ラブ★コン二次創作・2

□君の隣に
1ページ/3ページ

 「はぁ〜・・・・」
 大谷は思わずその建物を見上げると、溜息を吐いた。
 それは、リサの通う専門学校で。
 地上20階、駅前一等地にある近代的な外観。
 そして、そこに出入りするオシャレな学生たちに、大谷は見事なまでに圧倒されていた。

 話には聞いてたけど・・・ここ、ほんまに学校なんか?
 なんかホールみたいなんとか、博物館みたいなんとかまであるやん・・・
 あいつ、ほんまにこんなとこで、勉強してんのか・・・?



 大学2年になった大谷は、学校・バイトと忙しい毎日を過ごしていた。
 しかし、忙しいのはリサも同様で。
 授業や実習、就職活動にバイト。
 もしかすると、大谷以上にハードなスケジュールをこなしていた。

 それまでは、大谷の予定にリサが合わせる形で、デートをしていた二人も。
 最近では、大谷の方がリサの予定に合わせるようになり。
 今日は、リサの授業が終わるのを見計らって。
 大谷が初めて、リサの学校まで迎えに来ていた。
 そして、その建物のすごさに、圧倒されていたのだった。


 口を開けてぽかーんとしていた大谷は、周りのクスクス笑いに気づくと。
 慌ててすぐ傍にあるカフェに移動する。
(授業が終わるんは、4時40分言うてたな・・・)
 そう思いながら、大谷は腕時計で時刻を確かめると。
 時計の針は、午後5時少し前を指している。
(もうそろそろ出てくるやろ・・・)
 大谷は飲み物を口にしながら、リサを待っていた。



「大谷ーーー!!ごめん、ごめん」
 しばらくすると、息を切らせながら、リサが駆け寄ってきた。
 手には授業で使う道具でも入っているのか、大きなバッグが3つ。
「すごい荷物やなぁ・・・」
「あーこれ、家でやらなあかん課題やねん」
 えへへと舌を出しながら笑うリサを、大谷はじっと見た。

「なんや、おまえも真面目に勉強してんねんな」
「ちょっと!そんなん当たり前やん!!」
 頬を膨らませて怒るリサを見ながら、大谷はフッと笑った。
「てか、めずらしいなぁ〜大谷が学校まで迎えに来てくれんなんて」
「・・・たまにはええやろ」
「うんっ。嬉しい!」
 そう言うと、リサは大谷の顔を覗きこんで、ニッコリと笑った。
「・・・・・・・・・・・・・」
 大谷は、思わずその笑顔に目を奪われる。
 そして同時に、胸にチクッとした痛みを感じる。
「・・・ん?どしたん大谷・・・?」
「な、なんでも・・・ない」
 大谷は動揺を悟られまいと、平静を装った。


 ・・・・・・・・・
 いまの、なんや?
 ・・・・・なんちゅーか。
 小泉が、めっちゃ眩しいっちゅうか。
 ・・・・・・・・・


「・・・・大谷・・・・・・・・おーたにっ!」
「へっ?」
 気の抜けた返事をする大谷を見ながら、リサは怪訝そうな表情をした。
「さっきからどしたん?ぼーっとして」
「あ、別になんともないで。ほないこか!晩飯の材料買いに、まずスーパーやな」
「・・・う、うん」
 納得のいかない顔をするリサから目を逸らしながら、大谷はわざと明るくふるまった。


 アカン、アカン。
 オレ、なにぼーっとしてんねん。
 こいつは、すぐに誤解しおって、心配するんやから。


「そうそう、今日の実習で・・・」
 それでも、楽しげに話しかけてくるリサを見ながら、大谷は考えこんでしまう。


 ・・・初めてこいつの学校まで来たけど。
 結構、うまくやってるんやんけ。
 入学したばっかの時は、上手くいけへん言うて悩んどったけど。
 楽しそうにやってるやん。

 ・・・・・そらそーやな。
 こいつ、スタイリストなる言うて、がんばってんもんな。
 アホやけど、根性だけは誰にも負けへんし。
 だからやろか。
 めっちゃいきいきしてん。
 目が輝いてるっちゅうか。
 めっちゃ楽しそうな顔してん・・・


 大谷は目を細めながら、クスッと笑うも。
 すぐに大きな溜息をつく。


 ・・・・・・
 ・・・それに比べて。
 オレは、なにしてん・・・
 ・・・・・・・


 夕方とはいっても、まだ明るい日差しの中。
 いつもだったら、会話が止まらない二人も。
 なぜか今日は、会話が途切れがちだった。
(今日はこんなにいい天気なのに。なんか、大谷の周りだけ曇りみたいや)
 話しかけると、返事は返ってくる。
 けれど、空返事ばかりの大谷の様子に、さすがのリサも、違和感を感じ始めていた。
 ・・・ちょうどその時。

「・・・あれ?りーちん?」
「へ?」
 思わずリサが振り返ると、そこに立っていたのは学生風の男子二人。
 その姿に、大谷が訝しげな顔をするのと、リサが近寄っていくのはほぼ同時だった。


「なんやー!あんたら、こんなとこで何してん?」
「りーちんこそ、なにして・・・・・・って、もしかして」
 男子は大谷をチラッと見ると、ニヤリとした顔をする。
「りーちん、彼氏おったんや」
「えっ・・・あ、その・・・」
「てか、普段と全然ちゃうやん?彼氏の前やと態度も女らしゅーなるんや」
「なに言うてん!!いつもどおりや!」
「へー?そうなんだ」
 和気藹々とした会話の中に、大谷は入っていけずに取り残されていた。
 そして、なんとも複雑な感情が、じわじわと湧きあがってくる。


 ・・・ "りーちん"?
 なんやそれ。
 てか、こいつらなんで、小泉に馴れ馴れしいねん?


「・・・誰?」
 二人と別れた後、大谷はあえて静かな口調で訊ねた。
「専門の友達やねん」
「てか・・・りーちんてなんや?」
「あー、あたし、そう呼ばれてんねん」
 リサはさらっと答える。
 が、大谷にしてみれば、おもしろいはずもなく。
 知らず知らずのうちに、その表情は不機嫌そのものに変わっていく。
 リサは、急に様子が変化した大谷に、戸惑いを隠しきれない。
「大谷・・・どうしたん・・・」
「・・・なんでもない」
「なんでもないて・・・」
 そして、リサが話し続けているのも無視して、そのまま先を歩いて行く。


 そう呼ばれてるって・・・
 なんや「りーちん」て。
 あんな、全身鳥肌立ちそうな呼び方されて。
 しかも、男にそう呼ばれて。
 あいつはちっとも嫌そうやないつーか。
 むしろ嬉しそうやんけ。

 大体、オレですら、名前なんてめったに呼べへんのに。
 なのに、なんで・・・
 ・・・・・・・・

 そりゃ、オレかて『チャッピー』呼ばれてんけど。
 それとこれとは話ちゃうやん。
 あんな呼び方すんの、絶対下心ありやん。
 つーか、問題はそれにあいつが気づいてないっちゅうことや。

 ・・・なんでかって思うぐらい鈍いねん。
 ほんまに鈍すぎやねん。
 せやから、だから・・・
 こんなに気になんってしゃーないねん。



 スーパーでの買い物の間も、大谷は黙り込んだままだった。
 リサの問いかけには答えるものの、話しかけてくることはなく。
 そんな大谷の様子に、いつしか、リサも話しかけるのを諦めてしまった。

 そして、そんな大谷の態度は一向に変わる気配がなく。
 大谷の部屋に着いてからも、気まずい雰囲気は続いていた。
 ただ、リサにはどうして大谷が黙り込んでいるのか、さっぱりわからない。
 いつもなら、二人で楽しくしゃべりながらする食事も、今日は黙り込んだまま。
 しかも、大谷はいつも以上のペースでビールを飲み干す。
「そんなに飲んだら、すぐ酔ってまうで?」
「・・・・別にかまへんわ」
「もー、それ3本目やん」
 リサのたしなめも、大谷は気にすることなく、さらにビールを呷る。
「・・・おーたに・・・」
 そんな大谷の様子を窺いながら、リサはどうしたもんかと溜息を吐く。


「ごちそーさまでしたっ」
 晩ご飯を食べ終わった後、食器を下げながら、リサは大谷を横目で見た。
 それでも。
 大谷はテレビを見ながら、やはり黙り込んだまま。
(別に、美味しいとか言うてほしかったわけやないけど・・・)
 いつもなら、美味しいとか、これはもう少し濃い味がいいとか。
 そんな他愛ない会話が弾むのに、今日は会話らしい会話がほとんどなかった。
(あたしなんかしたんかなぁ。・・・それとも、ほんまに美味しくなかったんかな・・・)
 少し落ち込みながら、リサが台所へと向かおうとした瞬間。
 背後でバタンという音がした。
「へ・・・?」
 そして、振り向いたリサの瞳に映ったものは、酔い潰れて床に倒れこんだ大谷の姿だった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ