ラブ★コン シリーズモノ

□プリクラ
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 ある日の午後。
 リサは大谷の部屋に遊びに来ていた。

「あんな?お願いがあるんやけど」
 それまでいつも通りに騒いでいたリサが、急にしおらしく話しかけてきて。
 大谷は少しビクッとした。
「お願いて・・・何や?」
 リサの様子を窺いながら、大谷は訊ね返す。
 すると、リサはぎこちなく笑いながら言った。
「・・・携帯貸してほしいやねん・・・けど」
「携帯・・・誰の?」
「大谷の」
「なんで・・・」
「・・・あかん?」
 そんなリサの態度に、大谷が少し訝しげな顔をしつつも、携帯を差し出すと。
 リサはえへへと笑いながら、携帯を受け取り。
 そして、自分のバッグから手帳を取り出すと、そこに挟んであるプリクラを取り出した。

「おまえ、なに・・・」
 大谷が止めるよりも早く、リサは携帯を開くと、手にしたプリクラを貼る。
 携帯のディスプレイの脇に、ちょこんと貼られたプリクラ。
 仲良さげな、大谷とリサのプリクラ。

「おまえなぁ・・・勝手になにしてん」
 リサから携帯を奪い返すと、大谷は不機嫌そうな声で言った。
 そんな大谷の様子に、リサは少し慌てた表情をする。
「えと・・・な?昔、撮ったプリクラ、部屋から出てきてん」
「・・・それで」
「いっぱいあったから、大谷もいるかなー思て」
「で、なんで携帯に貼んねん」
「・・・それは、なんとなくちゅーか・・・」
「は?なんとなく!?」
 少し声を荒げた大谷に、リサは後ずさりする。
「ほ、ほらっ!大谷も・・・か、可愛い彼女のプリクラ、いつも見てたい・・・やろ?」
「可愛い彼女て・・・どこにおんねん」
「目の前・・・かなぁ・・・」
 少し呆れ気味の大谷の視線を感じつつも、リサはぎこちなく笑う。
 そして、溜息を吐きながら、呟くように言った。

「・・・・・・浮気・・・防止」
「はぁ?」
「こないだ、のぶちゃんと電話してん。で、大谷が合コン行きおったー言うたら・・・」
「おまえなぁ、まだあのこと・・・」
 大谷の言葉を遮るように、リサは話し続ける。
「それやったら、おまじないしときー言われてん」
「おまじない?」
「携帯にな?2人で撮ったプリクラ貼ると浮気防止になる・・・て」


 大谷とリサの間に、短い沈黙がながれる。


「おまえは・・・」
「な、なによ」
 少しふてくされた感じの顔をしながら、大谷は頭をポリポリとかく。
「・・・オレがそんな風に見えんのか?」
「見えるって?」
「浮気するように見えんのか?」
「見えへん。けど・・・」
「・・・けどってなんや」
 リサは言いにくそうな顔をする。
「・・・・・・だって、大谷流されるやん」
「・・・・・」
「女の子にもてるし、雰囲気で流されるかも・・・思て」
 そこまで言うと、リサは大谷から視線を逸らし、窓の外に目をやる。
 今日は朝から、雨が降り続いていた。
 窓ガラスに叩き付ける雨の音だけが、部屋の中に響きわたる。


 ・・・だって。
 大谷はあたしのこと、すきやなかったやん。
 せやけど、あたしが何度もすきや言うて。
 振られてもあきらめへんかったから。
 せやから、すきになってくれた。
 振り向いてくれた。

 だから、ほんまにたまにやねんけど。
 思ってしまうねん。
 こんなん思ったらアカン・・・
 そうはわかってても、考えてまうねん。

 もしかして。
 あたし以上に大谷のこと、好きなん子が出てきたら。
 大谷、そっちに行ってまうかもしれん。

 ・・・ひとの気持ちは変わるねん。
 良くも悪くも、変わるねん。
 それを、あたしはよー知ってる。


 黙り込んだままのリサを、大谷はじっと見ていた。
 そして、深く溜息を吐くと、ボソッと言った。
「おまえかて流されるやん」
「あ、あたしは流されへんもんっ」
「ウソつけ。ほな、小堀ん時は、なんやったん?」
 痛いところをつかれて、リサは一瞬、言葉に詰まるも、すぐに言い返す。
「・・・い、いまは、そんなん関係ないやろ」
「関係ある」
 大谷の鋭い眼差しに、リサは思わず視線を逸らすと、オドオドしながら答えた。

「あ、あれは・・・海・・・坊主に・・・つられたいうか・・・」
「海坊主・・・ねぇ」
「そ、そうや!海坊主がシブすぎたんが悪いねん!!」
「アホか。ああいうのを 流される 言うんや」
 面白くなさそうな顔をして、大谷は言い放つ。
 そして、軽く溜息を吐きながら言った。

「・・・・・・まぁ、ええけどな」
「え?」
「したかったらすればええねん」
「なにを・・・?」
「浮気」
「な、なに言うてん・・・」
 思いがけない大谷の言葉に、リサは唖然とした。

 ・・・なに、このおっさん。
 大体、あたしが浮気とかありえへんし!
 つーか、あたしが浮気しても・・・
 大谷は、どーでもええの・・・?

 睨み付けるかのようなリサの視線も、大谷は気にせずペットボトルを口にする。
 その冷静な態度が、かえってリサには腹立たしく見えた。
「・・・浮気してもええんや」
「言うとくけど、ゲームのキャラとは浮気できひんで」
「そんなんせんもん!!」
 リサは顔を真っ赤にして、大谷に食って掛かった。

「そんなん言うてたら、ほんまにするで?」
「ふぅーん・・・」
「あとで謝ったって遅いんやから!」
「そうやなー・・・」
 気のない返事に、リサの頬がますます膨れる。
 そして大谷を睨みつけたまま、ふっとその表情が緩むと。


 いまにも泣きだしそうな顔をした。


「・・・・・なんで、そんなん言うねん」
「・・・え」
 それまでとは違った静かな口調に、大谷は思わずリサを見つめる。
「あたしが他の人のこと見ても、大谷は気にならへんの?」
「気になるに決まっとるやろ」
「だったら、なんで・・・」
 涙がこぼれないように、瞳を目一杯開くリサを見ながら、大谷はリサの頭をぽんぽんと叩いた。
 そして、そっと着ていたシャツの袖口でリサの涙を拭う。

「おまえ、ほんまにすぐ泣くなぁ」
「泣いてへんもん」
「そうですか・・・」
 ぶっきらぼうに言いながらも、大谷はリサの頬に手をあてると。
 その瞳に唇を寄せる。

「なっ・・・なにっ」
 驚いて思わず後ずさりしかけたリサの腕をひっぱると、大谷はそのまま抱き寄せる。
 そして、自分の胸に顔を埋めるリサの髪を、幾度となく撫でた。
「おまえはほんま、アホやな」
「なにがよぉ・・・」
「だってそうやろ?なんもしてへんのに泣くアホがいるか」
「したやん!大谷・・・あたしに浮気してもええて・・・」

 大谷はふぅっと息を吐くと、リサから少し身体を離す。
 そして、顔を覗きこむ。

「どーせ、戻ってくるやろ」
「へ?」
「浮気したかて、戻ってくるやん」
「なに・・・を言うて・・・」
「てか、おまえみたいなん、オレぐらいしか一緒におれへんやろ」
「そんなん・・・わからんやん」
 顔をぐちゃぐちゃにしながらも、リサは大谷を見る。

「泣き虫小泉。大体やな、おまえが疑うから悪いねん」
「・・・疑うって・・・」
「言うとくけど、オレは浮気したことないし、する気もない」
「・・・・・」
 大谷はバツの悪そうな顔をしたリサの髪を撫でながら、少し顔を近づける。
「せやのに、浮気防止とか・・・」
「あ・・・・・・えと・・・」
「オレ、めっちゃ信じられてへんやんけ」
 ふてくされた声でそう言うと、大谷は真っ直ぐにリサを見た。
「・・・も、もしかして、怒ってん・・・?」
「ちょびっとな」
「ご、ごめん・・・」
「分かったんならええ」
 そう言うと口を横に広げて、大谷はニッと笑った。
 その表情にリサもつられるようにして、笑顔を見せた。


「・・・あーでも、やっぱりアカンわ」
「へ?」
 しばらくして。
 それまで笑っていた大谷が、急に表情を硬くした。
 リサは、そんな大谷を見ると、きょとんとした顔をする。
「・・・アカンて、なにが?」
「おまえが他の男と一緒におるの想像しただけで・・・」
「想像しただけで?」
 大谷の顔を覗きこむようにして、リサは訊ねる。
「・・・なんや、すごいムカムカしてきた」
「大谷・・・」
 大谷の顔はふてくされた顔をしているも、その頬は赤く。
 リサは思わずえへへと笑った。

「ムカムカしたん?」
「めっちゃしてきた」
 大谷は笑顔を見せるリサの頬に、軽く触れる。
「笑ってる場合ちゃうねん。やっぱり浮気はアカン」
「誰かさんがムカッとするから?」
「そーやっ」
 リサはクスクスと笑いながら、きっぱりと言う。
「そんなん、せえへんよ」
「なら、ええけど」
 そこまで言うと、大谷は急に真面目な顔をして。
 そっと、リサにキスをした。



「けど、プリクラは貼っといたままでええで」
「え?」
 キスの後、携帯を手にしながら、大谷はニヤッと笑ってリサを見た。
「だってなぁ。 "可愛い彼女" がいつも見れるんやろ?」
 その言い方に、リサは頬を膨らませる。
「・・・なんか、バカにされてる気ーすんねんけど」
「あれ?わかった?」
「もーーー!!」

 気がつけば雨はやみ。
 明るい日差しが、窓の外から差し込んでいた。



END


 (2008-4-13)

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