ラブ★コン二次創作・2

□white breath
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 高校を卒業してから、初めての冬。
 大谷とリサは、2人でスキーに来ていた。
 卒業旅行以来の、久しぶりの大谷との旅行に、リサのテンションはあがりまくりで。
 出発前から、準備に余念がなかった。
 
 リサは、生まれて初めてのスキーデビュー。
 大谷は小さい頃から何度もゲレンデに来たことがあるらしく、スキーもスノボもそれなりの腕前。
 ・・・となれば、コーチは大谷。生徒はリサで。

 しかし。
 リフトに乗り、山の中腹まで来ると、リサは急に緊張し始めた。
(ちょ・・・ちょっとここを滑らなあかんの?)
 目の前に広がるゲレンデは、思っていた以上に急斜面で。
 思わず身体が震えそうになるのを、リサは必死でこらえた。
 とはいえ、身体は正直なもので。
 リフトを降りる段階になると、身体が固まってしまいまともに動かない。
 結局は大谷に支えられ降りることができたものの、最後には転んでしまう有様。
 それでもなんとか立ち上がってスタート地点にたどり着くと。
 大谷は目をキラキラ輝かせて、今すぐにでも滑っていきそうな様子だった。

「小泉ー!行くでー」
「あ・・・う、うんっ」
 思わず返事をしてしまったものの、リサにしてみれば、滑り方なんて何も分からない。
 見よう見まねでスキーを前に進めてみれば。
「ギャ、ギャーーーー滑る滑る!!!!!!」
 ただ一直線に滑り続け、人にぶつかりそうになって。
 とっさによけようとして。
 ・・・その瞬間、転んだ。

「・・・・・・・なんなんよーーーもぉ」
 半べそになりながら、上半身だけ身体を起こすと、目の前に大谷が滑ってくる。
「おまえ、なにしてん」
「だ、だって、あたし初めてやもん!上手く滑れるわけないやん!」
「てか、転ぶ時は尻から転ばんと、怪我するで」
「・・・そうなん?」
「おまえ、ほんまに初心者やな。よっしゃ、大谷先生が教えたる!」
「よろしゅうお願いいたしますーーー」


 ・・・とは言ってみたものの。
 思っていたより難しいと、リサは内心焦っていた。

 なんなん!!?
 みんな簡単そうに滑ってるやん!
 子供かて、スイスイ滑ってん。
 なのに、なんであたしだけ、立つことすらまともにできひんの!?

 転んで立ち上がろうとすれば、足にはめたスキーが邪魔やし。
 滑ってもうて、上手く立てへん。
 文句を言いながらも、大谷は助けてくれる・・・けど。
 なんでスキーに来たんやろ。
 難しくて、楽しむどころやないし・・・


「ほら、帽子、落としてん」
 大谷は転んだ拍子にとれてしまったリサの帽子を拾い上げ、リサに手渡した。
 それは、旅行前に大谷がリサに買ってくれた、色違いのスキー帽で。
 色は大谷がオレンジ、リサは赤だった。
「あ、ありがと・・・」
 上半身だけ起こした状態で帽子を受け取りながら、リサは大谷を見上げる。
 そして、えへへと笑いかける。
「・・・なんや、急に笑いおって」
「べつに〜」

 だって。
 あたしとお揃いや〜とか言うと、いつも嫌そうな顔するくせに。
 この帽子は、大谷が買うてくれてんもん。
 海坊主ライブに行ったときに、たまたま売ってたヤツやけど。
 色違いで同じのやし、めっちゃ嬉しかってん。

 リサは改めて大谷の姿をじっと見る。

 てか大谷、スキーウェアめっちゃ似合っとるやん。
 ・・・ヤバイ。惚れ直してまうかも。
 かっこよすぎや!
 やっぱりスキーに来て正解やったなぁ・・・!

 ほんの少し前まで、スキーなんか・・・そう思っていた自分を思いだしながら。
 リサは渡された帽子をかぶりなおすと、ニコニコと笑った。


*     *     *     *     *     *

 さっきまで真上にいた太陽も、気がつけば山の陰に隠れ始めていた。
 大谷のコーチのせいか、リサのスキーの腕前も少しづつ上達を始め。
 何度も転びはするものの、それなりには滑れるようになってきた。


 そして、今日何度目かの初級者コースのスタート地点で。
 リサは上級者コースへ目をやる大谷に気づいた。
 それは山頂近くにあるコースで。
 子供や初心者で溢れかえっているこのコースとは違い、人もまばらな、難易度の高そうなコースだった。
 リサはちょっとだけ考えてから、大谷に話しかけた。

「・・・・・なぁ、大谷」
「んー?」
「あたし、ちょっと休みたいなぁ思てんけど」
「え?疲れてん?」
「うーん、疲れたのかも。だから、大谷一人で滑ってきてええよ」
「・・・アホか。おまえ一人になるやん」
「へ、平気!あ、ほら、あそこにおるから」
 そう言って、リサはコースの先を指差す。
 そこは、ゲレンデの脇にある、ちょっとした休憩スペースのようになっていて。
 子供たちが、スキーを脱いで遊んだりしていた。

 大谷はリサの指差す方向を見ながら、少し考えた。
「・・・でも、なぁ」
「だって、まだ滑り足りないやろ?大谷」
「うっ・・・・」
「あたしに付き合って、ずっと初級者コースやん。上級者の方、行きたいんやろ?」
「・・・・そりゃあ・・・」
 そんな大谷を見ながら、リサはにこっと笑う。


 さっきから、めっちゃ滑りたそうな顔をして、ゲレンデ見てん。
 そらそーやな。
 あたしの相手なんかするより、ほんまは滑りたいんやろな・・・。
 なのに、あたしの練習付き合ってくれて。

 せっかくスキー場に来たのに。
 思いっきり滑れないなんて、悲しいもんな。
 それに、あたしも見たいねん。
 大谷がかっこよく滑ってるとこ。


「ほらほら、はよ行って!あたしあそこで休んどくからから」
「でも・・・」
「もー、そんなん言うてる間に、時間なくなるで?」
 大谷はポリポリと頭をかいた。
「・・・・・・・・・ほんまにええんか?」
「ええの!でも、後でちゃんと迎えに来てな?」
「当たり前や。てか、ほんまにあそこから動くなよ?」
「はーい。練習しながら休んどくから・・・」
「・・・なら、ちょっとだけ行ってくるわ・・・」
「かっこよく滑るとこ見せてーな?」
「アホか、オレはいつでもかっこいいやろ」
 ちょっとポーズをつけながらそう言った大谷は、本当にかっこよく、リサは胸がドキドキした。




 大谷が行ってしまった後。
 リサは転びつつも、なんとかひとりで休憩スペースまでやってきた。
 そして雪合戦をしながら遊ぶ子供たちの邪魔にならないよう、端に移動すると、そのままバタンと倒れこむ。

 大谷にはあんなこと言うたけど。
 でも、やっぱり。
 ひとりで残されるのは、ちょっと寂しい。
 大体、一度転ぶと立ち上がるだけで、めっちゃ時間かかるし・・・
 スキーってなんでこんなに滑るねん・・・そりゃスキーやからなぁ・・・

 仰向けになったまま、リサはぼーっと空を見上げていた。
 そして、少しウトウトとしかけた時。
 不意に、ガサッと枯れ草を踏みしめたような音が、聞こえた気がした。

(あれ?いまのはなんの音やろ)
 リサは音のする方へと目をやる。
 すると、なにか黒い影が、リサの目の端に入った。
(・・・・・・今なんか動いた・・・気が)

 スキー板のせいで、のろのろした動きながらも、リサはゲレンデ脇まで移動すると。
 そこにいたのは、白いふわふわの、赤い目をした・・・

 ウサギ!?
 うっそ!めっちゃ可愛い!
 ちっこいーーーめっちゃ触りたい!!!

 野生のウサギにリサは目を輝かせた。
 そしてウサギに気をとられて、ゲレンデ脇のロープを無意識に乗り越えたことに、リサは気がつかなかった。

 なんなん!動きがすばしっこいやん!
 それにめっちゃちっさい。
 子ウサギなのかな?
 わー、どんどん先に行ってまう!!

 ウサギを追いかけるようにして、雪の中を進んでいったリサは。
 気がつくとガクンと身体が揺れた気がして。


 ------そのまま、坂道を転がり落ちていった。






 気がつくと、空はもう薄暗くなっていた。
 ゲレンデの音楽が、遠くに聞こえる。
(ここは・・・どこなん?)
 リサはゆっくり目を開くと、周りの様子を確認し、この状況を考えた。

 たしか、ウサギがおったん。
 めっちゃ可愛くて、近寄ってみたら・・・
 急斜面みたいなとこを滑って。

 リサは上を見上げる。
 ゲレンデらしき場所から、いま居る場所まで、高さで10メートルはあるだろうか。
(・・・あたし、ここを滑ってきたん?!)
 リサは思わず身震いする。
 そして、スキー板を付けたままの足に気づく。
(とりあえず、板を外して・・・)
 そして身体を起こそうとした瞬間。
 リサは、全身に痛みを感じ、そのまま動きを止めた。

(ちょ、ちょっと・・・なに・・・)
 暗がりの中、リサは再度、身体を動かそうとする。
 が、やはり全身に痛みが走る。
 無理をすれば動かせる程度とはいえ、雪上に倒れこんだまま、リサは空を仰ぐ。

 ・・・あたし、板つけたまま落ちてん・・・
 なら、変な落ち方したかもしれん。

 リサは痛みをこらえながら起きあがると、頭上にあるゲレンデを見る。
(とにかく!ここにおったらやばいやん。もうすぐ夜や・・・)
 そして、大声で助けを呼ぶ。

「すんませーーーーんっ!!!誰かーーーー!!」
 何度声を張り上げても、返ってくるものはなく。
 響くのは自分の声ばかり。

(・・・おーたに・・・)
 さっきまで一緒にいた大谷の顔が、不意にリサの脳裏に蘇る。
 身体中の痛みと、寒さと、心細さで、リサは身体を震わせた。
 それでも、不安な気持ちを振り払うかのように、リサは無理をして立ち上がる。
(こんな急斜面やし、このまま上には戻れへん。となると・・・)
 リサはゲレンデとは反対方向を見ると、かなり先に、道らしきものがあるのに気づく。
(あそこまでいけたら、なんとかなるはず)
 そして、ゆっくりと坂を下りようとした時。

「おーーーいっ・・・・」

 小さいながらも、リサは人の声が聞こえた気がした。
 リサはその声に反応し、そして自らも声を張り上げて助けを求めた・・・。


*     *     *     *     *     *


 その頃。
 大谷はリサを、必死になって探し回っていた。
『あそこで休んでるから』
 そう言っていた場所に、リサの姿は跡形もなかった。
 無邪気に遊んでいる子供たちも、リサの姿は見なかったと言う。
(どこ行ってん・・・あいつ!)
 苛立つ気持ちを押さえながら、大谷は今夜泊まる予定のホテルに向かっていた。
 スキー初心者のリサが先にホテルへ戻っているとは思えなかったが、万が一ということもある。
 
 ホテルに着くと、乱暴に板を外し、大谷はフロントへと駆け込む。
 それでも、リサはまだ戻ってきていないという。
 思わず舌打ちをした大谷が、不意にホテルのエントランスへと目をやると。


 探していたリサがそこにいた。
 見知らぬ誰かにおぶさりながら。


*     *     *     *     *     *


 ホテルの部屋の中で、リサはものすごい居心地の悪さを感じていた。

 そりゃあ、まぁ。
 たしかに、突然いなくなって、怪我して、大谷に心配かけたあたしが悪い。
 悪いんやけど・・・

 リサは大谷に気がつかれないように、小さく溜息をつく。
 そして、大谷の背中をじっと見つめる。
 大谷はさっきから、ベッドに腰をおろし、頬杖をつきながら窓の外を眺めている。
 リサが何か話しかけても、ろくに返事もせず、振り返ることすらない。
 テレビの音だけが、この場の雰囲気を気にもせず、部屋中に響き渡っていた。


 数時間前。
 坂道を転がり落ちたリサは地元の人に助けられ、宿泊先のホテルまでスノーモービルで送ってもらった。
 全身打撲とショックのせいか、歩き辛そうなリサを見かねて、その人はリサをおぶさってくれた。
 そしてホテルのエントランスに着いた時、そこに大谷がいた。

 その時の大谷の顔は、いままで見たこともないぐらい怒り心頭な顔をしていて。
 そのまま医務室で応急手当をしてもらっている間も、大谷はひとこともリサに話しかけなかった。
 リサを助けてくれた人には、リサの代わりにお礼をし、医務室のスタッフとは、リサの怪我の状態を話し。
 その時はいつもの大谷の態度にもかかわらず。
 リサがいくら話しかけても、一向に返事をしない。

 そして、そのまま部屋に戻ってきたものの。
 大谷はリサと話そうとも、リサのことを見ようともしなかった。


「お、大谷・・・お腹空いてへん?」
「・・・・・・・・」
「そ、それとものど乾いてへん?なんか飲む?」
「・・・・・・・・」
「あーっと、あたしお菓子持ってん。食べよっかなぁ〜?」
 振り返ることのない大谷の背中に向かって、愛想笑いをしながら、リサはバックからポッキーを取り出す。
 それでも、大谷は振りかえらない。


 ・・・せっかくの旅行やのに。
 ほんまやったら、今ごろ楽しくご飯でも食べて。
 仲良う過ごしてるはずやったのに・・・

 なんでやろ。
 なんであたしらって、旅行やといっつも気まずくなんねやろ・・・


「おーたに・・・」
 ちょっとだけ涙声になりながら、リサは大谷の名前を呟く。
 それでも、大谷の返事はない。
「えっと・・・ごめんな・・・さい」
「・・・・・・・・」
「あたし・・・」
 リサがなにか言おうとしたその時。
 大谷は静かに立ち上がると、なにも言わずにドアへと歩いていった。
「ど、どしたん?なに?」
「・・・外、行ってくる」
 そして、ドアをパタンと閉めて部屋を出ていった大谷の後を、リサは慌てて追いかけた。
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