ラブ★コン二次創作・2

□ライブの後
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 ベッドにゴロンと横になりながら、リサは左手を高くあげた。
 薬指にキラリと光るもの。
 それはついさっき。
 海坊主ライブでのハプニングで、大谷がくれた二十歳の誕生日プレゼント。
 リサは何度も指輪の角度を変え、飽きることなくその指輪を見続けていた。


 海坊主ライブの後。
 大谷とリサは、二人きりの夜を過ごしていた。
 こうして夜を過ごすのは、初めてではないものの。
 なぜかこそばゆいような感じがして、いまだにリサは慣れなかった。
 おまけに、さっきから遠くに聞こえる水音も、照れくささに拍車をかける。
 それは、大谷がシャワーを浴びている音だった。


 気がつけば、もう4回目だった。
 付き合い始める前、高2の誕生日から、毎年ずっと大谷はリサの誕生日を祝っていて。
 その度に、リサは心の中でひそかに願っていた。
 来年も、再来年も。
 ずっとずっと、こうして一緒に誕生日を過ごせますように。
 お互いの誕生日を、お祝いできますように。


 薬指の指輪を眺めながら、リサはしみじみと幸せをかみ締めていた。
 ・・・が、急にリサは考える顔つきになって、勢いよく起き上がると。
 がさごそとカバンを漁り、その中からなにかを取り出した。
 それは、初めて大谷からもらった、すこしくたびれたウサギの指輪。
 それをそっとベッドの上に置くと、リサは薬指にある指輪を外し、その隣に置く。
 ベッドに二つ並んだ指輪を見ながら、リサはえへへと笑った。


 形あるモンほしいとは思てたけど。
 ほんまにもらえるとは思わんかった。
 しかも指輪・・・


 リサは指輪に顔を近づけて、飽きることなく見つめ続けていた。
 今日もらったシルバーの指輪は、幅が太すぎず細すぎず。
 シンプルなデザインながら、少し大人っぽい雰囲気を漂わせていた。
 それは、隣にある指輪が子供っぽいからなのか。
 それでも、リサにとっては両方とも大切な、そして大事な宝物で。


「・・・ん?」
 指輪から目を離そうとしないリサは、不意にあるものに気づくと。
 指輪を目の前まで持ち上げ、その内側を目を凝らして見た。


「・・・・・・・文字?」


 一瞬、キズでもつけてしまったのかと思って、リサの顔は青ざめたものの。
 すぐにそれが文字だという事に気づき、指輪を持ったまま立ち上がる。
 そして、蛍光灯の下で目をゴシゴシと擦ると、目を凝らして、指輪の内側にある文字を読む。

 そこには。



 " A to R "



 たったそれだけの、短い文字。
 それでも、リサはただじっと、その文字を見つめ続けた。


 初めて指輪をくれた後。
 『ハズイ』
 そう言ってた大谷。
 だからやろうか。
 それ以来、形の残るプレゼントはほとんどなくて。
 そんなもんやと、ずっと思っていたけれど。

 この指輪。
 買いに行くのに、どれぐらい勇気出したんやろ。
 あたしと一緒の時やって、そんなん店は、よー行きたがらんくせに。
 しかも、こんな刻印までしてもろて。


 クスクスと笑いながら、リサは指輪を何度も撫でる。


 どうしてかわからへんけど、サイズもぴったりやねん。
 あたし、自分のサイズかて、ちゃんとわかってへんのに。
 なんでやろ。
 なんで大谷は、あたしが嬉しくなるようなことばっかり・・・するんやろ・・・



「なにしてん」
 急に背中越しに声をかけられて、リサはビクッとした。
 慌てて振り返ると、そこには。
 濡れた髪をタオルで拭きながら、リサの様子を気にする大谷が立っていた。

「あー・・・、なんか、な」
「ん?」
「いま気づいてんけど」
「・・・なにを?」
 リサは黙って指輪を差し出す。
 大谷は不思議そうな顔をしてリサと指輪を交互に見た。

「それがどないしてん」
「これ、内側に文字あんねん」
「ごほっごほっ」
 大谷はびっくりしたのか、突然咳き込むと、顔を真っ赤にしてリサを見る。


「・・・・・・・気づいたんか」
「いま、気づいた」
「そ、それはやなぁ・・・あ、いや、そういうもんやって、店の人が言うか・・・」
 しどろもどろになりながら、大谷がなにか言い続けるのを聞きながら。
 リサは指輪を、薬指にはめる。
 そして、ベッドに置いたままの、ウサギの指輪も手にすると、それも薬指にはめ。
 得意げな顔をして、大谷の顔面に手のひらをかざす。


「・・・・指輪の重ねづけ、どう?」
「だ・・・から。それもうしなくてもええやろって・・・」
「なんでよー!」
 少し頬を膨らませるリサを見ながら、大谷はベッドに腰掛ける。
 リサはそんな大谷に、ぐっと顔を近づけると、うふふと笑う。

「なぁ、一人で買いにいったん?」
「当たり前やっ!そんなん誰かに見られたら、恥ずかし死にする・・・」
「大谷、こんなん苦手やもんな」
 そう言いながらも、リサは大谷の隣に腰掛けると。
 再度、指にはめた指輪を、満足げに眺める。
 嬉しそうな笑顔のリサを見ながら、大谷は両手を伸ばしその左手をとると。
 そっと、薬指にはめられた指輪に触れる。
 そして、まるでなにかを確かめるように、指輪と指を見ながら呟く。


「サイズ・・・合うてた?」
「うん。ちょうどええけど・・・」
「けど・・・?」
 リサは少し不思議そうな顔をして、指輪を見る。
「・・・なんでサイズがわかったんかなぁ・・・思て」
「あぁ・・・」
 その言葉に大谷は顔を上げてニカッと笑う。

「こないだな?こそっと測った」
「えー!?そんなん気がつかんかったで?」
 目をぱちくりさせながら、リサは驚く。
「そらそーや、寝てる時やからな」
「そうなん!?」
「だから、もしかしたら合わんかも思てんけど・・・」
「大丈夫。ちょうどぴったりやで」
「ほな・・・よかったわ」
 その言葉を耳にした瞬間、リサは軽く肩を押され。
「あっ」
 そう思った時には、既にベッドに倒れこんでいた。


 ・・・・・・・・
 ・・・大谷の顔がめっちゃ近い。
 シャワー浴びたばっかで、さっきまで濡れてたはずやのに。
 大谷の髪ってば、もうほとんど乾いてん。
 かすかにシャンプーのいい香りが漂ってくる・・・。


 大谷は右手をリサの左手に絡めながら、息が触れるほどの距離まで近づく。
「・・・ほんまはな」
「え?」
「ライブの後で渡そう思て、色々考えてたん」
「あー・・・そうやな。海坊主に見つけられなかったら、あんなことにならんかったもんな」
「ほんまや。まさかあそこで落とすとは思わんかった」
 大谷は少し赤らめた顔をしながら、えへへと笑うリサの髪に幾度となく触れる。

「・・・大谷、ありがとう」
「どーいたしまして」
「めっちゃ嬉しい誕生日やった」
「そらよかった・・・海坊主に感謝やな」
「大谷にも感謝や」
 照れくさそうに笑うリサを見ながら、大谷は壁にかけてある時計をチラッと見た。
「てか、まだ誕生日終わってへんな」
 その言葉に、リサも時計を見る。
 時刻は午後11時30分。
 まだ、日付は変わっていない。

「なぁ」
「・・・ん?なに・・・」
「誕生日プレゼント、まだほしい?」
「・・・へ?」
 クスクスと笑いながら、大谷はリサを見る。

「せやから・・・」
「ん?」
 不意に、額に大谷の唇の感触を感じて、リサは顔を赤くする。
 よく考えれば、なんともいい雰囲気で。
 心臓が早鐘を打ち始めているのを、リサは感じていた。

「・・・それとも、もういらん?」
「・・・あ・・・の」
「どっちや?」
「だか・・・らっ」
「・・・ん?」
 大谷に見つめられたまま、言いにくそうな顔をしながらも、リサは呟くように言う。


「・・・ほ、しい・・・かな・・・」
「・・・聞こえへんなぁ?」
 わざと聞こえないフリをして、大谷はリサの顔を覗きこむ。
 楽しげな大谷の表情とは違って、リサは顔全体を真っ赤にしながら。
 いまにも、泣きだしてしまいそうなほど、恥ずかしげな表情で。

「なんやねん?」
「・・・なっ・・・・・・・・し、し、知らんっ。もーええっ」
 両手で顔を覆い隠したリサを、大谷はさらに追い詰める。
「知らんことないがな。おまえが言うたんやろ」
「だ、だからっ、もうええ言うてるやんっ!てか、大谷めっちゃ意地悪・・・や・・・」
「オレは元々こういう性格やけど?」
 顔を隠したまま横に向けて、大谷から逃れようとするリサの頭を、大谷は強引に正面に向かせる。
 そして、無理やり両手を開かせると、リサは半泣き状態で。

「な・・・なによぅ・・・」
「いるんやろ」
「・・・なに・・・がよ」
「せやから、" ほしい " ってヤツ」
「・・・・・・・・」

 ニカッと笑う大谷の表情とは対照的に、不満げな顔をして、リサは呟く。
「・・・やっぱり、聞こえてたやん・・・」
「あんな近くで言うたら、なんでも聞こえるわ」
「・・・・大谷は、あたしのこと、いつもそうやってからかって・・・」
「怒った?」
 リサの言葉を遮る様に言うと、大谷はその耳元に唇を寄せる。
 触れる吐息に、リサは思わず身震いする。


「誕生日、おめでと・・・リサ」
 そう囁くと、大谷は何度も耳を甘噛みする。


(なんか・・・うまいことごまかされた様な気ーしなくもないねんけど・・・)
 そんなことを思いながらも、いつしかリサは目を閉じ。
 大谷に身をゆだねていた。



END


 (2008-4-26)

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