ラブ★コン二次創作・3

□留守番
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「おやすみなさい」


 そう言って明かりを消すと、リサは布団にもぐりこんだ。
 今日はこの部屋に、リサひとり。
 大谷は泊りがけで研修に出かけていた。



 リサ以外、誰もいない部屋。



 一緒に暮らし始めて、それなりに月日も経ち。
 お互いに仕事をしているせいもあってか。
 大谷が家にいることは、それほど多くなかった。
 リサ自身も、ひとりで過ごすことに抵抗はなかった。



 それでも。



 夜は必ずこの部屋に帰ってきて。
 朝は必ず「おはよう」を言って。
 24時間、大谷に会えないことはなかった。





 真っ暗な部屋の中、遠くに聞こえる冷蔵庫のモーターの音。
 窓の外には、酔っ払いの騒いでいる声。
 ついさっきまで。
 テレビを見ていた時は、気がつかなかったのに。




 リサは布団の中で溜息を吐く。




 この部屋は思っていたより広いねん。
 ひとりで過ごすには広すぎんねん。

 ・・・・・・
 今夜は思ってたよりも、ずっとずっと。
 ずっとさみしい・・・なぁ。




 枕元にあった携帯を手にとると、
 じっと見ながら、リサは考える。




 メールしたらアカンかな。
 ・・・電話はアカンよな。
 さっきしたばかりやもん。
 でも・・・

 たった一日離れていただけなのに。
 ガランとしたベッドが、すごくさみしい。
 「おやすみ」言うた後は、いつもあたしの髪をくしゃっと触って。
 その手の温かさに、安心できるのに。

 なんでやろ。
 実家では一人で寝てたのに。
 明日になれば、大谷帰ってくるのに。
 ・・・・・・せやのに。




「・・・・・・・」




 ・・・ひとことだけ。
 「おやすみなさい」のひとことだけ。
 メールを送ったとしたら。

 もしかしたら、返信来るかもしれん。
 もしかしたら、電話かかってくるかも・・・。
 ・・・・・・・・・けど。




 リサは携帯を抱えたまま、寝返りをうつ。




 たぶん、きっと。
 メールも電話もけーへん。
 大谷は、用がなかったら電話してけーへんもん・・・
 ・・・・・・・・・





 ブルルッ

 不意に、リサの腕の中で携帯が振動し。
 ディスプレイに「大谷」の文字を見つけると、リサは慌てて電話に出る。



「も・・・しもし?」
「・・・あー、まだ起きてた?」
「う、うんっ。でも寝よう思て、ベッドの中やねん」
「ごめん。ほなすぐ切るから・・・」
「切らんでいいっ」



 ベッドの上で正座をしながら、リサは話し続ける。



「ど、どーしたん?」
「あー、これからな。レポート書かなあかんねん」
「これからて・・・夜中なのに?」
「明日までに提出やからな」
「・・・研修て大変やな」
「・・・・・・・・・・」



 それやったら。
 もう話さんと、電話切らなアカンよな・・・。



「あのな」
「ん?」
「さっきの電話で、言い忘れたことあってん」
「な、なに?」
「・・・寝る前に、戸締り確認しとけよ?」
「・・・はい?」
「火元も確認しておかなアカンからな?」
「ちょ、ちょっと!あたし子供やないんやから・・・」
「つーか、めっちゃ心配やねん」
「・・・なにがよ」
「おまえが」



 一瞬の沈黙。
 リサは胸がドキンとなるのを感じた。




「・・・な、なにが心配・・・なんよ」
「全部」
「あ、あたしは、大丈夫やで?」
「そーかぁ?こないだ鍵なくしたー言うて大騒ぎしたやんけ」
「へ?」
「風呂場の水も溢れさせて、階下の人にめっちゃ謝ったよなぁ」
「・・・・・・・・・」
「オレがおらんと、ボケーとして、なんかしでかしそうちゅーか・・・」



 リサは携帯に向かって怒鳴りつける。



「なんなん!?こんな夜中にケンカ売ってん?!」
「売ってへん」
「売ってるやん!めちゃ腹立つ!!」
「てかおまえ、夜中にそんな大声出すなや」



 なんなん!?
 人がさみしいとか思てたのに!
 なんで、こんなんケンカ売られなアカンの!?




「用がないんやったら切るで!」
「アホか。用はあるっちゅーねん」
「なによっ」



 そこまで言うと、急に言葉が途切れる。



「・・・・・・」
「急に黙り込まんといてよ」
「・・・・・・・・・だか・・・ら・・・」



 長い沈黙。
 なにか言おうとしている大谷の気配に、リサは耳を澄ませた。
 そして・・・




「・・・おやすみ」
 ツーツーツーツー・・・



 そのまま切られてしまった携帯を見つめながら。
 リサはしばらく動けないでいた。



「おやすみて・・・・・・」
 そう呟きながら携帯を抱きしめ、リサはベッドに転がる。
 少し不満げにくちびるを突き出しながらも、なぜか顔はにやけてくる。


 電話なんて、用がないとせーへん言うてたのに。
 「おやすみ」言うために電話かけてきてん?
 これからレポート書かなアカンのに・・・


「えへ・・・へへ・・・」


 ・・・・明日は、ちょっと早起きして。
 大谷のすきなモン作って。
 駅まで迎えにいって。



『おやすみ(>▽<)』


 そうメールを送信すると、明日のことを考えながら。
 リサは眠りについた。



END


 (2008-5-10)

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