ラブ★コン二次創作

□ドキドキ
1ページ/1ページ

 聖子ちゃんが小堀に告白した後。
 オレは小泉と家庭科室に戻って、手作りケーキを食べていた。
「めっちゃうまいでー。小泉にしては上出来やん」
「そらそうや。それ聖子ちゃん作ったんやもん」
 美味しそうにケーキを頬張りながら、小泉はさらっと言った。
「え?おまえかて、手伝うてたやん」
 オレがそう言うと、小泉は右手を差し出しながら言った。
「あたしは、火傷してたから、ほとんど手伝ってへんの」
「でも味見しとったやろ。あと材料の分量とか本で調べてたし・・・」
「まあ、それぐらいは・・・な」
 小泉は舌を出しながら、あははと笑った。


「なー、さっきの二人、うまくいくとええなあ」
「・・・聖子ちゃんと小堀か?」
「そうそう!けっこうお似合いな二人やと思わへん?」
「お・・・似合い・・・かなあ・・・」
 オレはなんと言ったらいいのかわからず、あいまいな返事をした。
「だって、めっちゃいい雰囲気でキスしてたん!人がキスしてるんを見るて、ドキドキするやん」
 そのシーンを思い出しているのか、うっとりした表情の小泉を見てると、オレはあることを思い出して。
「そうともかぎらんけどな」
 少しつまらなさそうに言うと、
「・・・そうなん?」
 小泉は表情を一転させ、きょとんとした顔でオレに聞いてきたから。 
 オレは軽く溜息をつき、頭をかきながら答えた。
「例えば目の前で、自分の彼女が他の男とキスしてたら、ドキドキはせんやろ」
「・・・・・・」


 以前、寝ている小泉に小堀がキスしたのを、オレは目の前で見て。
 それはオレにとっては思い出したくない出来事で・・・。


「別にもう気にしてへん。けど、思い出したくもないわ」
 そう言い切るオレを、小泉はじっと見つめながら言った。
「・・・まだ怒っとる?」
「おまえ覚えてないんやろ。寝てたから」
「そうやけど・・・」
「だったら気にすることないやろ」
「うん・・・」
 オレは小泉の頭をぽんと叩いた。




「「ごちそーさまでしたっ」」
 それなりに量のあったケーキも、気がつけばすっかりなくなり、オレは食器を洗おうと、席を立ち上がった。
「ほら、食べ終わった皿よこせ」
「ええよーあたし洗っとくから」
 小泉は食器を持って立ち上がろうとしたから、オレはその頭を軽く押さえ、
「無理やろ。その手じゃ」
 そう言って、小泉から食器を奪った。
「・・・・・・あー・・・ごめん」
「なんでごめんやねん。怪我人やろ?」
 小泉は食器を運んでいるオレをじっと見て言った。
「大谷は優しいな・・・」
「なに当たり前のこと言うてんねん」
「当たり前なん?」
「オレめちゃくちゃ優しいやん。あははは」
 ちょっと大げさに笑いながら言うと、オレは水道をひねり、食器を洗い始めた。


 オレが食器を片付けている間、小泉は椅子に座って窓の外を眺めていた。
 夕方だからか、昼間とは違い、校舎もどことなく静寂な雰囲気を醸し出していて。
 窓から差し込む夕陽は、静かに小泉の顔や髪を紅く染めていた。
 オレはその姿に、我を忘れて。
 見とれていた・・・。

 ・・・たしか。
 前にもこんな風に小泉を見たことがある。
 記憶の底で、なにか引っかかるものがある。
 あれは・・・

 ・・・・・・夏。
 海。海水浴。そして海坊主ライブ。
 高2の夏、まだ小泉のすきなヤツがオレと知らんかった頃。
 友達と思っていた小泉を、その一瞬、眩しく感じて。

 まさか、その後。
 こんな風に付き合う様になるとは、そのときのオレは思いもせずに。
 でも、もしかしたら。
 自分でも気がついていなかっただけなのかもしれん。
 本当の気持ちに。


 ・・・オレ、鈍いらしいからな。



「・・・・大谷?」
 名前を呼ばれて我にかえったオレを、小泉は心配そうに見ていた。
「・・・な、なに?」
「ボーっとしてたやん、どうかしたん?」
 夕陽のせいか。それともあの夏の日を思い出したせいか。
 オレは、やけに小泉の顔を眩しく感じて。
「どうもせえへん」
 少しぎこちなく、オレは笑った。


 食器を棚に戻しながら、オレは机に火傷薬が置いてある事に気づいた。
 これって・・・もしかして小泉の?
 昨日の火傷、確かに一日で治るわけあらへんし・・・
「・・・おまえ、火傷大丈夫なんか?」
 小泉の隣に腰掛けながら、オレは心配そうに言った。
「あーこんなん2〜3日もすればばっちりやで」
 そう言うと、小泉は火傷した手を元気そうに振ったから。
 オレは思わず、その手をとった。
「・・・大谷?」
「あんまり驚かせんでほしいわ・・・」
 火傷した部分には触れないようにして、オレはその手を包み込むように握った。
「・・・もしかして、心配した?」
「当たり前や。手に痕が残ったら、どないすんねん」
「ごめん・・・」
 真剣な口調のオレにびっくりしたせいか、小泉がシュンとしながら謝るから、
「薬塗ったるわ。ほら」
 そう言ってオレは、火傷した手に薬を塗ろうとした。が、
「だ、大丈夫やて。自分でできるから」
 小泉は少し慌てて、オレの手を振りほどこうとする。
 オレはとっさに小泉の手首をつかんだ。
「なに遠慮してんねん」
「・・・な、なんか、ちょっとドキドキすんねん、こういうの」
 小泉は頬を赤くして、少し照れながら笑った。



 ドキ・・・



 ・・・こいつ、ドキドキするとか、なにかわいいこと言うてんねん。
 付き合うてもうずいぶんたつし、それなりに仲良くもしてんねん。
 キスかて何度もしたし、抱きあったことかてあるやん。
 いまさら、手、握るぐらい・・・
 手、握ったぐらいで・・・ドキドキとか・・・
 ・・・そんなん、ありえ・・・へんやろ・・・



 ドキ・・・



 あれ?
 もしかして、オレ。
 今ドキドキしてる・・・ような、気が。

 小泉の手に触れて、傍にいるだけやのに。
 そんなん、今まで何度もあったことやのに。


 オレは、なにをいまさら・・・



 気がつけば、オレは手を握ったまま俯いていた。
「・・・大谷、どうしたん?」 
 小泉はオレの態度に少し戸惑いつつも、黙ったままのオレを心配して。
 オレを覗きこみながら、不安そうに声をかけてくるから。
 それがいっそうオレを緊張させて。


 ドキ・・・


 ・・・・・・・・・オレ、やばいかも。
 なに緊張してんねん。
 なんでこんなにドキドキしてるんや・・・



 オレは握ったままの小泉の手を見ながら、静かに言った。
「・・・さっき、おまえ言うてたやん。目の前でキスされたん、ドキドキするって」
「言うたけど・・・」
「オレは逆みたいやねん」
 そう言うと、オレは俯いたままだった顔をあげ、小泉を見た。
「え?」
 小泉は目を丸くしてオレを見ていた。


 その顔が、可愛くて。
 触れたいと、オレは思ってしまった。


「だって、見るだけなんてつまらんやん」
 握った手を軽く引き寄せると、小泉はオレの胸に寄りかかる形になった。
「な・・・急にどうしたん・・・?」
「・・・だって、キスする方が絶対ドキドキするやろ?」
 オレの言葉で、小泉のびっくりしていた顔が、少し笑顔に変わって。
「そうなん?」
 くすっと笑いながらそう言うたから、オレは頬に軽く触れて。
「・・・でな?オレ、いまめっちゃドキドキしてんねん」
「そうなんや?」
 少し照れつつにっこり笑う小泉に、オレはドキドキしながら、そっとキスした。




END



 (2007-9-20)

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ