ラブ★コン二次創作・2

□step by step
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 大谷の部屋で、夕食を食べた後。
 リサは大谷が買ってきた音楽雑誌を読んでいた。
 それは海坊主の記事が載っている雑誌で。
 ニューアルバム発売の記事が、大きく扱われていた。

「なぁ!!海坊主のアルバム、めっちゃ楽しみやなぁ!!!」
「当たり前やっ!前のが出てからずいぶん経ってんもんなぁ・・・めっちゃ期待や!」
 ハイテンションなまま、リサは大谷に話しかける。
 大谷もかなりゴキゲンな様子で、リサの読んでいる雑誌に目をやると。
 普段の大谷からは想像しにくいほど、嬉しそうで楽しげな顔をする。
「絶対買わなアカンな!」
「アホ!そんなん当然や!てか、もうすでに、今日の帰りに予約してきてん!」
「えーーー!!マジで!?」
「マジや!先着10名様、海坊主グッズプレゼントキャンペーンやってたしな!」
「うわーーーーええなぁ!てか、なんであたしに教えてくれんかったん!!」
「へ?」
 大谷は、それまでのハイテンションから、急にきょとんとした顔付きに変わった。
 リサはそんな大谷の変化に気がつかないまま、話し続ける。

「だから!なんで予約した時、連絡くれへんかったん!」
「・・・なんで連絡せなあかんねん」
「だって、あたしの分も、一緒に予約してほしかってん!海坊主グッズもらえるんやろ!?」
「・・・それは、そうやけど」
 そこまで言うと、大谷は黙り込んで、頭をポリポリとかいた。
 そして、大きく溜息を吐くと、ポツリと呟く。

「・・・買わんでええんちゃうか」
「は?」
 その言葉に、リサは一瞬、ポカンとした顔をした。
 そして、すぐにまじまじと大谷を見る。

 ・・・・えと。
 いまのは、どういう意味やねん?
 『買わんでええ』て、言うたよな?
 てか、なに言うてん。
 海坊主のアルバムやで?
 あたしがめっちゃ海坊主スキーやって、大谷知っとるよな?
 せやのに、買わんでええて?
 あたし、買うに決まっとるやんな?!

「・・・えと、あたし海坊主すきやし」
「知っとる」
「アルバムだって、インディーズの頃のはそんなに持ってへんけど、最近のは全部買うてるし」
「そやな」
「ライブだって一緒に行ってるやん?」
「そらそーや。海坊主みたいなん、オレら以外にすきっちゅうヤツは、めったにおらへん」
「せやったら」
 そう言うと、リサは大谷にぐっと近づき、上目遣いに見つめる。
「なんで、アルバム買わんでええの?」

 大谷はそんなリサに負けじと見つめ返すと、少し強い口調で言う。
「つーか、なんで買う必要あんねん」
「だって!あたしだって聴きたいやん!」
「聴けばええやん」
「だから!聴きたいから、買う言うて・・・」 
 リサの言葉をそこまで聞くと、大谷は再度、軽く溜息を吐く。
 そして、少し呆れた顔をしながら、リサに言う。

「買わんでもええやろ」
「・・・なんで」
「だってなぁ。おまえ最近、実家帰ってへんやろ」
「うん・・・」
「てか、おまえの家、こっちのようなもんやんけ」
「・・・・・・」
「せやったら、同じの2枚あってもしゃーないやろ」
 リサはなにか言いたげな顔をして、大谷をじっと見つめていた。
 大谷はそんなリサから視線を逸らすと、テーブルの上にある雑誌を手にとり、落ち着かない感じでぱらぱらとめくる。


 大谷は就職をすると、独立してひとり暮らしを始めていた。
 当然の如く、リサはその部屋に入り浸りになり。
 気がつけば、そこから仕事に通うようになっていた。
 リサの生活の基盤は、ほとんど大谷の部屋に移したも同然の状況だった。


「てか、おまえに言っとかなアカンことがある」
 雑誌を弄る手を急に止めると、視線はリサと合わせないまま、大谷は話し出す。
 リサはビクッと反応して、思わず背筋を伸ばした。
「アカンことて・・・なによ」
「だから・・・な」
 大谷は一瞬、言いにくそうな顔をしつつも、すぐに覚悟を決めたかのように表情を引き締めた。

「近いうちに、行こう思てる」
「・・・ど、どこへ行くん?」
「おまえの実家」
 真剣な表情で、少し頬を赤く染め、大谷は言った。
 が、その言葉に、リサは小首をかしげた。
「・・・・なんで?」
「なんでて・・・前から思っとってん」
「・・・・前からて?」
 大谷は溜息を吐きながら、リサに言う。

「おまえ、ここ数ヶ月、ほとんど実家に帰っとらんやんけ。さすがに親かて心配するやろ」
「あーそれは平気。大谷のこと、うちの親ってばめちゃ信用してんから。平気平気!」
 ニコニコしながら『平気』を繰り返すリサの頭を、大谷は軽く叩く。
「アホか!平気なわけないやろ。ちゃんとせなアカン」
「・・・ちゃんと?」
「こんななし崩し的に、一緒に暮らすのはやっぱりアカン。つーかオレは、そういうのはすかん」
 腕を組みながら、大谷は軽くリサを睨み付ける。
「せやかて・・・そんなん急に言われても・・・」
 両手の人差し指を突き合いながら、リサは俯いて独り言を呟く。

 ・・・・・・・。
 大谷は、やっぱりこんなんアカンて、言いたいんかな。
 結婚せーへんで、同棲みたいになってんの、アカンのかな。
 しばらく来るなとか、そんなん言われたら・・・・
 ・・・・・・そんなん嫌や・・・な。
 けど・・・


「だから、な」
 大谷はそう言うと、ニッと笑って俯いたままのリサを見た。
「一緒に暮らす言うて、ちゃんと挨拶しに行きたいねん」
 その言葉に、リサはハッとして顔をあげる。

「・・・・・・・・・・挨拶?」
「そーや。なんも言わずにダラダラするのはアカン」
「挨拶て、誰に・・・?」
「誰にて・・・おまえ、オレの話聞いてなかったんか?」
「き、聞いてたよ!けど・・・」
 大谷はおろおろとするリサを一瞥すると。
 ひと呼吸おいて、それからひと息で言った。
「おまえの親に一緒に暮らすて挨拶しに行く」

「お、大谷・・・そんなん考えてたん?」
「当たり前やろ。オレは真面目な男なんやから」
 そう言いながら、大谷はリサの頭をぽんぽんと叩く。
 するとやっと状況が飲み込めたらしいリサが、照れくさそうに笑う。
 大谷はそんなリサを見ると、思わず腕を伸ばし、そっとリサを抱き寄せた。

「・・・なんや、文句あるか?」
 ぶっきらぼうに大谷がそう言うと、リサはえへへとぎこちなく笑って、大谷を見上げる。
「・・・なぁ。ほんまにええの?」
「ええって、なにがや」
「だってうちの親、めっちゃ誤解するかもしれんで?」
 少しバツが悪そうな顔をするリサを見ると、大谷はニッコリ笑いかけた。
「誤解てなんや」
「・・・そやから・・・今後のこととか・・・」
「誤解されて困るようなこと、なんもないやんけ」
「・・・・だって」
「てか、遅すぎた感あるけどな。ほんまはもっと早よいこう思ってん」
「おーたに・・・」
 そう呟くと、リサは大谷の胸に顔を埋めた。
 大谷は少し顔を赤らめながらも、リサの髪を幾度となく撫でると。
 耳元で囁くように言った。
「誤解されたら嫌か?」
「へ?」
「オレ、ちゃんと考えてるで。その先のこと」
「大谷・・・」
 リサは大谷の顔を見上げようとするも、大谷に強く抱きしめられて動くことができなかった。
 それでも、抱きしめる腕の強さから、大谷の想いが伝わってくる気がして。
 リサは、その胸の中で幸せそうに微笑む。

「なぁ、大谷」
「なんや」
 リサは自分の腕を大谷の背中にまわし、ぎゅっと抱きつくと、静かに呟く。
「・・・ちゃんと考えとってくれて、ありがとう」
「・・・・・・・」

 大谷はリサから少し身体を離すと、その顔をじっと見た。
 嬉しそうな笑顔のリサとは対照的に、大谷の顔は少し困ったような複雑な表情で。
 そして、ふぅと息を吐きながら、独り言の様に呟く。
「てか、おまえずるいわ」
「へ?」
 大谷の言葉に、リサはきょとんとした顔をする。
「こんな状況でそんなん言われたらなぁ」
「言われたら?」
「我慢できひんよーになんねん」
「・・・・・え・・・?」
 その言葉に返事をしようとしたリサの口は、大谷の唇で塞がれ。
 抱きあったまま、二人は床に倒れこんでいった。



 そして、仲良くした後。
 リサは大谷に抱きしめられながら、ハッとして声をあげた。
「大谷・・・どないしよ」
「・・・なんや、急に」
「いま気づいてん。やっぱりアカンよ」
「は?アカンてなにがや・・・」
「海坊主のアルバム、やっぱりあたし買わんとアカン」
 大谷は思わず拍子抜けしたような顔をした。
「なにを急に言いだしたかと思えば・・・。わざわざ買わんでもええて言・・・」
「だって、あたしが買わんかったら、売り上げ減ってまうやん!」
「へ?」
「ただでさえファン少ないのに、あたしが買わへん様になったらアカン!」
「・・・・・・・そ、そやな」
 大谷はククッと笑いをこらえながらも、いつしか耐えることができず、吹き出してしまったのだった。



END


 (2008-4-17)

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