ラブ★コン シリーズモノ

□合コン
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「明日は勉強会やから、家に帰んの遅くなる」
「あたしも友達と打ち上げあんねん」
 そう言ってリサが大谷と携帯で話したのは、昨日の夜のことだった。


 夜7時過ぎ、駅前の居酒屋。
 リサは専門の友達と、実習の打ち上げで飲みに来ていた。
 外で酔っ払うリサを大谷が嫌がるせいか、リサは友達とはあまり飲みにいかない。
 が、今回の実習はかなり大変だったのもあって、めずらしく打ち上げに参加していた。

 参加メンバーは6人。
 スタイリスト科のリサ達女の子3人と、ヘアメイク科とスタイリスト科の男の子3人。
 駅前の居酒屋ではあるものの、なかなか流行りのお店で。
 席に案内されて、リサはふと隣の個室に目をやると。
 ・・・そこによく知った顔があった。
 いや、知っているどころではない。


 そこには大谷がいた。


 しかも、男4人女4人の、見るからに合コンスタイル。
 小柄な可愛らしい女の子の隣に座り。
 嬉しそうな(感じにリサには見える)大谷を見つめたまま、リサはしばらく動けなかった。
 その場に立ち尽くしたまま、ただじっと大谷を見つめる。
 そして、不意に横を向いた大谷と目が合うと、リサはとっさに視線を外し。
 そのままお手洗いに行くと言って、店の外に出て行ってしまった。


 リサの視線に気がついた大谷は、慌てて個室を飛び出すと、リサを追いかける。
 そして、お店を出てすぐの場所で、リサをつかまえる。
「・・・小泉ッ」
 強引に腕を掴むも、リサは背中を見せたまま振り返ろうとしない。
「おまえなんか誤解してるやろ!?」
「・・・誤解って、何がよ」
「いま見たん、誤解してるやろ!?」
「誤解されるようなこと、してたんや」
 リサはゆっくりと振り返ると、大谷を睨みつける。

「勉強会やなかったん?」
「そのはずやってん。けど騙され・・・・」
「ふぅーん・・・」
 ひどく冷ややかなリサの視線に、大谷は思わず言葉を詰まらせる。
「ほ、ほんまやで!?べ、勉強会のはず・・・やってん。けどちゃうかったん・・・」
 その言葉を聞くと、リサはニッコリと笑う。
 が、顔は笑っていても、その目は笑っていなかった。
「楽しそうやったな。合コン」
「だから!誤解や言うて・・・」
「別に言い訳せんでもええやん」
「言い訳ちゃうわ!ほんまに・・・・・・・・」
 大谷はなにか言い続けるのも、リサは耳を両手で押さえ何度も頭を振り、聞こえないフリをする。


 もー聞こえん!聞こえん!
 なーんも聞こえんねん!!
 可愛らしい女の子と、めっちゃ楽しそうに話してたくせに!
 あたしには、あんなに優しげな顔、めったにせーへんくせに!

 ・・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・しかも。
 あたしにウソついて。
 女の子と楽しく合コンして・・・・・・・・・


 ついさっき見た女の子に微笑みかける大谷が、リサの脳裏に浮かぶ。
 リサはその記憶を振り払うかのように、何度も何度も頭を横に振ると。
「勉強会や・・・言うてたのに」
 そう呟き、舌をベーッと出しながら大谷を睨みつけた。
 そして、言い訳し続ける大谷を振りきると、そのまま席に戻ってしまった。


*     *     *     *     *     *     *     *

「リサちゃん、どうかしたん?」
「・・・へっ?な、なんで!?」
「・・・なんかめっちゃ怒ってる顔してん」
 席に戻ったリサを見るなり、友人たちは心配そうな顔をした。
 それもそのはず。
 その顔は見事にこわばった表情をしていて、髪は乱れ、さらには涙目になっている。
「な、なんでもないよっ!てか、何の話してたん??」
 リサは心配かけまいと無理やり笑顔を作ると、ハイテンションで会話をし始める。


 ・・・ええやん。
 大谷なんか、勝手に合コンすればええやん。
 あたしかて、楽しくやるもんっ。
 大谷おらんでも、関係ないもんっ。
 ・・・・・・もう、知らないもん・・・


 そんなリサのいる場所がよく見える個室の隅に、大谷は座っていた。
 目の前にあるビールも、ジョッキに半分以上は残ったまま。
 イライラを募らせつつ、大谷は何度も溜息をつく。


 今日は勉強会やって言われてん。
 そやから、集合場所に行ってみれば。
 そこにいたのは男3人と、知らん女の子が4人や。
 『大谷が参加する言うたら、女の子が集まってん』
 そんなん言われても、まだ勉強会やと信じてたオレもアホやったけど。


 大谷はジョッキを手に持つと、リサを見る。
 リサの隣にいる男が、やけに馴れ馴れしく話しかけている。


 ・・・なにが、友達と打ち上げやねん。
 なんやあの男は。
 あれこそ、まさに合コンやん。


 話しかけられて、楽しそうに笑っているリサにムッとしながら、大谷はビールをグイッと飲む。


 人のこと散々言うといて、自分かてめちゃくちゃ楽しそうにしとるやんけ。
 大体あのアホは、自分がアルコール弱いの分かってんのか?
 あんなに飲んだら、酔っ払って帰れなくなるで。
 オレは知らんからなっ。
 たとえ・・・
 なんかあっても・・・

 ・・・お持ち帰り・・・とか・・・されても・・・・・・・・・・・・・


 ドカッ


 大谷は割れんばかりに、ジョッキを勢いよくテーブルに置く。
 その音に、仲間たちはいっせいに大谷を見た。
「大谷・・・どないしてん」
「なんかめっちゃこわそうな顔してんけど・・・」
「・・・なんもないっス」
 そう言いながらも、大谷はふてくされた顔のままリサを見ていた。


 しばらくして----。
「・・・大谷君?」
「なんやっ」
 大谷は、突然隣の席の女の子に話しかけられ、思わず怒鳴ってしまった。
 びっくりして目を見開いているその子を見ながら、申し訳なさそうな顔をして頭をポリポリとかく。

「ご、ごめん・・・ちょっと考え事してて」
「あ・・・うん、別に平気」
 大谷にニッコリ笑いかけるその子を見ながら、大谷もつられてぎこちなく笑う。
「大谷君、こんな飲み会にくるの、めずらしいやん」
「あー・・・。おれ、バイト忙しいから・・・」
「あたし、同じゼミなんよ。知ってる?」
「えっと・・・ごめん。知らんかった・・・」
「なーんや。あたしけっこう大谷君のこと、気にしとったんやけどなぁ」
 そう言いながら笑うと、その女の子は、少し大谷に近寄る。

「あたし福田理沙。同じゼミやし、クラスも一緒なんよ」
「あ、オレ。大谷・・・」
「大谷くんは有名やから知ってるよ。女の子の間では、人気あるもん」
「は?なんやそれ・・・」
「でも、めっちゃ大事にしてはる彼女おるって、サークルの人ら言ってた」
「大事・・・か」
 大谷は少し自嘲気味に笑うと、再度リサを見た。
 なにやら、リサ曰く『打ち上げ』なるものも終わりらしく、それぞれ立ち上がってコートを着始めていた。
 リサも、少し足取りを危なっかしくしながら、ふらふらと身体を揺らしながら立ち上がっていた。


 ・・・あのアホ。
 めっちゃ酔っ払いやがって。
 あんなんで家まで帰れるわけないやんか。
 ・・・・・・・・・・。


*     *     *     *     *     *     *     *

「ほな、二次会いこっか」
「さんせーい」
「やっぱカラオケ?」
「せやな。リサちゃんも行くやろ?」
「行く」
 リサ達の飲み会は、二次会へと場所を移動しようとしていた。
 少し頭が痛いのを感じつつ、リサはみんなについて歩いて行く。

 6人での飲み会は、合コンではなかったけれども。
 気がつけば、なんとなく3組のカップルに分かれていた。
 リサの隣にいるのは、同じクラスの男の子で。
 さっきからずっとリサの隣を歩き、足取りの危なっかしいリサを心配してくれていた。
 ・・・けれども。
 リサは内心、居心地の悪さを感じていた。
 自分の隣にいるのが、大谷でないことに。


 大谷は、あたしが外で飲むの嫌いやねん。
 あたしはすぐ酔っ払ってまうから、心配かけるなっていつも言うねん。
 けど、酔っ払った時は、気がつくといつも大谷が傍にいて。
 めっちゃ怒られんけど、・・・心配してくれた。
 ふらふら歩いていると、いっつも手を握ってくれんねん。
 あたしが転ばんように、迷子にならんように、気ー使ってくれて。


 なのに、今日は大谷が隣におらん・・・


 そうや。今日は大谷、合コンしてん。
 可愛らしい女の子と、嬉しそうに話してん。
 あたしにウソついて、合コンしてん。

 ・・・・・・そうやんな。
 どーせ大谷はあたしみたいなんより、可愛らしい女の子と一緒におるほうがええんや。
 ちっこくて可愛らしいのんが好みやもんな。
 あたしなんか、でっかくて、ちっとも女らしくなくて。
 こんな風に、酔っ払ったりせーへん可愛らしい女の子がええんや。


 リサは目を何度も擦る。
 さっきの光景が、リサの頭の中で何度も何度も繰り返す。


 もういやや。
 どーせ、あたしは可愛くないもん。
 ただのデカ女やもん。
 ちっこくなんかなれへんもん。

 けど。
 それでもいい、そう言うてくれたから。
 だから、気にせんよーにしてたのに。
 ・・・・結局。
 大谷の好みは昔のままやったん。
 あたしなんか、彼女や言うても、好みとは真逆やねん。


 みんなの後について歩きながらも、リサは俯いたままだった。
「リサちゃん、大丈夫?」
「あー・・・ちょっと、酔っ払ったみたい・・・」
 ぎこちなく笑いながらリサは答える。
 そして、みんなの後に続き、エレベーターに乗り込もうとする。
 すると。
 リサは、急に腕を引っ張られ、後ろに数歩下がる。

「・・・えっ!?」
 驚いて振りかえろうとしたその瞬間、エレベーターの扉はリサだけを残して静かに閉まる。
「・・・な、なに?ちょっと・・・」
 リサは慌ててエレベーターの開ボタンを押すも、扉は開かなかった。
「・・・・・・・置いてかれて・・・もうた」
 溜息をつきながら、リサは後ろを振り返る。

(なんで急に腕引っ張られたん・・・)
 そう思いながら、後ろを振り返ったリサの視界に入ったのは。
 腕を組みながら、不機嫌さで顔をしかめている大谷だった。
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