ラブ★コン二次創作・2

□バレンタイン・スペシャル
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 学校からの帰り道。
 リサは大谷の隣を、口数少なく歩いていた。
 喧嘩をしたわけではない。
 現に、大谷はさっきから何度もリサに話しかけている。
 それでも、リサは大谷と話す気にはなれず、当たり障りのない返事をするばかり。

 今日はバレンタイン。
 すきな男の子に、チョコレートを渡して愛を告白する日。
 ・・・けれども。
 
 朝、教室に入った時点で、大谷のロッカーには、既にチョコレートが入っていた。
 さらに、休み時間ともなれば、女の子からの呼び出し数度。
 最初は気にしないふりをしていたリサでも、呼び出しの回数が増すにつれ、不機嫌さを増す。
 しかも、それはほとんどが、本命チョコのようだったから。
 やり場のない怒りが、リサの胸の中に溜まっていく。

 のぶちゃん曰く。
 「卒業が近いからなんちゃう?」
 つまり、バレンタイン=卒業前に告白するいいタイミング。
 そう思った女の子が沢山いた・・・ということらしい。
 けれどもリサは、大谷をすきな女の子が沢山いたという事実に、かなりのショックを受けていた。

 しかも、過去2回、手痛い目にあっているバレンタインである。
 高1の時は、「もらってやる」という言葉を信じ、大谷に手作りチョコレートケーキを渡す。
 ・・・「いらん」その一言で拒否される。
 高2の時は、「チョコレートくれ」の言葉に、気合充分で大谷にチョコレートを渡す。
 ・・・やっぱり「受け取れん」で拒否される。(ただし、その後強引に受け取らせた)
 が、大谷に想いが通じてから、初めてのバレンタイン。
 さすがにリサも、今年こそは大丈夫と思っていた。
 ・・・それなのに。
 今日一日を思い返しながら、リサは溜息を吐く。

 ・・・なんか。
 大谷とはいつも一緒やと思ってたけど。
 いつも隣におったつもりやけど。
 あたしと大谷が付き合うてるって、あんまり知られてないんかな・・・。

 カバンからその姿を覗かせている、すっかり渡しそびれた大谷へのチョコレートを横目で見ながら。
 リサはもう一度、深い溜息を吐いた。


*     *     *     *     *     *     *     *     *

 駅前の交差点で信号待ちをしながら、リサは相変わらず無言のまま、大谷の隣にいた。
 そして、大谷はそんなリサの様子を、不満げに見ていた。

 なんやねん。
 さっきから上の空の返事しかせーへんで。
 オレの話なんか、ちっとも聞いてへんで、こいつ。
 てか、この信号渡ったら、帰る方向、別々になんねんぞ?
 ・・・忘れてんちゃうか?
 今日は何の日だと思ってんねん。

 大谷は、前を見つめて立っているリサの横顔を見ながら、声をかけようとするも。
 結局は、無言のままリサを見つめていた。


 いつもの小泉やったら、こんな時はアホなこと言うて笑ろてんのに。


 それでも。
 この雰囲気に耐え切れなくなった大谷は、信号が青に変わり、歩きだそうとしたリサの腕を掴んだ。
 いきなり掴まれた腕に、リサは一瞬ビクッとしながら、振り返って大谷を見る。
「な、なによ・・・」
 大谷はじっと、リサを見つめていた。
 明らかに不機嫌な顔で。


「おまえ、さっきから、なに怒ってんねん」
「・・・・・・」
「なんでや言うてん」
「・・・大谷の方が、めっちゃ怒ってん気ーする・・・けど」
 強く掴まれた腕と、大谷の不機嫌そうな顔に、リサは少し驚いていた。
「アホか。おまえがさっきから、ほとんど口きかへんからやんけ」
「そんなん・・・知らんよ」
 途端に、大谷はムッとした表情変わる。
 リサは思わず、鞄をぎゅっと抱きしめた。

 だって。
 あんなにいっぱいチョコレートもろてたやんか。
 あたし、一応彼女やねんで。
 そんなん見たら、悲しくなるとか、思わんの・・・?

 黙りこんだままのリサを見ながら、大谷は何度か頭をかいた。
 そして、途切れがちに言った。
「つーか、忘れてる・・・こと、あるやろ・・・」
「・・・なに・・・よ」
「今日・・・」
 ふてくされた顔で、言いにくそうにする大谷を見て、リサはそれがバレンタインのことだとすぐにわかった。
 それでも、今日一日の、学校での大谷の姿がリサの頭をよぎる。
 沢山の女の子から、チョコレートをもらっていた大谷・・・
 それを思い出した瞬間、リサの口を吐いて出たのは、思いもしない言葉だった。
「・・・忘れてることなんか・・・ないもん」
「・・・・・・は?」
 呆気にとられた顔をする大谷を見ながら、リサは大谷に掴まれた腕を振りほどこうと暴れる。

「・・・あたしもう帰んねん。手ー離してよ」
「まだ話は終わってへん!」
「終わったやんか!もー帰る!」
「てか、おまえなんでそんなに怒っとんねん!」
「怒ってへん言うてるやんっ」
「だったら、その顔やめろ言うてん。めっちゃブサイクになっとるで」
「これは生まれつきやっ!」
 大谷の頭を一発どつくと、リサはそのまま走りだす。
 遠くに大谷の叫び声が聞こえるも、聞こえない振りをして、リサはただ走り続けた。


*     *     *     *     *     *     *     *     *

 息をきらせて家に帰ったリサは、部屋に入るとカバンを放り投げてベッドの上に倒れこんだ。
 カバンからは、きれいにラッピングされた小箱がチラッと見える。
 昨日の夜、大谷にあげようと思って作ったバレンタインのチョコレート。
 
 しばらくの間、リサはベッドの上からその小箱を見ていた。
 そして、急に起き上がって、それをカバンから取り出すと、リサは悲しい気持ちになってしまった。
(せっかく・・・あげよう思て、一生懸命作ったのに・・・・・・・)
「大谷のアホーーー!!」
 そう叫んで、リサは小箱をドアに投げつける。
 投げつけた小箱は、たまたまその瞬間、ドアを開けた人の顔に命中した。
 そう。たまたまドアを開けた、大谷の顔に。


「お、大谷、あんた・・・なんでここに」
「いきなり何やねんっ。めっちゃ痛いっちゅうねん!」
 そう言って、大谷は額を何度もさする。
 そこには、命中した小箱の跡が、赤く残っていて。
「・・・ご、ごめん・・・」
「てか、去年も同じことされてんやけど?」
 そう言うと、不機嫌そうな顔をしながら、大谷はリサのすぐ横に腰を下ろした。

 去年。
 チョコレートの受け取りを拒否されたリサは、その箱を大谷に投げつけた。
 その跡はいつまでたっても消えず、事あるごとに文句を言われ・・・

「まさか、ドア開くとは思ってへんかったから・・・」
 そこまで言って、リサはハッとする。
「・・・ちょ、ちょっと!なんで大谷がうちにおんねん!?」
「あー、おまえん家の前におったら、隆人くんが入れてくれたで」
「・・・・・・・・」
 その言葉にリサが唖然とした顔をしていると、大谷は命中した小箱を手にし、興味深そうにそれを観察し始めた。


「なにしてんよ・・・」
「いや、これなにかなー思て」
 大谷は楽しげに笑いながら、小箱とリサを交互に見る。
 リサはそんな大谷の視線から目を逸らすと、大谷に手を差し出しながら言った。
「・・・なんでもええやろ。返してよ」
「オレにくれるんちゃうの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・ちゃう」
「ちゃうんか。てことは、オレ以外の男にやるつもりなん?」
 それまでの笑顔が一変して、急に真面目な顔つきになった大谷に、リサは思わず後ずさりし小声で呟く。
「・・・そ、そんなんや・・・ないけど」
 その言葉を聞くと、大谷は無言のまま箱を開け、中からチョコレート取り出す。
 すると、さっき、ぶつけたせいだろうか。
 チョコレートは割れていて、ハート型ではなくなっていた。
 しかし、それを気にするでもなく、大谷はその中からひとかけらを手にすると、そのまま口にした。
「な、なに勝手に食べてんよ・・・・」
「だって、オレのやろ?」
「・・・・・」
「オレが食べてもええよな?」
「・・・・・」
 大谷の迫力に、リサは思わずコクンと頷いていた。


 そんなリサを見ながら、大谷はニカッと笑うと、右手で手招きをした。
 リサはその意味を分かりかねて、首を軽くかたむけた。
「な、なに?」
「ええから、こっち来てみ」
 有無を言わさぬ口調の大谷に、リサはしぶしぶながらもその隣に移動する。
 大谷の隣にちょこんと腰をおろしたリサを見て、大谷は満足げに微笑むと。
「え・・・?」
 リサの腕を引き、抱きしめるとキスをした。 
 突然のキスに驚き、逃れようとするリサも。
 自分を抱きしめる大谷の腕の強さと、優しいキスに、いつしか抵抗することも忘れていった。
 
 ・・・なんや、チョコレートの味がする。
 いま大谷が食べてた、あたしが作ったバレンタインのチョコレート。



 長いキスの後。
 真っ赤に染めた頬を膨らませながら、大谷をじっと見るリサの頭を、大谷は何度か撫でた。
 まるで子供をあやすかのように、満面の笑みを浮かべながら。
「・・・機嫌なおった?」
「べ、別に、怒ってへんもん・・・」
 そう言いながら目を逸らそうとするリサに、大谷は顔を近づけると、ニコッと笑ってもう一度リサを抱きしめた。
 そして、頭をぽんぽんと軽く叩くと、優しげな口調で言った。

「なーに、怒ってん。言うてみ?」
「・・・・・・・」
「・・・ほら、はよ」
 大谷の言葉も、口調も、態度も、すべてが自分を包み込んでくれるような気がして。
 リサは少し涙目になりながら、ポツリポツリと話しだした。

「だ、だって・・・大谷が・・・」
「オレがどないしてん?」
「あんなに、沢山チョコレートもらってんもん・・・・・・あたしおるのに・・・」
 大谷は一瞬、きょとんとした顔をした。
 そして、少し身体を離すと、リサの顔をじっと見た。
 リサは俯いたまま、大谷と視線をあわせようとしない。
 そんなリサを見ながら、大谷は苦笑いすると、リサの頭を軽く小突いた。
「な、なにすん・・・」
「アホやな」
「・・・へ?」
「・・・ったく、ヤキモチやいてん、ガキやな」
「ヤ、ヤキモチて、誰が・・・」
「ま、たまにはええけどな」
「・・・ちゃうっ!絶対ヤキモチちゃうでっ!!」
 力一杯否定するリサを見ながら、大谷は声をたてて楽しげに笑う。
 そして、ちょっと意地悪っぽい目つきをしながら、リサに訊いてくる。

「へー、ヤキモチちゃうんや?」
「・・・・・・そ、そうや」
「ほな、なんで怒ってたん?」
「それはっ・・・・・・・・・」
 言葉に詰まるリサを見ながら、大谷はもうひとかけら、チョコレートを口にすると。
 真面目な顔つきをして、リサに言った。
「言うとくけど、全部返したで。義理ならともかく本命はアカンて」
「え?」
「本命チョコもろたら、泣くヤツおるからな」
「・・・・それ・・・って」
 大谷はリサの鼻先数センチのところまで顔を近づけると、ニカッと笑った。
「だからな?彼女おるからもらわれへん・・・言うてん」
「・・・・・・」
「なにか、ご不満でも?」
 そう言った大谷の顔は、なぜか勝ち誇ったかのように得意げで。
 思わずドキッとしてしまったリサを抱き寄せると、もう一度キスをしたのだった。



END


 (2008-2-14)

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