ラブ★コン二次創作・2

□好み
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 授業で使った教材を、倉庫に戻すのは・・・学級委員の仕事。
 こんな雑用ばっかりさせられるのは、最初はウンザリだったけど。
 さすがに3年もやってると慣れるもんや。


「じゃあ、この資料とおっきい地図、あとこのダンボール、持ってけばええんですか?」
「おぅ、小泉悪いな。・・・っと、大谷は?」
「あー・・・なんか急用がある言うてました・・・あはは」
 リサはバツが悪そうな顔をして、ぎこちなく笑った。


 帰り際、リサは職員室に呼びだされ、担任のゴリと話をしていた。
 ゴリの机の脇には、資料やらダンボールやらが山積みになっていて。
 要するに、学級委員の仕事として、荷物を倉庫にしまってほしいということだった。

(一人で運ぶのは・・・ちょっとつらいかもしれんなぁ・・・2往復?)
 少しうんざりしながらリサは考える。
(2往復して、倉庫に片付けてたら・・・帰るの遅くなるなぁ) 
 思わず溜息をつくと、リサはすぐ横にマイティが立っているのに気づいた。
「これは一人じゃ運べないね。ぼくが半分持って行くよ」
 ニッコリと笑い話しかけてくるマイティを見ながら、リサは思わず両手を組み、うっとりした表情になる。
「マイティ先生・・・」
 
 やっぱりマイティ先生は素敵や!
 こんなにかっこよくて優しくて。
 やっぱりあたしの理想やなぁ・・・
 ・・・・大谷とは全然ちゃうわ。
 呼びだされてんのに、用事や言うて逃げんねんもん・・・。
 
「じゃあ、行こうか」
 マイティのその言葉に、リサはハッと我に返る。
 そして、2人で荷物を抱えながら、倉庫に向かった。



 数分後-----。
 大谷は職員室に向かっていた。
 部活の顧問から呼び出しをうけたものの、結局はたいした用事でなく。
(こんなんやったら、ゴリの呼び出しに行っとけばよかったわ) 
 そう思いながら、大谷は少し早足で職員室を目指していた。

(小泉・・・雑用やってんかな)
 大谷は教室でのことを思い出していた。
 授業が終わり、帰ろうとカバンを手にしかけた時。
 大谷は部活の顧問から呼び出されたのと同時に、ゴリからも呼び出しをうけ。
 悪いとは思いつつ、ゴリの呼び出しをリサに任せてしまったのだ。
(学級委員としての呼び出しやったから、雑用・・・やな。絶対)
 正直、雑用と思うと気は進まない。
 しかし、リサひとりに雑用を押し付ける訳にもいかない。
 顧問の呼び出しがすぐに終わったのもあって、大谷はリサを手伝おうと職員室に向かっていたのだった。

「・・・失礼しまーす」
「おぅ・・・なんや、今頃きたんか大谷」
「あ・・・いや、おそなりまして」
 職員室に入るなり、ゴリに声をかけられて、大谷は面食らった。
 そして、きょろきょろと中を見渡すも、リサの姿はどこにもなかった。
「小泉なら、荷物運ぶんで倉庫行ったで?」
「倉庫・・・?」
「量があったから、舞竹先生と一緒にな」
「・・・マイティと?」
「ほら、さっさといって手伝ってこい。学級委員」
「はい・・・」
 大谷は職員室を飛び出すと、倉庫に向かった。



 階段を2段とばしで駆け降りると、廊下を左に曲がる。
 その先に、マイティとリサの姿を見つけて、大谷は思わず立ち止まった。
 周りには、他に生徒もおらず。
 楽しげなリサの笑い声だけが、廊下に響きわたる。
 マイティを見るリサの横顔は、心底楽しそうな、目がハートマークになったぐらいの嬉しそうな顔で。
 その顔を見た途端、大谷は顔をしかめた。

(なんやねん・・・あいつ)
 自分がマイティを毛嫌いしていること、リサとマイティが話すだけでハラが立つこと。
 いや、リサがマイティの名前を口にするだけでムッとしてしまうこと。
 それを知っているはずのリサが、こうしてマイティと楽しげな様子でいることに、大谷は苛立った。

 アホみたいな顔して、なに笑ろてんねん。
 あんなん顔すんの、オレの前でもめったにないくせに。
 てか、なんやねん。あの目は!
 ハートマーク出て、めっちゃキモイわ!

 そう思いながら、大谷は廊下を踏みしめるようにドスドスと歩いていく。
 そして、倉庫の前で立ち止まるリサ達に追いつくと、マイティをひと睨みした。
「あ・・・大谷。もう用事終わったん?」
「・・・終わった」
 その、ものすごい不機嫌さを醸し出す大谷の声を聞いて、リサは思わず後ずさりする。
(・・・なに?めっちゃ機嫌悪いんやけど・・・)


「大谷くん。倉庫のカギ、開けてもらえるかな?」
「・・・・・・・・・」
 いつもと変わらぬ口調のマイティから話しかけられ、大谷は無言のままカギを受け取り、倉庫を開錠した。
 その様子を、マイティはニコニコと笑いながら、リサはハラハラしながら見ていた。

「お、大谷・・・あのな。荷物を倉庫にしまわなあかんねん」
 リサはぎこちなく笑いながら、大谷に話しかける。
「さっきゴリに聞いた」
「ほな、これしまうの手伝って・・・ほしいん・・・やけど」
 おろおろしているリサを横目に、大谷はマイティから荷物を受け取ると。
 目を合わさずに、軽く会釈しながら言った。
「荷物、運んでもらってすんませんでした。後はオレらでやるんで」
「はい、じゃああとは大谷くんに任せたから」
 大谷はぶすっとしたまま表情のまま、倉庫に入っていってしまった。
「マ、マイティ先生・・・荷物ありがとうございます」
 リサは申し訳なさそうな顔をすると、マイティにお礼を言った。
「いえいえ、それじゃ、あとは2人で片付けておいてね」
「はい・・・」



 倉庫の中で荷物を片付けながら、リサは大谷の様子を伺っていた。

 ・・・さっきからひとことも口きかん。
 機嫌が悪いのはわかる・・・めっちゃ悪いのはわかるけど。
 でも、あたし何もしてへんやん。

 そう思いながら、リサは頭をポリポリとかく。

 ・・・うーん。
 そりゃ、まぁ。
 なんもしてへん、てことはないのかな。
 マイティ先生と一緒におったのは確かやし。
 で、でもそれだけやん。
 なんでこんなに居心地悪い雰囲気、充満させなアカンの・・・

 リサはふぅと溜息をつく。
 その溜息が聞こえたのか、大谷はポツリと呟いた。

「・・・楽しそうやったな」
「へ?」
 突然大谷から話しかけられて、リサは驚いた。
 大谷は荷物を片付ける手を休めることもなく、独り言のように話しかけてくる。
「さっき。荷物運びながら」
「あ・・・あぁ・・・えっと」
 リサはどう答えたらいいのか分からず、言葉に詰まった。
「別に、オレには関係ないけどな。おまえが誰と楽しくやってても」
「た、楽しくて・・・」
「めっちゃ嬉しそうやったやん。廊下中におまえの笑い声、響いてたで?」
「それは・・・」
 リサの返事もきかず、大谷は急に振り返ると言った。
「こっちは片付け終わったで。そっちは?」
「あ、あと少し・・・」
「ほな、半分よこせ」
「うん・・・」


 大谷は、リサのすぐ横で荷物を片付け始めた。
 リサも片付けをしてはいるものの、大谷が気になってか、なかなか片付けは進まない。
「おまえ、ちゃっちゃとせえよ」
「な、何よ。あたしだってちゃんとやってん・・・」
「手際悪すぎんねん。ほら、それこっちによこせ」
 そう言いながら、大谷はダンボールの中にあるファイルを指差す。
 リサはそのファイルを手渡そうとして。
 ・・・慌てていたせいか足元に落としてしまった。

「なにしてん・・・おまえは」
「ご、ごめん」
 そう言ってファイルを拾おうとしゃがみ込んだリサの手に。
 同じファイルを拾おうとした大谷の手が、触れた。

「あっ・・・」
 リサは思わず手を引っ込める。
 大谷は一瞬動きを止め、リサの顔を見る。
 そして、何事もなかったかのようにファイルを拾うと、棚にしまった。


 ・・・び、びっくりした!
 めっちゃ、心臓止まるかと思た。
 心臓の鼓動が、もしかしたら大谷に聞こえてまうのではないかと思た。
 けど。
 ・・・・・・・・・・・・。
 大谷は、なんもなかったように、片付けしよるんやな・・・・

 『やめんな』
 そう言われたんは、ついこの前。
 『大谷のこと、好きなんやめるから』そう言うたら。
 何度も『やめんな』言われた。
 あたし、めっちゃ嬉しかった。
 大谷があたしのこと、気にしてくれはじめたんかと思て。
 ほんま嬉しかった。

 けど、やっぱり。
 あたしらは、まだまだやねんな。
 大谷は、あたしのこと、そういう目で見てはないんかな・・・
 彼女にするのは『ビミョー』
 あの頃と、なんも変わってへんのかな・・・


「なにぼさっとしてんねん。はよ片付け終わらそーや」
「そ、そやな」
 大谷のその言葉に、リサは我に返ると、何事もなかったのかのように、片付けを再開した。




 2人は何も話さぬまま、片付けは進んでいった。
 気がつけば窓の外は夕陽で赤く染まっていた。
 遠くで聞こえていた部活動をする生徒たちの声も、すっかり聞こえなくなっていた。
 その沈黙を先に破ったのは、大谷だった。

「おまえ・・・」
「・・・な、なによ」
 リサは突然話しかけられたことに驚きながらも、大谷の方に向き合った。
「あの・・・さ」
「・・・・・・」
 少し言いにくそうな顔をしながら、大谷はポツリと呟いた。
「・・・・・今でもやっぱり、あんなんがええんか?」
「は?」
 いきなりの、その言葉の意味が分からず、リサは大谷の顔をじっと見た。
 大谷は思わずリサから目を逸らす。

「あんなんて・・・なに?」
「いや・・・その、だから」
 俯きながら、大谷は頭を何度もかく。
 リサは大谷の顔を覗きこんだ。
「なぁ。あんなんて一体・・・?」
「・・・・・・・・・」
「なに言うて・・・」
 リサの質問に耐え切れなくなったのか、大谷は手をヒラヒラとさせながら、あさっての方向を向く。
 そして、吐き捨てる様に言った。
「・・・・もうええ!いまの忘れろ」
「ええくない。気になるやん!」
「気にせんでええ!」
「なんなんよ、もうー」
 頬を膨らませるリサを、大谷は横目でチラッと見る。
 そして頭をかきながら、溜息をつく。

「なぁ。今のどういう意味なん?」
「おまえもしつこいな!」
「大谷がはっきりせーへんからやん」
「だから!だから・・・」
「・・・だから、なに?」
 リサの真剣な眼差しに、大谷は観念したような顔をして。
 深い溜息をつきながら言った。

「だから!・・・男の好みは変わってないか・・・聞いてん」
「お・・・・とこの好み・・・?」
「ゲームの主人公みたいなんとか・・・」
 リサはきょとんとした顔をする。

 ・・・えっと。
 もしかして。
 それはケイン様のことなん?

「・・・そらまぁ。ケイン様は理想の王子様かな」
「あっ・・・そ」
「あとマイティ先生とか」
「・・・・・・・・・・・・・」
 リサのその言葉に、大谷はムスッとして黙り込む。


 ・・・大谷なんでそんなん気にしてんよ・・・
 そんなん言うたら、あたし単純やから。
 めっちゃ都合のいい考えしてまうよ・・・?

 なぁ。
 なんで、そんなん気になるん?
 あたしの好みのタイプが、なんで気になるん?


「おまえ・・・なんでそんなに笑ろてんねん」
「え?べつに、なんもないよ?」
 大谷とは対照的な、ニコニコした顔でリサは答える。
「てか、大谷こそ、なんでそんなにふてくされた顔してん」
「いつもと変わらんやろ」
「全然。めっちゃムッとした顔してん」
「・・・・・・・・・」
 リサは笑いながら大谷の顔を覗きこむ。
 大谷は不自然な方向を向き、リサから目を逸らす。

「・・・大谷?」
「あんなぁ!言うとくけど・・・」
「ん?」
「おまえの男の好み、めっちゃ悪いな!」
「はぁ?!」

 大谷の横顔が少し赤く見えたのは、絶対に気のせいやない。
 なんやろ。
 なんかめっちゃ、大谷が可愛く見えてしゃーないんやけど・・・。


「大谷」
「・・・・なんや」
「そんなに男の好み、悪いかなぁ、あたし」
「悪いやん。ケインとかマイティとかなんやろ」
 ぶっきらぼうに答える大谷を見ながら、リサはクスッと笑い、わざととぼけた口調で言った。
「でも、それだけやないけど」
「・・・・・・・・」
「他にもいいな思う人おるんやけど」
「・・・・・・・・」
「なぁ。大谷はどう思う?」
 笑いながら話しかけるリサに背を向け、大谷は黙り込んでしまった。


「なぁ、片付け終わったら、お茶でもして帰らへん?あたしおごるで?」
 リサが笑顔でそう言うと、大谷はゆっくりと振り返った。
「お茶?」
「うん。駅前のマクドで」
 リサはニコニコと笑う。
 大谷はそんなリサをじっと見て。そして。
「おごりやったら、付き合ってやってもええで」
 そう言うと、腕を組みながら、少し照れくさそうな顔をした。



END


 (2008-1-7)

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