ラブ★コン二次創作・2

□switch
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「大谷、ちょっとそれ貸して」
「ん?」
「いま脱いだコート」
 きょとんとした顔をしながらも、大谷はリサに自分のコートを渡すと。
 リサは机から、小さなケースに入ったお裁縫セットを取り出した。


 大谷はリサの家に遊びに来ていた。
 お互い試験があったせいで、デート自体が久しぶりで。
 あえて口には出さないまでも、昨日から大谷はデートを楽しみにしていたのだった。


「・・・ボタン。とれかかってん」
「あー・・・うん。まだとれんかなぁ思て、そのままにしといた」
「そんなん言うてると、気がついた時にはとれてるで?」
「そやな・・・」
 妙に慣れた手つきでボタンを留めはじめたリサを、大谷はじっと見ていた。

 なんつーか。
 小泉がこんなんすること自体、ちょっとびっくりつーか。
 新鮮つーか・・・
 ・・・・・・・・・・・・・あ・・・・れ?

 大谷は何度か自分の目を擦る。
 そして、まじまじとリサを見る。
 リサは大谷を気にもせず、ボタンと格闘中で。

 オレ、なんかおかしい。
 ヤバイ病気?
 目がチカチカするよーな。
 ・・・・小泉だけ、なんかやたら眩しく見えんねんけど・・・

 気がつくと、ボタンを留め終わったリサは、お裁縫セットを片付けていた。
 そして、自分をじっと見ている大谷に気がつく。


「・・・ちゃんとできるか心配やったんやろ?」
 コートを大谷に渡しながら、少し得意げにリサは笑う。
「いや・・・そうやなくて」
「顔に書いてんもん」
 大谷の顔を覗きこみながら、リサはニカッと笑った。
「洋服作るとかはあかんけど、ボタン付けたりほつれたん直したりは、さすがにあたしでもできんねん」
「・・・そうみたいやなぁ」
 きちんとボタンを留めてあるコートを見ながら、大谷は言った。


「さぁてと、ほら、ケーキ食べよ!」
 買ってきたケーキをお皿に移すと、リサは大谷に声をかけた。
 大谷はそんなリサの真横にスッと移動すると、ポツリと呟いた。
「・・・・なぁ」
「なに?どしたん・・・」
 大谷はリサの肩に触れるほど近くにいて。
 そのせいもあって、リサは少し照れくさそうな顔をしていた。
「お礼してもいい?」
「お礼?」
「ボタン直してくれたから」
「え?あー・・・そんなん大したことやな・・・」
 リサがなにか言い終わる前に、大谷はリサの唇を塞いでいた。
 時間にして数秒のキス。
 それでも、リサは顔を真っ赤にして大谷を見た。


「な、ど、どうしたん・・・急に・・・」
「んー、お礼」
「・・・お礼て・・・」
「ここまではお礼」
「は?」
 大谷の言葉の意味が分からず、リサは不思議そうな顔をした。
 そんなリサを見ながら、大谷はニカッと笑う。
「で、この後は、オレがしたいなぁ思てるだけやねんけど・・・」
「こ、この後て・・・」
「・・・・・・ダメ?」
 大谷はリサの顔を覗きこむ。
 リサは大谷の吐息を感じ、少し身体を引こうとするも、大谷に肩を掴まれていて。


「まだ下にオカンおるもん」
「すぐ出かける言うてたやん」
「まだ出かけてないーー!」
「じゃあ出かけたらええの?」
「そうやなくて・・・んんっ」


 意地悪っぽい目をした大谷に再度キスされつつ、リサはその腕から逃れようと抵抗した。
 けれども。
 こういう目をしている時の大谷には、どうしたってかなわないのは。
 誰よりもリサがいちばんよく知っていて。

 オカンに見られたらどうすんのよ〜
 それだけは絶対嫌やー!

 そう思いつつも、いつも以上に長くて深いキスに。
 じたばたと抵抗するリサの力は、だんだんと弱まり。
 気がつくと、リサは大谷の胸の中に抱きしめられていた。
「抵抗したって無理やって・・・。あきらめ?」
「だから、いまはアカンて・・・」
「だってスイッチ入ってもうたし。しゃーないやん」
「スイッチって、一体なんのよ!」
「え?言うてほしいん?」
「・・・言わんでもいい」


 嬉しそうに笑う大谷の顔を見ながら、軽く溜息を吐くリサの耳に。
「リサーーー!」
 階下からオカンの声が聞こえる。
「ほな、出かけてくるからー!遅くなるから戸締り気を付けてな。大谷君ごゆっくり〜」

 ああ!オカン!
 そのタイミング絶妙すぎる!

「いってらっしゃーい!」
 大谷はドアを開けて、オカンを見送りにでる。
(なんか、めちゃくちゃ嬉しそうやん、その顔・・・)


「・・・・・・・・ごゆっくりやって」
「なによ」
 ドアをパタンと閉めながら、大谷はニコニコした顔をしてリサを見る。

 そりゃ。
 あたしだってちょっとは期待してんよ。
 せっかく久しぶりのデートやもん。
 二人っきりになれたのなんて、めっちゃ嬉しいよ。
 でも、それだけやないやん。
 色んなことおしゃべりしたり、顔見たりしたいやん。

 けど、そんなん女の子だけなんかなぁ。
 男の子って、まずはそっちからなん・・・?
 大谷は、あたしに会えて嬉しい?
 ・・・ただ、そーゆうことしたいから、嬉しいんだけちゃう?

「なに考えてん?」
 ハッとした時には、大谷の顔がすぐ目の前にあって。
「・・・なんも考えてないよ」
「オレのことも?」
「うん」
 思わずそう返事をしたリサを、大谷は何度か頭をかきながら見た。


「おまえそれは冷たすぎるやろ」
「い、いや、今のはつい口が滑ったといいますか・・・」
「てことは、本音かい!」
「そうやなくて・・・・あーもう」
 言い訳すれば墓穴を掘るリサを見ながら、大谷はふてくされる。


「せっかく誰もおらんようになったのに」
 そして、プイッとリサに背中を向けると、大きな溜息ひとつ。
「ご、ごめんな?機嫌直してな?」
「ええねん、ええねん。どーせ嬉しいのはオレだけやろ」
「嬉しい・・・て?」
 大谷は下がっていた肩をさらに下げる。
 そして、リサに聞こえる様に、再度大きな溜息を吐くと、ポツリと呟く。
「久しぶりに会えて、嬉しくてしゃーないってこと」
「・・・・・・」
 リサに背中を向けたまま、大谷は頬杖をつく。

 大谷も、嬉しかったん?
 久しぶりにあたしに会えて、嬉しかったん?
 なんなんよ。
 そんなん・・・・
 めっちゃ嬉しいやん。

「大谷、ごめんな?」
 背中を見せたままの大谷に、リサは寄りかかりながらそう言うと。
 大谷は首だけ動かして、チラッと後ろを見た。
 そして、リサと目が合うと。
 大谷はそのまま後ろに倒れこむ。
 リサは床と大谷に押しつぶされそうな体勢になって慌てる。


「な、なによ!ちょっと危ないやん!!」
 文句を言うリサを気にとめず、大谷は体の向きを変え。
 気がつけばリサの上に覆いかぶさる体勢になっていて。


「なぁ。嬉しい?」
「急になに・・・」
「ほんまにオレだけ?おまえ嬉しくないん?」
 きょとんとしたリサの顔を、大谷は不安げに見た。

 あぁ、そうか・・・
 あたし、今日言うてへんから。
 大谷と一緒なのが嬉しいとか楽しいとか、そんなん当たり前やけど。
 大谷には言うてへんから。
 だから。たぶん。
 大谷、ちょびっと不安になってもうた・・・?

「大谷こそ、ほんまに嬉しい?」
「なんでや?」
「だって、あたしめっちゃ嬉しいもん。そやから、同じぐらい会えて嬉しいて、思てほしいねん」
「・・・アホか」
「どうせアホやもん」
 大谷はニッコリ笑いながら、リサを見た。
 そして、そっとリサの頬に手をあてると、言った。
「オレのことしか、考えられんよーにしたる」
「・・・そうしてください」
 ぎこちなく笑いながらも、リサはそっと目を閉じて。
 大谷はそのままリサの首筋に、顔を埋めた。



END


 (2007-12-29)

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