ラブ★コン シリーズモノ

□ホントのキモチ
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 合コン事件から数日後。
 大谷の部屋に、親友の中尾が遊びに来ていた。


「・・・・・・・ふぅーん。そんなことあったんや」
「ほんま大変やったで。オレ、めちゃくちゃ誤解されてん」
「まぁ、騙されてついて行った大谷も悪いやん」
「・・・そうやけど」
「けど、仲直りできたんやろ。よかったやん」
 そう言いながらお菓子をつまむ中尾を横目に、大谷は軽く溜息をつく。


「・・・その溜息はなんなん?仲直りしたんやろ?」
「仲直りはした・・・けど」
 そこまで言うと、大谷は再度溜息をつく。
「なんやろな。ちょっとショックやったちゅうか・・・」
「なにが?」
「オレ、初めてやったん」
「初めて?」
「あいつが、他の男と飲んでんの、初めて見た」
 肩を落としながら、溜息混じりに呟く大谷を見て、中尾はきょとんとした顔をした。


「・・・みんなで飲みに行ったりしてるやん」
「オレが一緒の時は別にええねん。けど、オレがおらん時に、飲んでんのは初めて見てん」
 中尾は思わずニヤッとする。
「・・・もしかして、口説かれてたん?」
「そこまでは分からんけど、何や、妙に馴れ馴れしいちゅうか・・・」
 大谷が最後まで言い終わらないうちに、中尾は思わずプッと吹き出してしまった。


「なんやねん!」
「いや、大谷がヤキモチ妬いてるわー思て」
「はぁ?!そんなんちゃう!」
「まぁまぁ」
 ムキになって否定する大谷を、中尾はなだめる。
「絶対ヤキモチちゃうで?!」
「だって、他の男と一緒に飲んでんのが、面白くなかったんやろ?」
 ズバリ核心を突かれて、大谷はふてくされた顔をした。
「・・・・面白くないちゅうか・・・。あいつ無防備すぎんねん」
「無防備って・・・ただ飲んでただけちゃうの?」
 ニヤニヤとした顔をして、中尾は大谷を見る。


「酔っ払ったら、危険やろ」
「危険て・・・。まぁそういうこともあるかもしれんけど・・・でも学校の友達なんやろ?」
「友達いうても、男や」
 憮然と言い放つ大谷に、中尾も少し呆れた顔をする。
「そんなん言うたら、小泉さん、女の子としか飲みに行けんやん」
「男と飲みに行く必要なんかないやろ」
「けど、女の子同士で飲んでると、ナンパされるかもよ?」
「それ・・・は・・・」
 大谷は思わず口ごもるも、中尾は容赦なく続ける。
「小泉さんて、けっこう流されるとこあるしなぁ」
「うっ・・・・・」
「今回の件も、知らぬは本人ばかり・・・だったりしてな」
「え・・・・」
「例えば、例えばの話やで?小泉さんのこと気に入ってる男が、打ち上げ言うて誘ったとか・・・」
「そんなわけあらへん!打ち上げやって・・・」
 そう言いながらも、大谷の脳裏に、あの日、リサの隣を歩く男の姿が浮かんだ。

 確かに、打ち上げとか言うわりには、カップルになって歩いてん。
 アホ小泉は、そんなんちっとも気づいとらんかったけど・・・。


「なんか思いあたることあるん?」
「・・・・・・・・・そんなもん、ない」
 頬杖を突き、不機嫌そうな顔をして、大谷が答えると。
 中尾は真面目な顔をして言った。
「小泉さんて、かなりオクテやん?」
「・・・そうやな」
「高校の時は、大谷がいつも隣におったし、はっきり言うてガードしてたやん」
「だから・・・なんや」
 中尾は睨みつける大谷を物ともせず、続けて言った。
「少なくとも今の学校では、大谷は隣におらん訳や」
「そうや」
「それやったら、下心ある男が言い寄ってくる可能性もあると思わん?」
「なっ・・・」
 大谷は中尾を凝視したまま、言い返すことができなかった。
「しかも小泉さんて、言い寄られることに免疫って、あんましないんちゃう?」
「ぐっ・・・・」
「高校の時みたく、遥くんや小堀くんみたいないいヤツばかりやないしな」
 からかうことを楽しんでいるかのような中尾の言葉に、大谷は苦虫を噛み潰したかのような顔をする。
 そして、絞りだすように反論する。
「・・・・・・あいつら、いいヤツとは・・・思えんけど」
「それは、大谷が思ってるだけやって」
 そう言いながら、中尾はククッと笑った。


「それに、小泉さんて、最近めっちゃ女らしくなったやんな」
「はぁ?どこがや・・・」
 中尾から顔を背けながら、大谷は不機嫌そうに答える。
「オレ、こないだ会うた時、ちょっとびっくりしたで。中身は変わっとらんかったけど」
「・・・・・・」
「知らぬは彼氏ばかり・・・やな。大体・・・」
「なんや!」
 中尾は大谷にぐっと顔を近づけ、小声で言った。
「まだ・・・なんやろ?大谷と小泉さん」
 その言葉の意味することを察し、大谷の顔は一瞬で火を拭いた。


「な、な、なっ・・・なにを言うてん!!」
「オレは事実を言うてるだけやで?」
 ひょうひょうとした顔をしながら、中尾は言った。
 大谷は顔を真っ赤にし、プルプルと震えている。
「大谷ってそういう気ないん?」
「そういう気って・・・なんや!」
「男と女のそういう関係」
 その言葉を聞くと、大谷はテーブルの上に顔を突っ伏して、溜息混じりに呟く。


「・・・・・ない・・・訳ないやんけ」
「へぇー・・・そういう気はあるんや?」
「当たり前や・・・」
 力の抜けた口調で言う大谷を、中尾はやれやれといった顔をして見る。
「それやったら、少しは態度に示したほうがええんちゃう?不安がってヤキモチ妬くよりは」
「不安て・・」
「だって、不安なんやろ?だから絆みたいなん、ほしいんちゃう?」
 机に顔を突っ伏したまま、大谷は呟く。
「・・・そんなん。オレの都合を押し付けられへん」
「でも小泉さん、大谷がなんかせーへんかったら、多分そのままやで」
「そうはいっても・・・小泉の気持ちがいちばん大事やろ」
「大谷は優しいからなぁ・・・」
「・・・・・・・優しいって、なにがやねん」
 そう呟きながら、大谷は深い溜息をついた。


 わざわざ言われんでも、分かってんねん。
 オレかて、正直、今のままの関係でいるのはどうかと思てんねん。
 無理やりとか、そんなんするつもりはもちろんないけど。
 もっと・・・知りたい思うねん。
 小泉のことは、誰より分かってるつもりやけど。
 もっともっと知りたい思うねん
 誰も知らん、本当の小泉を知りたい。
 そして、オレのことかて、全部全部知ってほしい。

 せやけど、それを小泉には言えん。
 言うたら、あいつどーなるかわからへん。
 卒業旅行の時、そんな雰囲気を敏感に感じとって。
 オレ、部屋から追い出されたやんか。

 あの時、オレ何もする気なかったで。
 ・・・あいつの心の準備まだやったし。
 そら、あいつがしてほしい言うなら、なんも問題ない・・・けど。
 いや、そんなんありえんやんけ。
 けど、それやなのに、あいつめちゃくちゃ動揺してん・・・

 あれ以来、オレめっちゃ気ーつかってん。
 そういう話題は一切出さんようにしてん。
 だから、オレが本当はどう思ってるか。
 あいつは気づいてないはずや。


 ・・・・せやけど。


「てか、付き合いだしてから、もうずいぶんたったやろ」
「・・・・・・1年と半年・・・ぐらい?」
「よー我慢してる思うわ。大谷エライなぁ」
 そう言いながら、中尾はニコニコした顔で大谷の頭を撫でる。
 大谷はムッとした顔をして、その手を払った。
「エラくないわっ!」
「でも、ほんまのところは違うんちゃう?大谷の本心」
「へ?」
「小泉さんの気持ちやなんや言うてるけど、そんなん言い訳やろ?」
「なっ・・・」

 こういう時の中尾は、意外と鋭い。
 てか、優しいイメージの強い中尾やねんけど、いや、実際優しいんやけど。
 意外とオレに対しては、確信を突くこと言うてくる。

「ほんまは大谷がこわいだけなんちゃう?拒否られたらどうしよう思て」
「ぐっ・・・・」
(・・・ほんま、なんでこいつはこんなに鋭いねん)


 中尾は黙り込んだ大谷を見ながら、おそるおそる訊ねる。
「まさか・・・まさかやねんけど・・・」
「なんや」
「・・・チューぐらいはしてんよなぁ?」
「そんなん・・・」
「そんなん?」
「・・・・・・・・・・・・・しとる・・・わ」
 その言葉に、中尾はまじまじと大谷を見る。
「そらよかった・・・けど、そしたらいい雰囲気なるんちゃう?」
「なる・・・けど」
「そのままいかへんの?そういう時に」
 大谷はなにも言い返すことができなかった。



 中尾が帰った後。
 大谷は部屋で一人、考え込んでいた。

 中尾の言うことは当ってんねん。
 ・・・オレ、こわいんや。
 卒業旅行の時みたく、拒絶されんのが、こわくてしょーがないねん。

 そら、まぁ。
 チューはする。
 そこまでなら、あいつ抵抗ないねん。
 恥ずかしそうにするけど、逃げないねん。
 だけど、その先はアカン。

 もしも、もしもの話やけど。
 その先に進もうとして、また拒否られたら。
 ・・・オレ、ほんま立ち直れへん。

 いまはオレのことすきや言うてるけど。
 オレがそんなん考えてる知ったら。
 態度に示してしまったら。
 それでもあいつは、いままでと同じくすきや言うてくれるんやろか。

 けど、このままでええんか、そう思うのも、男として当然やろ?
 オレがぐずぐずしてたら、もしかしたら、他の男にとられてまうかもしれん。
 でも、あいつの気持ちが一番大事なんも分かってん。


 ・・・オレ、どないしたらええねん。


 大谷はベッドの上で何度も寝返りを打つ。
 すると、テーブルに置いたままの、大学でもらったゼミ旅行のパンフが目に入った。


 ゼミ旅行・東京。
 2/26〜29。3泊4日。
 現地集合、解散


(そういや・・・もうすぐゼミ旅行やな・・・)
 大谷はのろのろと起きあがると、テーブルにあるパンフを手にし。
 そして、何の気もなしに中身を読み始める。
 が、大谷の目は、ある一点を見つめたまま、動かなくなった。


 "現地解散"


 もしかしてやけど。
 現地解散やったら、小泉呼び寄せて、
 そのまま旅行ってのもアリ・・・?


 そこまで考えて、大谷は頭をぶるぶると横に振った。


 そんなん、小泉が行くなんて言う訳ないやん。
 泊まりの旅行なんて。
 絶対無理に決まってる。
 絶対無理に・・・・・・
 ・・・・・・・・・・


 そうは思いながらも。
 大谷は手にしたパンフを、じっと見つめていた。
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