ラブ★コン二次創作・2

□熊カレー
1ページ/1ページ

「はい。これ隆人からのお土産」
「・・・わざわざ気ー使わんでもよかったのに」
「あの子、大谷のこと、気にいってんから・・・」
 そう言ってお土産を大谷に差し出すリサの顔は、今ひとつ浮かない表情。
 そんなリサを気にしながらも、袋からお土産の中身を取り出すと。
 大谷はリサの浮かない表情の理由が、なんとなくわかった気がした。

「・・・・・・く・・・まカレー」
「同じ高校やから、修学旅行の行き先も、あたしらと同じやってんて」
「北海道・・・か」


 熊カレー。
 北海道名物、かもしれない。
 ある意味、地元特産品。
 リサはそんな熊カレーが苦手だった。
 もちろん、食べることが、ではない。

 熊カレーを見ると、リサは遠い日の記憶を呼び起こされる。
 もう何年も前のことなのに。
 その後、沢山の幸せな出来事があったはずなのに。
 あの日のことだけは、どうしても忘れられない。


 目の前の、このちっこい人に振られたこと。


 両思いになっても、あの時のことだけは何度も夢に見た。
 大谷は熊カレーを片手に何度も「ごめん」と言い続ける。
 そんな大谷を見ながら、リサは精一杯作り笑いをして。
 気がつくとボロ泣きをしていて。

 いつかまた、あの日のように。
 「ごめん」
 その言葉が大谷の口から出てくるのではないかと。
 どんなに幸せな気持ちに満たされても、リサの心の奥底に眠っている不安が無くなることはなかった。
 そして、その象徴の、熊カレーを見ながら、リサは複雑な表情を浮かべた。



「熊カレーは、嫌いやねん」
「食べたことあんの?」
「そんな訳ないやん。存在自体が嫌いやもん」

 プイッと横を向いてしまったリサを、大谷はじっと見た。
 リサが熊カレーを嫌いだという気持ちは、大谷には痛いほどわかった。
 なにしろ、その理由を作った元凶は自分なのだから。


 あの時、いっぱいいっぱい考えて。
 頭から煙が出そうなくらい考えて。
 そして出した結論。
 それが「ごめん」だった。

 自分は、何もわかっていなかった。
 小泉がどれだけ自分のことをすきだったのかということも。
 自分の中の小泉の存在が、どれだけ特別だったのかということも。

 あの時、「くまーくまー」と泣き叫ぶ小泉を見ながら。
 何度も何度も、自答自問を繰り返した。

 本当にこれでよかったのか?
 もっと他の答え方があったんじゃないのか?
 これから、オレらはどうなるんや・・・


 だから、小泉がその後もオレを好きでいてくれたことに。
 オレは、無意識に嬉しさを感じていて。
 「こいつはオレのこと、めっちゃすきや」
 そう思うと、なぜか楽しくて、面白くて、嬉しくて。

 ちょっとからかうと、すぐに顔を真っ赤にして突っかかってくる。
 キツイことを言ってしまっても、怒りながらオレの傍にいる。
 オレが優しい言葉をかけると、頬を染めて嬉しそうな顔をする。
 それがたまらなく嬉しくて、楽しくて。
 そして安心して。
 同時に、二度とあんな風に泣かせたりせーへんと思うのに。


 それやのに。
 いまでも、熊カレーは小泉の心の奥底で、引っかかってるんやな。


 そりゃ、すきになったんは小泉の方が先やけど。
 いまのオレが、どんぐらい小泉がすきかなんて、きっとこいつには分からへん。
 すきとか、大切とか、大事とか。
 そんなん言葉じゃ言い表せないぐらいの、特別な存在やなんて。



 黙って横を向いたままのリサを見ながら、大谷は少し苦笑いをして。
 手にした熊カレーをぎゅっと握りしめた。
「なぁ、まだお昼食べてへんやろ?」
「うん。だって、一緒に食べに行く言うてたやん」
「ほな、予定変更。これ食お?」
「・・・これ・・・って、熊カレー?」
「そ。2個あるし、ちょうどええやん」
 リサは大谷の顔を凝視した。
 こわばった顔をして、ニコリともしない。

「あたし、いらない」
「なんで」
「・・・それは食べへん」
 その言葉は予想通りだったのか、大谷は返事もせずに立ち上がると、リサの頭をぽんぽんと叩いた。
「なに・・・よ」
「これ、熱湯で温めるんやて。台所でお湯沸かさなアカンやん」
「だから、食べへん言うてるやん」
 リサが少し声を荒げて言うと、大谷は振り返って優しい口調で言った。

「食べよ。一緒に」
「え・・・」
「嫌いやないやろ、カレー?」
「・・・・・・・・・」
「一緒に食べよ」
 言い方はやわらかいものの、いつになく強引な物言いに、リサは少し怪訝そうな顔をする。
 大谷は、口ではひどいことを言ったとしても、リサが嫌がることはしない。
 なのに、今日は・・・。

「それにな・・・」
「・・・・・・・」
 黙り込んだまま不満げな表情のリサに、大谷は話し続ける。
「これ、けっこうネタになる味らしいで」
「・・・え?」
「オレ、友達に買うたことあんねん。で、そいつが言いよるにはめっちゃすごい味やったって」
 大谷の言葉に、リサの目が一瞬キラリと光る。
 大谷はその変化を見落とさなかった。
(やっぱり、こいつとは興味持つポイントが一緒やな)
「ちょっと興味湧くやろ?」
「・・・・・・それ・・は、たしかに」
「ほな、食べよ」
「う・・・・ん」
 しぶしぶながらも頷いたリサを見ながら、大谷はニッコリ笑った。



 しばらくして。
 大谷とリサは、一緒に熊カレーを食べていた。
 最初は味の品評会。
 普通のカレーとは匂いが違うとか、味が違うとか。
 そんなことを散々喋りまくって、笑い転げて。
 笑い疲れた頃、不意に大谷が真剣な眼差しをリサに向けた。

「・・・なぁ。オレやろ?」
「え?」
「熊カレー・・・。おまえが嫌いなのって、オレが理由やろ?」
 そのものずばりな言い方をされて、リサは思わず息を呑む。
「一緒に食べたぐらいで、どーこーなるとは思わんけど・・・」
「どーこーって・・なにが・・・よ」
「おまえの中に、オレとの嫌な思い出が残ってんのは、おもろない・・・」
「大谷・・・」
「オレのこと思いだして、嫌な気持ちになられたない・・・」
「・・・」
 黙り込んだままのリサを、大谷はそっと抱き寄せた。

「お、おー・・・たに?」
「オレ、ワガママ言うてるな。けど・・・」
「・・・・けど?」
「おまえの寂しそうな顔は、見たない・・・」


 オレが思っていた以上に、熊カレーは小泉の心に影を落としていて。
 今日、熊カレーの缶詰を見た時の、小泉の複雑な表情。
 そんな表情させたんが、オレかと思うと、かなりショックやった。

 小泉には笑っててほしい。
 アホみたいに笑ってるのを見てたいねん。
 こんなん一緒に食べたぐらいで、嫌な思い出が消えるとは思われへん。
 けど、熊カレーに楽しい思い出が少しでもできたら。
 嫌な気持ちも薄れていくんちゃうやろか。
 そんな考えは、甘いやろか。

 ぎゅっと抱きしめた腕の中で、小泉はオレを見上げると、
「ごめんな・・・」
 そんなことを言うて。
 けど、微笑んだその顔が、すごく愛しく思えたから。


 ああ、オレ。
 相当こいつにまいってるわ。


 そう思いながら、大谷はリサを抱きしめる腕に、力をいれたのだった。



END


 (2008-2-22)

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ