ラブ★コン二次創作・2

□Christmas night
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 12月24日−クリスマスイヴ。


 それは、2ヶ月かかったシロモノだった。
 金色のラッピング用紙に、緑と赤のリボン。
 クリスマスツリーがプリントされたカード。。
 一目でクリスマスプレゼントと分かるそれは、リサが2ヶ月かけて手編みした大谷へのプレゼントのマフラー。
 元来、器用か不器用かといわれたら、不器用に属するリサにとって、それは大仕事だった。
 毛糸の色を選ぶことから始まって、編み棒や編み方の雑誌を吟味、購入。
 さらに編み物が得意な親友・千春ちゃんに助けてもらい、とにかくがんばった。
 そのマフラーが出来上がったのはイヴ当日の今朝。
 決して凝った柄ではないものの、自分なりに精一杯の気持ちを込めて編んだマフラー。
(大谷、喜んでくれるかなぁ・・・)
 寝不足の目を擦りながら、リサはきれいにラッピングされたそれを見て微笑む。
 そして、少し小さめのペーパーバッグに入れると、待ち合わせ場所へと急いだ。


 珍しいこともあるもので。
 リサは、今日に限って待ち合わせ時間よりも前に到着していた。
(こうやって大谷を待つのも新鮮やなぁ・・・)
 そう思いながら、リサの心は逸る。
 今日はクリスマスイブ。
 これから大谷と食事して、その後は、朝まで二人。
 高校を卒業して初めてのクリスマス。
 のぶちゃん曰く「ハレンチ列車」には、少し前に乗り込んだけれど、お泊りデートは初めてで。
 しかも、クリスマスは特別な日。
 いつも以上に、心が弾む。

 待ち合わせ場所は、駅前広場のクリスマスツリーだった。
 道行く人は、誰もがみんな幸せそうな笑顔で。
 今年一番の、雪でも降りだしそうな寒さの中でも、リサは心がポカポカしてくるような気がした。
(早く、来ないかなー大谷♪)
 プレゼントを抱きかかえながら、リサは大谷を待っていた。



「おぅ!ごめん、遅なった〜」
 聞きなれた大谷の声が背後に聞こえて、リサは慌てて振り返った。
 そこには、少し走ってきたのか、息をきらせた大谷が立っていた。
「めっちゃ珍しいやろ?あたしの方が早く来てん」
「ほんまや、雪でも振るんちゃうか」 
「そこまで言うか!」
 そんな会話をしながら、リサはふと大谷の格好に目を留めた。
 首元に、見たことのない・・・・・・・・・・・

「・・・・あれ・・・そのマフ・・ラー・・・」
「ん?ああこれ?」
 大谷はめちゃくちゃ嬉しそうな、少し自慢げな顔をして、マフラーを手にとる。
「前からめっちゃほしかってん。バイト代出たから買うてん」
「へ、へぇ・・・」
 リサは思わず甲高い声で返事をした。
(・・・買った?)
「けっこういい値段やったんけど、触り心地めっちゃええで。色もええ感じやろ?」
「そや・・・な・・・」
 思わずじっと大谷の首元にあるマフラーを見つめるリサを、大谷は不思議そうな顔をして見た。
「ん?どした??オレになんかついてん?」
「へ!?な、なんもないよ!?」
「・・・ならええけど」
 少し納得のいかない顔をしながら、大谷はリサを見た。


 リサは、急に自分の周りから音が無くなってしまったように感じた。
 大谷がなにか話しかけてくるのも、遠い世界のように思えた。
 ただ、リサの目には大谷のマフラーだけが輝かんばかりの光を放って映っていた。


 そうなんや・・・自分でマフラー買うたんや。
 めっちゃ似合うてるやん。
 大谷の趣味やもんな。
 ・・・・・・・・そうなんや。

 リサは無意識に、大谷へのクリスマスプレゼントをぎゅっと抱きしめていた。

 なんや。
 そうやったらはよ言うてくれればよかったのに。
 知ってたら、あたしかて、こんな無理なことせーへんかったのに。
 なーんや。
 そうやったら、こんなん・・・いらんやん。
 あたしが編んだマフラーなんか、もろてもしゃーないわな。
 ・・・手編みの、マフラーなんか。

 そこまで考えて、リサはあることに気がついた。

 ・・・・・・・・ああ、そうや。
 でも、ひとつ問題があるやん。
 クリスマスプレゼントは、これしか用意してへんかった。
 どないしよ。
 今年はプレゼント交換なしとか、そんなん今さら言うたら。
 大谷、怒るやろな。
 『あたしからのクリスマスプレゼント、めっちゃ期待してな?』
 ついこの間、そんなん言うてたのにな。
 プレゼントなしなんて、なんちゅー彼女やねん、あたし・・・。

 なにか話しかけてくる大谷に、ぎこちない笑顔で返事をしながら。
 リサはプレゼントをどうしたらいいのか、そのことで頭がいっぱいだった。


*    *    *    *    *    *    *    *    *    *    *    *    *    

 クリスマス特別メニューの食事を終えると、大谷とリサはホテルにチェックインした。
 そこは、初めてのお泊りデートということで、大谷がかなり奮発して予約した部屋で。
 センスのよい部屋の内装と、窓からの夜景は申し分ないものだった。

 部屋に入ると、大谷は荷物をベッドの上に放り投げた。
「んーうまかったなぁ!」
 そしてリサに笑いかけると、腕を伸ばし大きく伸びをした。
「そやな・・・」
 そんな大谷を見ながら、リサはのろのろとコートを脱ぎ、ソファに腰掛けた。
 その表情はぎこちなく笑ったままで。
 いつもとは違うリサの様子を、大谷はさっきから気にしていた。
 
 なーんか、変な感じやねん。
 メシ食ってる時も、うわの空って感じやったし。
 話かけたら返事はするけど、自分からはなんも話してけーへん。
 オレ、なんかしたっけ?
 怒らせるようなことは・・・しとらんはずやねんけど。

「小泉、なんか飲む?」
「あー・・・うん」
 大谷は様子を伺うように、リサに声をかけてみた。
 が、その返事は心ここにあらずといった感じで。
(・・・やっぱり、おかしい・・・よなぁ)
 そう思いながらも、大谷はグラスにワインを注ぎ、リサに手渡した。
 そして、リサの隣に腰掛ける。
「おまえ、アルコール弱いからちょっとな?」
「・・・・うん」
「「じゃあ、かんぱーい!」」
 そう言って大谷はグラスを傾ける。
 ぎこちなく笑いながら、リサもグラスに口をつけた。

「・・・・なぁ、あのさ」
 ひと口、ふた口とワインを飲みながら、大谷はリサに声をかけた。
 リサは顔をあげる。
 大谷はポケットからなにかを取り出した。
「・・・これ。やるわ」
 そして、小さな箱をリサに押し付けるようにして渡すと、大谷は顔を赤くした。
「あ・・・クリスマス・・・の?」
「開けてみ?」
「・・・うん」
 リサがゆっくりと箱を開けると、そこにはキラリと光る指輪。
 今まで大谷からもらった指輪とは、多分値段の桁がひとつ違う程の・・・。
「これ・・・」
「やっぱり、こーゆうのって男がつけたほうが・・・ええんやろ?」
 そう言いながら、大谷はリサから指輪を取り上げ、リサの左手薬指に指輪をはめる。
 そして、照れくさそうな顔をしながら、ちらっとリサを見る。

 リサは、はめてもらったばかりの指輪を見ていた。
 ただじっとその指輪を見ていた。
 なにも言わず、無言のまま。
 大谷は、そのリサの表情に戸惑った。
 いつものリサなら喜ぶはず、大谷は疑うことなくそう思っていた。
 それなのに、今のリサはただじっと一点を見つめたまま。

 どれぐらい、時間が経ったのだろうか。
 沈黙を先に破ったのはリサだった。
 静かな、消え入りそうな声で、リサは呟いた。

「あたし・・・プレゼント用意できんかった」
「え?」
 大谷は予想をしていなかったリサの言葉に驚く。
 そして、リサの顔を見た。
「ごめん・・・」
「あー・・・別にかまへんけど・・・」
 そう言いながら、大谷はリサにぎこちなく笑いかけた。
(・・・ほんまに、それだけなんか・・・?)
 さっきから気がつかないふりをしてきた気持ちは、大谷の心の中でどんどん大きくなっていた。
(もしかして、ひょっとしたら・・・・・・)
 そして、その先を考えると、大谷は胸が締め付けられるような気がした。
 それでも、目の前にある俯きかげんのリサの額に、大谷はそっと触れ、幾度となく髪を撫でた。
 リサは少しとまどいの表情を見せながらも、ゆっくりと顔をあげた。
 大谷はその頬に触れ、唇に触れようとし・・・・・・・・・・・・。

 そして。
 大谷は気づいてしまった。

 リサの目が、自分を見ていない事に。
 確かに、リサの目は真正面を向いていて。
 その視線の先には自分がいる。
 それでも、リサの目には自分が映っていないとわかってしまった。
 なにか、別のことを考えている。
 唇まで数センチの距離で、大谷は動きを止めた。
 そして、リサをじっと見つめた。



 一方、リサにしてみれば、どうしたらいいのか分からなかった。
 大谷を想って、一生懸命編んだマフラーだけれども。
 あんなに嬉しそうな笑顔で、自分で買ったマフラーを見せてくれた大谷には、どうしても渡す気になれなかった。
 かといって、他にプレゼントは用意していない。
 それなのに。
 
 大谷は自分なんかのために、いろいろとクリスマスの予定を立ててくれていた。
 美味しい食事に、お泊りデートだからと予約してくれためちゃくちゃ豪華なホテル。
 間違いなく大谷のバイト代が数か月分は消えた、プレゼントの指輪。
 どれもこれも、嬉しかった。
 信じられないぐらい嬉しくて、びっくりした。

 けれども。
 その嬉しい気持ちと同じぐらい、自分が情けなくなった。
 大谷の気持ちに何にも応えられなくて。
 プレゼントも渡せなくて。
 大谷が優しくしてくれればくれるほど、そんな自分が惨めに思えて。


 あたし・・・何にもできひん。
 大谷に、応えてあげられん・・・


 そんなリサの気持ちを、もちろん大谷は知る由もなく。
 頭をかきながら立ち上がると、ベッドに腰掛けた。
 リサはハッとして大谷を見た。
 大谷はリサの視線を気にもせず、頭をうなだれながら呟いた。
「あの・・・さ」
「・・・・・・・え?」
 大谷は俯いたまま、膝頭に置かれた手のひらに力をいれた。
 さっきから、浮かんでは必死で打ち消していた考えが、大谷の頭の中でずっとまわり続けていた。

 認めたくなかってん。
 けど、もうそれしか思いあたらへん。
 どうしてそうなったのか、その理由なんて、さっぱりやけど。
 小泉がいつもとちゃうのは。
 やっぱし・・・

「・・・オレと一緒におるの、そんなに嫌やった?」
 俯いていた顔をあげながら、大谷はリサに訊ねた。
 リサはきょとんとした顔をして、大谷の顔をじっと見た。
「や、えと・・・大谷、なに言うて・・・」
 リサは大谷の言っていることがすぐには理解できなかった。
 そのせいか、困ったような表情をしたリサを見ながら、大谷は自嘲気味に笑った。
「・・・まぁ、あれやな」
「おー・・・た・・・に?」
「嫌ならはっきり言ってもらった方が、ありがたいっちゅうか・・・」
 鈍いと言われるリサでも、そこまで言われれば、大谷の言っていることが理解できた。
 しかし、理解できたと同時に、リサは身震いをした。 
(大谷・・・なんか誤解してんやん!)
「ちゃ、ちゃう!そんなことない・・・!!」
 リサは思わず叫んでいた。
 それでも、否定以外の言葉が、リサには咄嗟に浮かばなかった。
 なにから説明すればいいのかわからなかった。

 そんなリサを、大谷は顔をあげてじっと見た。
「だったら、さっきから、なんでそんな顔してん」
「あ、か、顔?だっ・・・から。それは・・・」
 リサが口ごもるのを認めると、大谷はより深い溜息をつく。
「・・・別にええよ。無理やり喜んでもろても惨めやしな。けど」
 大谷はそこでひと呼吸おいた。
「オレ・・・なんかしたんか?」
 決してリサを責める訳でもない、真剣な表情をした大谷の問いに、リサは言葉が出てこなかった。


 あたしが勝手にへこんで、落ち込んでただけやん・・・・。
 だけど、なのに。
 大谷めっちゃ誤解してん。
 どうしよう・・・
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