ラブ★コン二次創作・2

□存在感
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この小説は、rainballさんの小説「高校教師(1) (2)」の設定をお借りした番外編3になります。
なので、先に「高校教師」を読んでいただくと、わかりやすいと思います。

*   *   *   *   *

「あ・・・れ?小泉・・・」
 お昼を少しまわった頃。
 午前中の講義を終え部屋に戻ってきた大谷は、そこにリサがいることに気づき驚いた。

 大谷は今、訳アリで期間限定のひとり暮らしをしていた。
 当然リサは、部屋によく遊びに来ているし。
 合いカギも渡していたので、部屋の中にリサがいることに、なんら不思議はない。
 
 が、リサは今日から、仕事で沖縄まで行くと言っていた。
 雑誌の撮影で1週間近く、沖縄の携帯も繋がりにくい場所に行くと、大谷は聞いていた。
 そして今朝、出発前にメールももらっていた。


「仕事・・・どうしたん?もしかして沖縄行かへんよーになったとか」
 ベッドの上に荷物を放り投げながら、大谷はリサに訊ねる。
 リサはすこし苦笑いをしながら、頭をかく。
「いや、行くねんけど、今日の最終便なん。てか、忘れ物取りに来ただけ」
「そうなん・・・?」
「うん」
「なーんや・・・つまらん」
 大谷がポツリとそう呟いたのを、リサはしっかりと聞いていた。
 そして、クスッと笑いながら、大谷に話しかける。

「なぁ?」
「なんや」
「・・・もしかして、ちょっとさびしいなぁとか思ったりした?」
 そう言って、リサは嬉しそうな顔をしながら大谷の顔を覗きこむと。
「そ、そんな訳あらへんわ!」
 思わず大谷は、反射的に否定する。

 (・・・・・な、なに言うてんオレ・・・)
 いつもの強がり、そうと分かっていても。
 口を吐いて出てしまった言葉は、取り消すことはできない。
「・・・もぉ、なにそれ!そんな力いっぱい否定せんでも」
 そして、リサが笑いつつも一瞬目を伏せたのを、大谷は見逃さなかった。
 それなのに。
 続く言葉はさっきと似たようなモノで。
「ほ、ほんまのことやから、しゃーないやろ」
「・・・・・・・」
「・・・なんや」
「別に、なんもないけど」
「・・・」
「そやな。大谷がさびしがるなんて、ありえんもんな。ほな行ってくる」

 まるで捨て台詞を吐くかのようにして、部屋を出ていくリサのその顔が。
 ちょっと、いや、かなり寂しげだったのは、大谷にもすぐにわかった。
 それなのに結局、大谷は後を追いかけることも、声をかけることもできなかった。


 リサの出ていった部屋の中で。
 しばらくの間、ひとり立ち尽くしながら、大谷は深い溜息をつく。


 ほんまは。
 ほんまは嬉しかった。
 部屋にいるとは思ってなかったのに小泉がおって。
 めっちゃ嬉しくてしゃーなかった。

 なのに。
 それを素直に言葉にできんオレは。
 それどころか憎まれ口までたたいてまうオレは。
 精神年齢ガキそのものやん・・・。

 『ほんまはさびしい』
 そんな簡単なひとことさえ言わずに、小泉とこのまま1週間会えん訳で。
 1週間・・・
 1日が7回イコール1週間。
 ・・・・・・・・・

 大谷はもう一度、深い溜息をついた。


*     *     *     *     *     *

「ただいまー・・・」
 大谷は力なくドアを開けると、暗がりの中で明かりのスイッチを探す。
 部屋の中には、当然ながら誰もいない。


 ・・・最近は、いつも小泉が部屋に来てたから。
 夜に帰っても、明かりが点いてたし、暖房がはいっていて暖かかった。
 けど。
 今日はおらんから、真っ暗で寒い部屋のままや。

 ・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・いや、ちょー待て。
 おかしいやん。
 オレ、めっちゃおかしいやん。
 そんなん、当たり前のことや。
 オレはひとり暮らしやねん。
 小泉はこの部屋に住んでるわけやないのに。


 大谷は考え込んだまま、無意識にリモコンを手にとり、テレビをつけた。
 静まり返っていた部屋が、急にテレビの音で騒がしくなる。
 気がつけば、吉本の漫才コンビがネタを披露していた。
 大谷はそれを、ぼおっと見ていた。


 こいつら。
 この前もテレビ出とったなぁ。
 でも、オチがいまいちやー言うて、小泉が辛口批評してん。
 オレ的にも、確かにいまいちやと思ってんけど。
 今日のはあの時よりマシや。
 小泉も、このオチなら満足するんちゃう?


 そこまで考えて、大谷は首を何度も横に振る。


 ・・・・・・・・・・・いや、だから。
 小泉おらんやん。
 当分帰ってけーへんし、連絡かてとれへんし。

 ・・・・けど、あれやな。
 テレビ見てても、感想言う相手がおらんいうのは・・・。
 なんや、おもろないな。


 溜息をつきながらテレビを消し、部屋の電気も消すと。
 大谷は両手を横に広げて、バタンとベッドに崩れ落ちた。
 そしてうつ伏せのまま、しばらく動かなかった。


 たしかこのベッドって、シングルだったよなぁ。
 なのに、なんでや。
 なんで、こんなに広く感じんねん。

 いつもやったら、ベッドの左側がオレの定位置で。
 右側に小泉がおって。
 ベッドから落っこちへんように、身体縮めて寝なきゃアカンかったのに。


 大谷はゴロンと身体を回転させ、仰向けになって天井を見た。


 だいたい、あいつはろくなもんやないわ。
 人が勉強してんのに、なんやかんやと話かけてくんねん。
 おかげでちっとも勉強すすまれへん。
 オレ、大学でもアホっ子やから、ヤバイねん。

 ・・・せやけど。
 ええとこもあんねん。
 めっちゃいいタイミングで、夜食とか作ってくれんねん。
 それが、けっこう美味しかったりすんねん。


 大谷は真っ暗な部屋で天井を見上げながら。
 出発前に見た、さびしげなリサの表情を思いだしていた。


 小泉はめちゃくちゃ明るくて元気な性格やから、落ち込んでも立ち直りは早いねん。
 けど、だからといって。
 辛さを感じないとか、傷つかない性格というわけでなく。
 むしろ、人一倍落ち込んだり、へこんだり、傷つくことも多い。
 でもって、意外と、いやかなり・・・寂しがりやねん。



『・・・もしかして、ちょっとさびしいなぁとか思ったりした?』



 さびしげな表情のリサと、その直前のリサの台詞が。
 大谷の頭の中を何度もまわる。


 ・・・さびしい思うよ。
 信じられへんけど、2日会えんだけで、もうずっと会ってない気ーする。
 前はこんなことなかったはずやのに。
 なんでやろ。

 ひとり暮らしを始めてから、前よりずっと一緒におれる時間が増えて。
 この部屋の中に、小泉がおるのが当り前というか。
 そんなんに慣れてもうた。
 せやからやろか。

 なのに、それなのに。
 小泉にあんな表情させたオレは、どんだけアホやねん。
 あほすぎて、情けなーなってくるわ・・・

 ・・・・・・・・・・・
 あと、何日やろ・・・・
 あいつが帰ってくんの・・・
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