ラブ★コン二次創作・2

□はっぴーばーすでい
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 3月25日は、オレの誕生日。
 だった・・・はずやねんけど。
 朝起きてから、目の前のこいつは、一向にその話題に触れようとせんで。

 いつものように朝メシを食べて。
 仕事に出かける準備をして。
 去年やったら、『外で食事でも食べよー』なんて言うてたのに。
 その前の年は、朝起きたら『おめでとー』言うて抱きついてきたのに。


 今年は、普段と全く変わらん・・・


「今日・・・ちょっと遅くなるかもしれんけど」
 ネクタイを締めながら、大谷は様子を探るようにリサに話しかけた。
 けれども。
「あーそうなん?仕事?」
「職員会議あんねん。夕方から」
「そうなんや。あたしも今日は忙しいから、残業かも」
「・・・残業・・・?」
「うん、ほら、いま撮影の準備でめっちゃハードやねん」
「・・・ふぅーん」
 いつもと変わらない会話。


 出勤時間が近づいたからか、リサは玄関先で慌しく準備をする。
「今日現場やから、楽な靴、履いてこー♪」
 そう言ってスニーカーを履き、バタバタと出かけようとして。
 リサの動きが、一瞬止まる。
 そして、大谷の方を向く。


 ・・・ほら、やっぱり。
 今日が何の日か、ちゃんと覚えてんやん。


 そう思ったのもつかの間。
「ほな、いってくるなー!」
 明るくそう言ったリサの言葉に、大谷の顔は呆然としていた。


 まさか・・・とは思うねんけど。
 本気で忘れてん?
 いやいや、リサに限ってそんな・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・・・・・

*     *     *     *     *     *     *

「・・・ただいまー・・・」
 夜9時過ぎ。
 大谷は真っ暗な部屋のカギを開けて、中に入った。


 もしかして、わざと暗くして待ち構えてたり・・・
 そんなん頭に浮かんでんけど・・・
 やっぱり誰もおらんやんけ。

 誰もいない部屋。
 真っ暗な部屋。
 そういやあいつ、今日は残業かも言うてたな。


 電気をつけ、テレビをつけると、大谷はソファに腰掛ける。
 そして、ニュース番組を見ながら、ただぼんやりとリサのことを考える。


 別に、祝ってほしいとか、そんなんとはちゃうけど。
 ただ、なんつーか。
 すきな男の誕生日ぐらい、普通、覚えてるよなぁ?
 ・・・・・いや。
 それは墓穴やな。
 オレ、あいつの誕生日、忘れたことあったもんな。
 思いっきり忘れてて、めちゃくちゃ焦ってん。


 ・・・・・・・
 あの時、あいつも。
 こんな気持ちやったんかな。


 それとも。
 もしかして、やけど。
 あいつは、もう興味ないんかな。
 オレのことなんか、どーでもええんかな。
 つーか、オレ何やねん。
 誕生日忘れられたぐらいでへこむとか、情けないっちゅうねん。


 大谷はビールをゴクゴクと口にしながら、時計をチラッと見る。
 11時半・・・


 ・・・ちょー待て。
 なんでこの時間でも、まだ帰ってきてないねん。
 いくらなんでも、遅いやろ。
 今までも、遅くなるのはしょっちゅうやったけど。
 必ず連絡してきてん。
 けど。
 今日なんて、一回も携帯かかってこんで?


 大谷は携帯を手にとり、着信を確かめる。
 が、リサからの着信記録はない。


 ほんま、なにしてんねん。
 連絡もできひんて、今までなかったやん。


 ふと、大谷の脳裏に、さっき見たニュースが蘇る。
 『帰宅途中に、女性襲われる』
 そういや、あの現場ってここから車でいける距離やったな。
 ・・・・・・・・・犯人、捕まっとらん言うてたし。
 背ーは高くても、あいつ女やん。
 一人で歩いてたら、変なのに目ーつけられる・・・ことかて・・・


 ・・・・・・
 ・・・なんかあった・・・から、連絡できひん・・・?


 大谷は思わず身体をぶるっと震わせると。
 携帯を片手に、部屋を飛び出そうとして。
 玄関先にちょこんと置かれた、女物のスニーカーで目がとまった。


 ・・・これ。
 たしか・・・あいつ、今朝履いてた・・・
 ・・・・・・・・・・
 ということは・・・


 大谷はテレビを消して、リサの携帯を鳴らす。
 部屋のどこからか、かすかにバイブの音が聞こえる。


 ・・・うちん中におる!


 バスルーム、トイレ、寝室、台所。
 家中かけまわって、最後にたどり着いたクローゼット。


 やっぱり。
 ・・・中から、バイブの音がする。


 大谷は勢いよくクローゼットを開く。
 すると、その中に。
 気持ち良さそうに熟睡している、リサがいた・・・。



「・・・おまえ、なにしてん」
 肩を軽くゆすりながら声をかけると、リサは寝ぼけ眼で大谷を見る。
「んー・・・?」
「なんでこんなとこおんねん」
「・・・えー・・・・・・・・・・・・・・あぁ!!」
 両頬を手で押さえながら、リサは泣きそうな顔をして大谷を見た。
「な、な、なんで大谷ここにおんねん!!」
「なんでて、ここオレん家や」
「そうやなくて!い、いつ帰ってきたん?」
「もうずいぶん前。てか、おまえここで何してん」
「何・・・というか・・・・あの」
「心配させんなや。連絡ないし・・・・・なんかあったかと思た」
 力が抜けたのか、へなへなと座りこむ大谷を、リサはきょとんとした顔で見た。

「えと・・・大谷?」
「頼むから、家の中でかくれんぼとかせんといてくれや」
 そう言いながら、大谷は腕を伸ばして、リサを抱き寄せる。
「ちょ、ちょっと・・・」
「心臓壊れるかと思た。なんもなくてよかったわ・・・」
「大谷・・・あの。もしかして、心配した?」
「・・・した。めちゃくちゃした」
「ごめ・・・ん。あの・・・な?」
 リサは少しバツが悪そうな顔をしながらも、手に何かを持つ。
 そして。

「大谷」
「・・・なんや」
「はっぴーばーすでいっ!」
 大きな声でそう叫ぶと、手にしてたクラッカーを派手に鳴らす。

「・・・・・・・」
 大谷は目を丸くしながらも、言葉が出てこない。
 そんな大谷を見ながら、リサは得意げな顔をした。
「えへへ。驚かそう思て、隠れてたん!」
「・・・・・・・」
「何びっくりした顔してん!でな?これ誕生日プレゼント!」
 クローゼットの中から、リサは大きな包みを取り出す。
「ほらほら、開けてみて?」
 リサに言われるままに、大谷がその包みを開けると。
 中から、出てきたのは黒い革のバック。


「大谷、学校で使えそうな、しっかりしたバッグ、あったらええなー言うてたやん」
「言うたけど、これめっちゃ高いやろ・・・」
「でも、欲しかったんやろ?」
「うん・・・ありがとうな」
 大谷の返事に、リサは顔を輝かせて喜ぶ。
「よかったーー!大谷がいま一番欲しいもの、いまいちわからんくて、めちゃ悩んでん」
「え?」
「でも、このバッグ、何度もネットでチェックしてたやん。だから、これや思て。あたしの推理、大正解や!」
 満足げな顔をして喜ぶリサを見ながら、大谷はポツリと呟く。
「・・・・忘れてんかと・・・思ってた」
「へ?」
「今日・・・なんも言うてなかったから。覚えてへんかと・・・」
「うふふ〜だって、サプライズバースデイにしたかってん。言うたらつまらんやん」
「サプライズ・・・?」
「あ、もしかして、ちょっと不安にさせてもーた?」
「・・・べ、別に不安になんか・・・ならへんわ」
 少しふてくされたような顔をしつつも、大谷はふぅと溜息をついた。

「でも、喜んでくれてよかった!何度も探りいれてんけど、大谷の欲しいもの掴めなくて・・・」
「・・欲しいもの?」
「うん。結構前から気にしてん。けど、いまいちわからんくて・・・」
「・・・そっか」
 大谷はクスッと笑うと、プレゼントのバッグを床に置いた。
 そして、リサに近寄る。

「確かにバッグはめっちゃ欲しかってん。けどな?」
「けど?」
「・・・これだけじゃ足りひんな」
「え?」
「どーしても欲しいもんが、あんねん」
「そ、そうなん?でも、ごめん・・・それしか用意してへん・・・」
「・・・そんなことはないで」
「は?」
 リサはきょとんとした顔で、大谷を見る。
 大谷はなぜか自信満々の顔をしている。


「ほんまはな。オレ、それがあれば、他はなんもいらんねん」
「そんなに・・・欲しいものなん?」
 大谷は笑いをかみ殺しながら、リサを見る。
「ほんまにおまえ、鈍すぎ」
「な、なに言うて・・・」
「オレがどーしても欲しいんは」
「欲しいんは?」
「・・・目の前にあんねんけど?」
「・・・・へ?」
 リサはしばらくその言葉の意味を考え。
 しばらく考えてから。
 頬を赤く染め、大谷におそるおそる訊いてくる。

「それって・・・もしかしてなんやけど」
「やっとわかってん?ほんま鈍すぎ」
 少し呆れたように言う大谷を見ながら、リサはあははとぎこちなく笑った。
「あ、いや。えと、明日の朝、早いねん」
「そうなんや」
「そ、それに平日やん!仕事で疲れたやろ?大谷、遅くまで会議だって言うてたやん」
「そりゃ疲れたけど、それとこれとは話が別やし」
「・・・も、もう12時過ぎてん」
「ちょうどいい時間やなぁ」
「・・・・・・寝不足は、お肌の大敵やし?」
「さっきクローゼットの中で熟睡してたやろ」

「・・・・・・大谷、あ・・・」
「あんな?」
 大谷は何か言うのを遮るように、リサの唇を人差し指で押さえる。
「プレゼントは、黙っとけや」
「・・・・・・」
「オレの、どーしても欲しいプレゼントなんやから」
 そう言って大谷がリサにニッコリと笑いかけると。
 リサは照れくさそうに笑って。

「ほな、プレゼントもらうで?」
 そして、その大谷の言葉に、コクンと頷いた。



END


 (2008-3-25)

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