ラブ★コン二次創作・2

□寄り道
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「なーに、黙り込んでん」
「へ?」
 大谷の家からの帰り道。
 自転車を押しながら歩く大谷の横を、あたしはぼーっとしながら歩いていた。

 夏期講習の課題を、提出し忘れた大谷とあたしは。
 大谷の部屋で、二人で課題をやる事にして。
 ・・・あたしは、そこで美々ちゃんと出会った。


 年下とは思えないぐらい大人っぽくて。
 めちゃくちゃ美人で。
 大谷の家の隣に住んでいて。
 小さい頃から、大谷のことがすきな美々ちゃん・・・・・・・・


「・・・・・・」
 気がつくと、大谷はあたしの顔を覗きこんでいたから。
 あたしは思わず、えへへとぎこちなく笑った。

「・・・おまえ、なんかあったん?」
「え・・・いや、なんもないよ?」
「・・・・・・ほんまに?」
「ほんまにほんま!なんもないで?」
 大谷の疑うような眼差しから逃れるように。
 あたしは早歩きをして、大谷の少し前を歩く。


 なんやろ。
 さっきから、ずっともやもやした気持ちが消えへん。
 大谷と付き合いはじめて。
 大谷の特別な子になれて。
 そんなんで浮かれてたのが、一気に現実に戻されたような気ーすんねん。

 大谷はもてる。
 そんな当たり前のこと、今さらながらに思い知ったような。

 そら、あたしにも幼馴染みたいな遥がおるけど。
 遥と美々ちゃんはちゃう気がする。
 美々ちゃん、あたしの前と大谷の前とでは、態度正反対で。

 ・・・てか、たぶん。
 それだけ、大谷のこと好きなんやな。
 あんな可愛い子なのに。
 めちゃくちゃ一途に、大谷のこと好きなんや・・・。


「・・・小泉」
 それまでとは違う、真面目な口調で名前を呼ばれたから。
 あたしはゆっくりと振り返りながら、おそるおそる大谷を見た。
「・・・ほんま、どないしてん。黙り込んで」
 大谷は自転車を停め、真剣な表情であたしを見ていた。
 その表情に、あたしは思わずおどけた顔をして、笑ってごまかそうとする。

「な、なに言うてん〜。べ、別になんもないよ?」
 そう言ったあたしを見ながら、大谷は軽く溜息をつく。
「・・・・ほな。オレの顔、ちゃんと見れるか?」
 そして、真正面に立つと、あたしの顔をじっと見つめるから。
 あたしはつい、顔を逸らしてしまう。


 大谷に真剣な眼差しで見つめられると、隠し事できひんような。
 何もかも、見透かされてるような気さえ、してきてまう。


「・・・やっぱり、目ー逸らしてるやんけ」
「そ、そうか・・・なぁ?」
「オレに隠し事してんから、目ー見れへんのやろ?」
「そんなんちゃう!ちゃうで?」
「ほんまか・・・?」
「あ、ほら、今日めっちゃ課題やったから。あたし頭ぼーっとしてん。うん」
 慌てて言い訳するあたしの顔は、きっとぎこちない顔をして笑ってたと思う。
 けど、ほんまのことは、言えへん。
 美々ちゃんが、大谷のことすきやなんて。
 それが気になってしゃーないなんて。
 そんなん、言えへん・・・


 大谷は俯いて頭をかきながら、少しなにかを考えてる様で。
 どうしたもんかと思っていると、不意に顔をあげて、あたしに話しかけてきた。
「なぁ、少し寄り道しても平気か?」
「へ?かまわんけど・・・」
「ほな、ついてこいや」
 そう言って連れて行かれたのは、高台にある小さな公園。

 9月とはいえ、まだまだ暑い日が続いていて。
 こんな時間になっても、昼間の熱気が残ったまま。
 明るい間は沢山の人で賑わっている公園も。
 この時間になると、さすがに人影が少なく・・・。
 時折カップルらしい姿が見えて、あたしは目のやり場に困った。
 大谷はそんなことを気にもせず、入り口に自転車を停めると、あたしの方を見てニカッと笑った。

「ここ、オレが小さい頃によく遊んだ公園やねん」
「へー!そうなん?」
「いっつもここで遊んでん。でな?」
 大谷はあたしの手を引っ張ると、そのまま公園の端まで連れて行く。

「小さい頃、ここで遊んでたん?」
「おぅ。家からいちばん近い公園やねん」
「・・・美々・・・ちゃんも?」
 思わず口に出てしまった言葉に、あたしはハッとして口を押さえる。
「は?なんでここに美々が出てくんねん」
「あ・・・そうやねんけど」
 大谷はクスッと笑うと、あたしの頭を軽くぽんぽんと叩く。
「ほんまおまえは、よーわからんわ」
「・・・分からんて。よく、似たもの同士や言われてん」
「似たもの同士ねぇ・・・て、ほら、こっちや」

 うっそうとした木々の中を潜り抜け、大谷に連れて行かれたのは。
 街が一望できるちょっとした空間。
 街の明かりが、宝石のようにキラキラしていて。
 高台の公園から見るその夜景は、ホントにきれいで。

「・・・うわーーー」
「結構すごいやろ?」
「すごいキレー・・・こんな景色見れたんや・・・」
 あたしは瞬きもせず、夜景に見入っていた。
 そんなあたしに、大谷は満足げな声で、話しかけてくる。
「小樽の夜景にはかなわんけどな」
「・・・だって、あそこは観光スポットやん」
「そらそーや。比べるほうが間違ってるわ」
 そう言うと、大谷は声をあげて笑う。

「あそこが学校やろ?で、こっちがオレんち」
「うんうん」
「おまえんちはあそこらへんかなぁ」
 指差しながら、あたしに説明してくれる大谷。
 すごく嬉しそうな顔をしてるから、見ているあたしまで嬉しくなって。

「ここ、オレのとっときの場所やねん」
「そうなんや・・・」
「けど、おまえだけに教えたるわ。特別やぞ?」
 小声で囁いた大谷に、あたしは思わず笑ってしまった。
「あはっ・・・ありがとう」
 その笑い声につられたのか、大谷もあたしにニッコリ笑いかけてくる。
「オレさ、嫌なことあっても、ここくるとアホらしくなるっちゅうか・・・」
「・・・・・・・」
「きれいな景色とか夜景とか、そんなん見てると、気分よくなってくるやん?」
「・・・そうやな」
 そのまま、会話が途切れたあたしたちは。
 ただ、ずっと夜景を眺めていて。

 夏の終りとはいえ、まだ蒸し暑い日だった。
 肌はじんわりと汗ばんでくる。
 この気候の不快指数は、かなり高めなのに。
 こうして隣にいることが、心地よくて。

「なぁ」
「ん?」
「・・・オレ、アカンことしたかなー思て」
 夜景をじっと見つめたまま、大谷が呟く。
「誰が?」
「オレが」
「誰に?」
「小泉に」
「・・・なんで」
「だって、おまえさっき、めっちゃ考え込んだ顔してたやんけ」
 その言葉に、あたしは苦笑いしながら、慌てて答える。
「そ、それは、ほら、勉強苦手やから・・・」
「課題なら終わったやろ。なのに、なんやすっきりせーへん顔しとるいうか・・・」
「うっ・・・」

 ・・・大谷は、なんでもお見通しなんかな。
 確かにそーやねん。
 さっきまで、美々ちゃんのことで、あたしの頭の中いっぱいやった・・・

「ほんまに、大谷のことちゃうで。あたしがぼーっとしてただけやん」
「ほんまか?」
「もーそんなん気にせんといてええから!」
「・・・・まぁ、いま笑っとるからええけど」
「ごめん・・・」
「ごめんてなんやねん。謝るよーなことあったんか?」

 鋭く突っ込んでくる大谷に、あたしは思わず苦笑いする。
 けど、なんかちょっと嬉しいかもしれん。
 あたしのこと、こんなに気にしてくれんの。
 それはやっぱり。
 大谷にとっての特別な子に、なれたから・・・?

 大谷はフッと軽く笑うと、あたしの顔をじっと見て。
「・・・なぁ」
「ん?」
「・・・アカン?」
「なに・・・が?」
「さっきの続き」
 そう言いながらも、大谷の手はあたしの肩に置かれていて。

「さっきのって・・・?」
「部屋で・・・邪魔されたやんけ」
「・・・・・・あ。美々ちゃん・・・に?」
「ここなら邪魔入らん」
「・・・そ、そうかもしれんけど」
「やろ?」
 あたしは胸がドキドキするのを感じながら、少し上目遣いに大谷を見て、にこっと笑う。

「もしかして、そんなん考えて、ここまで連れてきたん?」
「・・・そーかもしれんな」
「あは・・・・は」
 優しく頬に触れる大谷の手は、少し震えている気がした。
 照れくささをごまかすかのように、あたしはえへへと笑いながら少し背を屈める。
 そして、静かに目を閉じると。
 熱を帯びた唇が、そっと重なった。



END


 (2008-3-24)
 

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