後ろからぎゅっと抱きしめていたから。
 あたしはなにも言えずにいた。
 大谷の顔は見えんかったけど、背中に大谷を感じて、それがとても心地よくて。


「なー、そんなん考えてたん?」
 あたしを抱きしめたまま、大谷はポツリと言った。
「・・・そんなんて、なによ」
「オレが会いたないとか・・・さあ」
「だって、そうやんか・・・」
 さっきのことを思い出しながら、あたしはふてくされて言った。



「そうやなあ。毎日会うてたけど、これからは難しいやろなあ」

「・・・毎日会いたいに決まっとるやん。大谷は違うんやろうけど!」



「・・・あほ。オレかて同じに決まっとるやろ」
 大谷は静かに呟いた。
「同じ?」
「同じや」
 ぶっきらぼうにそう言いきると、大谷はふぅっと溜息をついた。
「オレは違うとか、勝手に思いこむなっちゅうねん。・・・おまえは、オレのこと信用してへんのか」
 なんだか。
 照れ屋の大谷にしてはすごいこと言うてるのに。
 ずっと後ろから抱きしめられてて、顔がちっとも見れんから。
 なんか信じられない気ーすんねん・・・。
 ううん。たぶん。
 あたしの顔が見えないから、そういうこと言ってくれんのかな。


 ・・・あたしだけじゃないって、そう思ってもええんかなあ。
 毎日声が聞きたい。会いたい。
 大谷もあたしのこと、そういう風に思ってくれてるって、そう思ってもええんかなあ。
 あたしはさっきまでのイライラした気持ちが、少しずつ薄れていくのがわかった。



「でも、"かわいない"のがすきなんやろ?」
 抱きしめられているのがあんまり心地よくて、嬉しくて。
 だから、あたしはちょっと意地悪っぽく言ってみた。
「誰がや」
「あたしの後ろにいるちっこい人が」
「誰を」
「かわいないあたしを」
「そんな訳ないやん」
「そんな訳あるくせに」
 クスッと笑いながら、力一杯言い切ったあたしを、大谷はいままで以上に強く抱きしめて。
「そんな訳ないやん・・・」
 静かにそう言ったから。
 大谷の気持ちが痛いほど伝わってきて。
 だから、あたしを抱きしめている大谷の腕に、そっと触れてみた。
 大谷は一瞬ビクッと反応して、でもすぐにあたしの手も握り締めて。


「小泉の髪って、ええ匂いするねんなー」
 そんな事を言い出すから。
 単純かもしれんけど。
 やっぱりこうしてると、不安なんかどっかいってしまうんやな。
 大谷って、すごいな・・・



あたしたちはお互いなにも言わないまま、気がつけば外はもう暗くなり始めていた。
「・・・大谷ー」
「なんや」
 大谷は相変わらずあたしを抱きしめたまま、少し顔を前に出すようにして、あたしの表情を伺おうとした。
「誰かに見られてるかもしれんよ?」
 クスッと笑いながら、あたしは大谷言った。
「誰もおらん」
「だから、誰が教室に入ってくるか・・・」
「見られてもええやん」
 あたしの言葉を遮って、大谷は言い切ったから。
 なんだかすごく嬉しいような、恥ずかしいような気持ちが溢れてきて。
「ええの?ほんまに?」
 くすくす笑いながら大谷に聞くあたしに、少しふてくされた様に大谷は言った。
「オレがこうしてたいんやからええの」



END



 (2007-9-15)
 

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