ラブ★コン二次創作・2

□お粥
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「大谷はさ、やったらできる子やねん」
「は?」
 差し出されたお粥を前に、リサは肩をうな垂れたまま呟くように言った。

 それは、二人が一緒に暮らし始めたある日のこと。
 体調を崩して風邪気味のリサは、朝からずっと寝込んでいた。
 そして、仕事を早めに切り上げて家に帰ってきた大谷は、リサの為にお粥を作った。


 ・・・が。



「あたしは、お粥作ろうとして、ナベ焦がすよーな女やねん」
「いつの話をしてんねん」
「・・・1週間前。大谷が風邪ひいた時」
「・・・あ、あぁ・・・」
 大谷はその時のことを思い出して、気まずそうに笑った。

 つい1週間ほど前。
 大谷が風邪をひいた時。
 一生懸命看病しようと、リサはがんばって。
 がんばってがんばって、ほんとうにがんばって。
 ・・・がんばりすぎて、お粥を作りかけたまま、他の事に気をとられ。
 気がつけば、ナベは真っ黒に焦げていた。

 そして、家中に焦げ臭い匂いが充満し。
 その匂いは2日間、消えなかった。


(熱で頭ぼーっとしててんけど、あの匂いはきつかった・・・)
 そんなことを思い出しながら、大谷はリサを見る。
 リサはお盆に載ったお粥をじっと見つめながら、かなりご機嫌斜めで。
「大谷は、こないなお店で出てくるようなん、作れるんやな・・・」
 そこまで言うと、リサはお盆ごと大谷に突き返し、そのまま布団を頭からかぶった。


 もー、頭痛い。
 喉も痛い。
 全身に力も入らん。
 話すのやってしんどい・・・

 ・・・・・・・
 ちゅーか、あたし・・・
 なんで大谷に、言いがかりつけてん?
 あたしのこと心配して、お粥作ってくれたん。
 せやのに、こんな風に突っかかって・・・
 いまのあたし、めっちゃかわいない・・・


 けど・・・


 がんばって料理してんのに、大谷の方がうまいやなんて。
 そんなん・・・
 あたし、まるでダメな子やんか。
 ・・・・・・・・

 てか、頭痛いねん・・・
 もう、なんもかんも、どーでもよくなってきてん・・・



 布団をかぶったままのリサを見ながら、大谷は軽く溜息をつく。
「・・・とにかく、薬飲めや」
「い・・・らん・・・」
「ちょっとでええから、なんかお腹に入れて、薬飲まんと治らんやろ」
「・・・・・」
「ほら、起きろ」
 そして、大谷はリサの布団を剥がそうとするも。
 リサは抵抗して、布団からなかなか出てこようとしない。
 少しためらいながらも、大谷は力任せに布団をはぎとる。

 身体を丸めて横になりながら、、荒い呼吸のリサを目にすると。
 大谷は少し強引に、リサの両腕を引っ張り上げて、上半身を起こす。
 そして、軽くその頬に触れ、額を重ねて熱を確認する。


「・・・やっぱり、さっきより熱いやんけ」
「・・・・・・」


 いつもだったら、恥ずかしくてすぐに抵抗するリサも。
 さすがに今日はなにもできず、ただじっとしていた。
 その両頬が真っ赤なのは、熱のせいか大谷のせいか。
 それはリサ自身にもわからなかった。


「薬飲まんとアカンやろ」
「いらん・・・もん」
「おまえ・・・今日はききわけ悪すぎやぞ?」
「しら・・・ん・・・」
「何がしらんや」
「・・・あたし寝込んだって、大谷困らん・・・」
「困るとか困らんとかの問題ちゃうやんけ」
「あたしがご飯作らんくても、大谷・・・自分で作れるやん」
「だから、そんなんどーでもええから薬を・・・」


 それでも薬を飲もうとしないリサを見ながら、大谷は頭をかく。


「お粥アカンかったら、ヨーグルトでもええから」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・で、その後は薬飲んで・・・」
「・・・・」
「リサ」
 黙りこんだまま、リサは俯く。
 大谷はやれやれといった顔をしながら、水の入ったコップを手にすると、リサの頭をポンと叩く。

「あんな?」
「・・・・・・・」
「自分で飲めへんのやったら、口移しするで」
「はっ!?」
 思いもしない言葉に、びっくりして顔をあげるリサを、大谷は真剣な眼差しで見る。
「オレはどっちでもええねん。おまえが選べ」
「ちょ・・・ちょっと・・・」
「自分で飲むか、口移しか、どっちや?」
「な・・・なに言うて・・・んよ」
 しどろもどな状態のリサに、大谷はぐっと顔を近づける。
「薬飲めって言うてん」
「・・・・・・・・」
 大谷の迫力に、しぶしぶながらリサはお粥を口にする。
 そして、お椀半分ほどの量を食べ終わると、コップを手にし。
 ふぅと溜息をつきながら、薬を飲む。
 そんなリサを見て、大谷は満足そうな表情をみせた。


 コップを大谷に返すと、リサはベッドに倒れこむようにして横になる。
 大谷は布団をかけなおしながら、リサに話しかけた。
「・・・言うとくけどなぁ。オレはおまえの作った飯が食いたいねん」
「自分で作ったほうが、美味しく作れるやん」
「そんなことないやろ。ナベ焦がしたんはたまたま・・・」
「どーせあたしは料理下手やもん」
「そんなん言うてへんやんけ」
「・・・大谷の方が上手いねんもん」
「それはたまたまやろ。いつも美味しいの作ってんのは誰や」
「・・・・・・・・美味しいなんて、ほとんど言うたことないくせに」
 リサがそう呟いたのを、大谷は聞き逃さなかった。

「アホか」
「・・・なにがアホなんよ」
「アホやから、アホ言うてん」
「だから、なんでアホなんよ!」
「・・・言葉のあるなしだけで、判断するなっちゅうねん」
「・・・・な、なによ・・・意味わからへん・・・」
 布団から顔を半分だけ出しながら、リサは大谷を見る。
 大谷はリサから視線を逸らすと、照れくさそうな顔をしつつ、テーブルに置いてある冷えピタを手にした。


「オレ、おまえがメシ作るようになってから、太ってんやぞ?」
「へ?」
「朝と夜と、ちゃんと食べてんから、ベスト体重より増えてん・・・」
「・・・それやったら、食べる量減らせばええや・・・」
「そんなんできるか!」
 腕を組み、ふてくされた顔をする大谷に、リサは慌てる。

「な、なんで減らせんのよ・・・」
「我慢できひんから」
「・・・我慢?」
「・・・・・・せやからっ」
 大谷はリサに聞こえるか聞こえないかの小さな声で呟く。
「全部食べたいから、減らせん・・・」
「・・・・・・へ?」
 大谷は、その言葉に思わず起き上がりそうになったリサの額に、冷えピタをペタンと貼る。
 そしてリサを押さえつけるかのように、そのまま布団をかぶせた。
 リサはもそもそと布団から這い出ようとするも。
 それよりも早く、大谷は立ち上がり、部屋の電気を消す。


 真っ暗な部屋の中で、大谷の言葉が響く。
「とにかくっ!オレの為にはよ元気になれ言うてん」
「・・・え・・・と」
「返事は!?」
「は・・・はい・・・」
 横になったまま返事をしたリサは、少し考えて。
 照れくさそうにえへへと笑うと。
 台所へ向かおうとする大谷に声をかける。

「おーたに・・・」
「なんや」
「・・・さっき・・・」
「・・・・・・・」
「ワガママ言うて、ごめんな?」

 そう言うと、リサは布団を頭からすっぽりとかぶり、「おやすみっ」と叫ぶ。
 そんなリサを見ながら、大谷はフッと笑った。
 明日には、リサが元気になることを願いながら。
 そして、リサの作った食事を、食べられることを願いながら。



END


 (2008-5-7)

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