ラブ★コン二次創作・2

□snow
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 夜8時過ぎ。
 大谷の家に遊びに来ていたリサは、そろそろ帰ろうかと時計をチラッと見た。
 大谷はそんなリサに気づくと、リサの真横に移動し、さりげなく顔を覗きこんだ。
「ど、どうしたん?」
「なぁ」
「ん?」
「まだ、帰らんでも平気やろ?」
「・・・あ、えっと・・・」
 リサは少し口ごもった。
(・・・今日は早く帰るって、オカンに言うてきてもうた)
 大谷は少し不安げな目をして、リサの返事を待っていた。


「・・・今日はそろそろ帰らんと・・・アカンかな」
「そっか」
 あからさまにさびしそうに呟く大谷を横目で見ながら、リサはチクッと胸が痛むのを感じた。
「ほな、送ってく」
「・・・うん」
 それまで2人してギャーギャーと騒いでいたのに。
 それがウソみたいに黙り込んでしまった大谷は、リサから顔を逸らす様にして、勢いよく立ち上がった。
 リサはそんな大谷を見上げる。
(いつも見下ろしてばかりいるせいやろか。大谷を見上げるっちゅうのは、なんか新鮮や)
 そう思いながら、リサは大谷に見入ってしまった。


 大谷は壁にかけてあったリサのコートを手にすると、振り返ってリサに差し出す。
 リサは座りこんだまま、黙ってそのコートを受け取った。
「なに?」
「へ?」
「・・・じっと見てん」
「・・・えっと・・・・・・」
 リサは視線を下に落とし、何度か頭をかく。
 大谷はそんなリサを気にかけながらも、何気なく窓に目をやった。


「それにしても寒いねんなぁ。天気予報で、雪降る言う・・・てた・・・」
 大谷はじっと窓の外を見つめる。
「・・・みぞれ、降っとる」
「ほんまに?」
 リサは立ち上がって窓に近寄ると、窓ガラスに手を当て外を見た。
 さっきまで降っていた雨は、いつの間にかみぞれに変わっていた。
 大谷はリサの後ろに立ち、肩越しに外を眺める。
「すごい大粒やな。夜になったらもっと冷えるし、雪になって積もるんちゃう?」
「そやね。・・・雪が降ってきたら帰れなくなりそうや・・・」
 独り言のように呟くリサを、大谷は背中から抱きしめた。


「雪になればええな」
「え?」
「もっと寒くなって、雪に変わればええな」
「・・・大谷、雪だるまでも作りたいん?」
「ちゃう。そんなんせーへん。てか、それはおまえやろ」
「あたしかて、そんな子供みたいなことせーへんもん」
「そうかぁ?雪の積もった日は、おまえ絶対遊びまくるやろ」
「そ、そりゃあ、少しは・・・遊んだりもするけど」
 ぷぅっとほおを膨らませるリサを、大谷はクスッと笑いながら見た。


「雪が降れば、おまえずっとここにおるかなーて」
「・・・・・え?」
「止むまで、うちにおるやろ?」
「それは・・・」
「・・・そやから、降り続けてほしい・・・思た」
 大谷は目線を下に落としながら言った。
 リサはなにか答えようと思いつつ、うまく言葉が浮かんでこなかった。
 顔を真っ赤にしたまま、黙り込む。


「・・・でも、今日は帰らんと・・・」
 どれぐらい時間が経ったのか。
 リサが小声で呟くと、大谷はリサを抱きしめていた腕を解き、ゆっくりと入り口へ移動する。
 そして、ドアノブに手をかけ、しばらくそのままで動かなかった。


 リサは動こうとしない大谷にそっと近寄り、声をかけようとする。
 その時、大谷がポツリと呟いた。


「ほんまに・・・帰るんか?」


 大谷のその声は。
 いつもよりずっとさびしげな声で。
 リサは胸がキュッと締めつけられるような気がした。


 だから------。



「・・・・・・外、出れへん」
「え?」
「・・・今日のブーツ、ヒール高いねん。足元こわくて出れへん」
「なら、オレの靴貸した・・・」
「そや・・・なくて・・・」
 リサは大谷の言葉を遮るようにして言った。
「雪、積もりそうやから、もう外には出れへん・・・」
 大谷は振り返ると、リサをじっと見た。
 リサは俯いたまま、その場に立ち尽くしていた。


「外出るん、こわいか?」
「・・・うん」
「・・・」
 大谷はなにも言わぬまま、すっと手を伸ばし、リサの髪を何度も梳いた。
 めずらしく髪をまとめていないリサの髪は、かなり伸びていて。
 大谷が触れるたびに、甘い香りを漂わせた。


「帰らんでも、ええんか?」
 リサの髪に触れながら、大谷が訊ねると、リサはゆっくりと頷いた。
「こわいかもしれんで」
「な・・・にが?」
「外に出るより、うちにいる方が・・・こわいかもしれんで」
「えと・・・それは・・・」
 その返事を待たず、大谷はぎゅっとリサを抱きしめる。


「せやけど、オレもう止められへん」
「・・・・・・・うん」
 大谷はリサの顔を見上げた。
 お互いに顔を赤く染めながら、けれどその眼差しはとても真剣で。


 雨はみぞれから、雪へと変わろうとしていた。



END


 (2008-1-13)

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