ラブ★コン二次創作・3

□ちょびっと
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「寒いなぁ・・・」
 そう呟きながら、リサは道を急いでいた。


 5月半ば。
 本来なら、初夏の暑さを感じ始める季節。
 なのに。
 今年はなぜか、季節が逆戻りしたかのように寒くて。

 薄暗い空。
 さっきから、風も強くなってきた。
 これは雨になりそうと、リサは早足になる。

 久しぶりに、リサは大谷の部屋に遊びに行く予定で。
 ひとり暮らしをしている大谷のために買いこんだ食材を、両手いっぱいに抱きかかえ。
 足取り軽く、アパートの階段を登る。


「鍵は〜・・・っと」
 ゴキゲンな笑顔を見せながら、リサはバックの中をゴソゴソ。
 ゴソゴソ、ゴソゴソ・・・・・・ゴソゴソ。


「あ、あ・・・・れ・・・?」
 もう一度、今度はしっかりとバッグの中に手を入れて。


 ・・・・・・・・・なのに。
 見つからない。
 肝心の鍵が見つからない。



「・・・・・・・・・・・・・」



 ・・・・・・・・・
 そうや・・・
 新しいキーホルダー付けよう思って。
 昨日の夜、鍵をバックから出して。

 そのままテーブルに置きっぱなしやん・・・



 大谷の部屋は、真っ暗なまま。
 今日はサークルで、帰りの時間が遅くなると言っていた大谷。
 慌てて取り出した携帯は、あろうことか、電池切れ。 


 リサは部屋の前で、へなへなと座りこむ。


 なにしてん・・・あたし。
 せっかく晩ご飯作って、大谷が帰ってくるの待ってよう思たのに。
 てか、大谷かて、当分帰ってけーへん。
 携帯も使えへん。
 あたし・・・どないしたらええんやろ・・・



 くしゅんっ



 ポツポツと雨が降りだし。
 急に冷え込みが厳しくなってくる。

 空を見上げながら、リサは大きな溜息ひとつ。


 夕方から雨やって、天気予報で言うてた。
 いつもは当たらんくせに、今日は見事に的中やん。
 ・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・てか、寒い・・・


*     *     *     *     *

 夜9時過ぎ。
 アパートの階段を登りきった大谷は、部屋の前に誰かいるのに気づいた。
 (座りこんで・・・寝てる・・・?)
 おそるおそる近づいてみれば、見覚えのある服と、バックと・・・。


「こ、小泉っ!?」
 慌てて肩を揺らして起こすと、寝ぼけた顔をしながら、リサは大谷を見た。


「おまえ・・・なにしてん」
「おー・・・たに、やっと・・・帰ってきた〜・・・」
「こんなとこでなにしてんっ。つーか・・・」


 大谷はリサの頬に触れる。


「めっちゃ冷え切ってんやけど」
「・・・・うっ・・・・・」


 涙目になりながら、大谷を見つめるリサを抱き起こすと。
 大谷は鍵を開け、部屋に入った。


「あんな・・・鍵、忘れてもーて」


 テーブルの前にちょこんと座りながら、申し訳なさそうな顔をして。
 リサは大谷に説明し始める。


「だったら携帯に連絡くれれば・・・早く帰ってきたで?」
「・・・携帯も充電切れやったん」
「・・・だからって・・・玄関前で座って寝てたん?」


 無言のまま、こくんと頷くリサ。


「あほ」
「・・・・・・・ど、どーせあほやもん」
「今日は夕方から雨で冷え込むて、天気予報言うてたやろ・・・。どんぐらい外におった?」
「ど、どんぐらい・・・とは・・・」
「まさか、夕方からおったとか言わんよな?」
「・・・・・・・」


 その通りとは言えない雰囲気に、リサは思わず口ごもる。
 そんなリサの様子を見て、大谷は呆れた口調で呟いた。


「ほんまに・・・」
「だって!!」


 大谷の言葉を遮るように、リサが大きな声を出す。


「・・・・・・・だって・・・な?久しぶりやったから」
「なにが」
「部屋に来んの。ここんとこずっとご無沙汰やったやん・・・」
「そうやったっけ?」
「そうやの!」


 とぼけて返事をする大谷に、リサは少し頬を膨らます。


「せやから、鍵取りに帰る時間もったいなかってん・・・」
「・・・・・」
「雨も降ってきたし、鍵取りに行ってる間に、大谷帰ってくるかも〜思たら・・・・・・・・・」
「思たら?」
「・・・・・・・・玄関から離れられへんかった・・・」


「・・・そんなに」
「へ?」
「そんなに、オレに会いたかったんか?」


 大谷は、ニカッと笑いながら、リサに顔を近づける。
 至近距離の大谷に、顔を真っ赤にしたリサは、思わず視線を逸らす。


「お、大谷こそ!あ、あたしに・・・会いた・・・かった?」
「へ?」
「せやから!・・・・・・・・あたしに、会いたい思た?」
「・・・・そうやなぁ」


 少し勿体つけながら、大谷はフッと笑う。


「・・・・・・ちょびっとな」
「ちょび・・・・っと・・・?」
 大谷の返事に、リサは思わず拍子抜けしたかのような表情になる。


「な、なによそれ!!」
「だから、ちょびっと・・・・」
「もぉ!!!」


 そう言って怒りながらも、リサはくしゃみをひとつ。


「まだ寒いんか?」
「ううん。もう平気」
「でもくしゃみしとるやん」
「あーそれはそれ。へい・・・・・・・・・・・くしゅんっ、くしゅんっ」


 くしゃみが止まらないリサを見ながら、大谷は少し心配そうな顔をして。
 そして。


「こっち来てみ?」
「ん?」
 その言葉に、きょとんとした顔をしたリサの腕を掴み。
「おまけや。あっためたる」
 そう言うと、大谷は優しくリサを抱き寄せる。


「ちょびっと会いたかったから、出血大サービスや」
「もー!さっきからちょびっとばっかし言うて・・・」
 強がって文句を言いながらも、リサは不安げな目をして大谷を見る。


「なぁ・・」
「なんや?」
「あの・・・な?」
 リサは俯きながら、大谷のシャツを掴んだ。


「・・・ほんまに、ちょびっとだけ?」
「なにがや」
「ちょびっとしか・・・会いたなかった?」
「誰が」
「大谷が」
「誰と」
「・・・あたしと」


 一瞬、意味が分からないという顔をして。
 でも、すぐに、大谷はぷっと吹き出すと大声で笑った。


「・・・おまえはあほやなぁ、ほんまに」
「な、なによぅ・・・・」
「あのな?ちょびっと会いたいぐらいやったら・・・」
「・・・・・」
「こんなんせんわ」
 そこまで言うと、大谷は照れくさそうな顔でリサに笑いかけ。
 そっとくちびるを重ねた。



 ・・・・・・そして。
 さっきまでの寒さはどこへやら。
 あったかい腕に抱かれながら、リサは幸せそうに微笑み。


 ちょびっとなんて、意地はって。
 素直やないんやから。
 ほんまはめっちゃ会いたかったって、言うてくれてもええのに。
 ・・・・・・・・・
 ・・・・えへへ


 そんなことを思いながら。
 リサは大谷の腕の中で、静かに目を閉じたのだった。



END


 (2008-5-21)

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