ラブ★コン シリーズモノ

□合コン
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 大谷はエレベーターに乗り込めなかったリサを、あからさまにムッとした顔をして見ていた。
 そして、無言のままリサの腕をとり、そのまま歩き出す。
「・・・な、なにっ・・・」
 大谷の迫力に、リサはまともに抵抗すらできず。
 行き先も分からぬまま、大谷に引きずられる様にして歩く。

「ちょ、ちょっと、どこいくんよ」
「・・・・・・・」
「あたしっ、友達と一緒やったん。みんな心配してる・・・」
「・・・・・・・」
 リサが何度話しかけても、大谷は返事をしない。
 ただひたすら、歩き続ける大谷を見ながら、リサは溜息をついた。
 その瞬間。
『マジハンパない電話だぜ!』
 リサの携帯に着信が入る。
 リサが慌てて携帯を取り出すと、それはさっきまで一緒にいた友達からの着信だった。

「うん・・・うん。ごめん。・・・・やっぱり酔ったみたいやから、あたしこのまま帰るわ」
 階段の陰にあるベンチに腰かけながら、リサは携帯で話をしていた。
 大谷はそんなリサを見ながら、すぐ横にある自動販売機で飲み物を買い、リサに差し出す。
「・・・ありが・・とう・・・」
 携帯を切った後、大谷から飲み物を受け取りながら、リサは大谷を見上げた。
 相変わらずムスッとした顔のまま、大谷はリサの前に立っていた。

「なんで黙り込んでんよ・・・」
「・・・・・」
「なんか言うてよ」
 大谷は買ったばかりのペットボトルを口に運ぶと、ゴクゴクと飲み干す。
 そして、深い溜息をつくと、低い声で言った。

「あれ、なんや」
 それは、ひどく冷静な口調で。
 でも、それがかえって、大谷の機嫌の悪さを表しているようで。
 リサは思わず身震いをした。 
「あ・・・あれって、なによ」
「さっきの合コン」
 『合コン』の部分を、思いっきり大声で言われ、リサは少しムッとした。
(あたしのは合コンちゃう!大体、自分は合コンしとっても、あたしがするのはアカンって訳?)

「"合コン" ちゃう。実習の打ち上げやねん」
「はぁ?打ち上げなんか。あれが」
 明らかに不機嫌な口調で、大谷は言い返してくる。
 リサも、そんな大谷の態度に合わせるかのように、気持ちがだんだんとヒートアップしていく。
「何度も言うてるやん。打ち上げや!てか、大谷こそ合コンやろ?!」
「オレは勉強会やって騙されてん」
「そんなアホな言い訳したって・・・」
「言い訳ちゃうわ!ほんまに騙されてん!」
「信じられへん!大谷ウソばっかやん!」
「なんやその言い方!オレなんもウソついてへんぞ?!」
「じゃあなんで勉強会なんて言うたんよ!」
 思わず叫んでしまったリサを、大谷は睨みつけるようにして見た。

「騙された言うてるやろ。オレの言うこと信じろや」
「信じられへん・・・」
「信じろよ」
「無理・・・やもん」
「なんで」
「・・・てか、もういい」
 少し俯きながらそう言うと、リサはカバンを手にとり立ち上がる。
 そして、引きとめようとした大谷の手を振りきり、歩き出そうとする。
「どこ行くねん」
「家に帰る」
「まだ話、終わってへんやろ」
「・・・もういいて、言うたやん」

「小泉」
 腕を掴まれて、リサはその場に立ち止まる。
 大谷に背を向けたまま、沈黙が二人を支配する。

 ビルの中とはいえ、お店のある位置からは死角のこの場所にいるのは、大谷とリサの2人だけだった。
 遠くで学生や社会人のグループが騒いでる声が、ひっきりなしに聞こえているも。
 2人の周りは、静かなままで。

「手、離してよ」
「・・・嫌や言うたら?」
 そう言うと、大谷は強く腕をひき、リサを強引にベンチに座らせた。
 そして、驚いて動けないままのリサを抱き寄せる。
 リサは逃れようと腕を伸ばすも、大谷にしっかりと抱きしめられ、動くことができない。
「・・・離・・・して」
「嫌や言うたやろ」
「なんでよ・・・」
「おまえが・・・オレのこと信じられへん言うから・・・」
「だって・・・」
「だって・・・なんやねん?」
「・・・・・・・・・もう・・・やだっ」
 リサは大谷の腕の中で、暴れながら涙声で叫ぶ。
 そんな涙声のリサに驚いた大谷は、リサから少し身体を離し、目に涙を溜めているリサを見つめる。
 そして、優しくその涙を拭いながら、リサの顔を覗きこむようにして話しかける。

「なんで・・・泣いてんねん・・・」
「・・・大谷が・・・離してくれへん・・・から」
「離したやろ。でも泣いてるやんか・・・」
「・・・・・泣いてへん」
「ウソつけ」
「ウソやない・・・」
 リサは俯き、大谷の視線から目を逸らす。


 大谷なんか・・・
 あたしにウソついて、可愛い子と仲良くして・・・
 ・・・ウソ・・・ついて・・・


「・・・なんでオレから目ー逸らすん?」
「・・・・・・逸らしてへん」
「ほな、ちゃんと顔あげろや」
「・・・あげたない」
「なんで・・・」
「大谷の顔なんか、見たない・・・」
 その言葉に、大谷の動きが止まった。

「・・・そんなに嫌か?」
「・・・・・・・・」
「そんなにオレが信じられなくて、顔も見たないか?」
 大谷は、リサの両肩に置いた手に力を入れる。
 リサはその力強さに、思わず身体を縮こませる。
「・・・おーたに・・・痛・・・いよ・・・」
「答えろや」
「・・・肩・・・痛い・・・」
 かみ合わない会話を続けながらも、リサは俯いたまま、大谷に顔を見せようとはしない。
 そんなリサを見ながら、少し考えて、大谷は肩に置いた手を下ろす。
 そして。
「・・・頼むから、顔あげてくれ」
 それまでとは違った大谷の懇願するかのような口調に、リサは驚いた。
 そして、おずおずと顔をあげた。


 顔をあげたリサの目に映った大谷は、さっきまでとは別人のように、寂しげな表情をしていた。
 そして、リサにぎこちなく笑いかける。
「・・・悪かった」
「え?」
「・・・家に帰るんやろ。送ってく・・・」
 そこまで言って、大谷はリサから目を逸らす。
「オレが送ってくのも、嫌か?」
「・・・おー・・・たに?」
「まぁ、嫌でも我慢しろや」
「・・・大谷・・・どうし・・・たん?」
 リサは大谷の言葉の意味を理解できず、瞬きもせず、ただじっと大谷を見ていた。

「・・・別にどうもせーへんよ。ただ・・・」
「ただ・・・?」
「おまえ、オレの顔、見たないんやろ」
「え・・・」
 リサはその言葉を聞いてハッとした。
 そして、瞬時に理解した。


 「大谷の顔なんか、見たない・・・」


 ついさっき、口を滑らして言ってしまった言葉。
 大谷はその言葉を真に受けてしまったのだと。
 大谷に詰めよられて、意地をはって言ってしまった言葉を、大谷は信じたのだと。


「ちゃ、ちゃう・・・よ」
 声を震わせながら、絞りだすように言うと、リサは大谷をじっと見つめる。
 今にも泣きださんばかりのリサの表情に、大谷は戸惑いを隠せなかった。
「・・・なんや?」
「ちゃうの・・・見たないとか、ちゃうの・・・」
「なに言うて・・・」
 リサは目をゴシゴシと擦りながら、絞りだすような声で答える。
「・・・・・・・大谷・・・合コンて・・・あたしにウソついてん・・・」
「え?」
「だか・・・ら、ウソつかれたん・・・嫌やってん・・・」
 そこまで言うと、リサは我慢しきれなくなったのかワンワン泣きだした。
 子供みたいに泣き喚くリサを見ながら、大谷はためらいがちに腕を伸ばす。
 そして、優しく抱きしめると、慰めるように何度もリサの頭を撫でた。


 どれぐらい時間が経ったのか。
 泣きつかれて、リサが落ち着いてくると。
 大谷はリサから少し身体を離して、顔を覗きこむようにして言った。
「・・・なぁ。オレ、ウソだけはついてへんで」
「・・・・・・・」
「ほんまに勉強会やと思ってたし。大体、最初から合コンて知ってたら行く訳ないやろ」
「・・・・・・・ほん・・・ま?」
「おまえおるのに、なんで合コン行かなあかんねん」
 リサは真剣な眼差しの大谷をじっと見た。


 ・・・・・・なぁ。
 ほんまに、信じて・・・ええの?
 そんなん顔されたら、信じるしかないやん。

 ううん、ちゃう。
 信じなあかん。
 大谷は、いつもあたしのことアホや言うけど。
 あたしにウソついたことはない。

 瞳さんの時だって。
 ウソつけば誤解されへんかったのに、正直に全部話してくれた。
 そうや。
 大谷は、あたしにウソなんかつかへん・・・


「おーたに・・・ごめん」
「・・・分かればええねん」
 俯き加減に謝るリサを見ながら、大谷はその頭をぽんぽんと軽く叩く。
「あたしアホやな。大谷のこと信じられへんくて」
「・・・オレも、誤解させるようなことしたんは確かやし・・・」
 そこまで言うと、2人は顔を見合わせ、声を出して笑った。
 大谷はベンチに座ったままのリサの頭を、優しく抱きしめる。
 そして、幾度となく髪を撫でながら、静かに話しだす。

「あのな」
「・・・なに?」
「一個だけ、言っときたいことあんねん」
「言っときたいこと・・・て、なに?」
 大谷から少し身体を離し、リサがその顔を覗きこむと。
 大谷はリサから目を逸らし、軽く溜息をつく。

「・・・あんなんはやめてくれ」
「・・・あんなん・・・?」
 リサはきょとんとした顔をして大谷を見る。
「打ち上げちゅーか、合コンや」
「・・・・・もしかして、あたしがさっき参加してた・・・」
 大谷は無言で頷く。

「あれは・・・打ち上げやで?」
「オレ、男もおるなんて知らんかった」
「・・・それは、言うてなかったかも・・・しれんけど・・・」
「勝手に思い込んでたオレも悪いねんけど、女の子同士や思てた」
「・・・そう・・・なん?」
 はぁーっと、大谷は深い溜息をつく。
「男がおるなんて知ってたら、絶対行かせへんかったわ」
「おーたに・・・」
「おまえ酔っ払うとめちゃくちゃするし。それに・・・」
「それに?」
「・・・酔っ払った男の中に、おまえ置いときたくないねん」
「・・・それって・・・」
 そう言いながらクスッと笑ったリサを、照れくさそうな顔をして、大谷はもう一度ぎゅっと抱きしめた。

「・・・もう、怒ってへんか?」
「怒ってへんよ」
「ほんまに?」
「・・・大谷、あたしの言うこと信じられへんの?」
 リサはぷぅとほおを膨らます。
「誰かさんやって、さっきまで信じてくれへんかったやろ」
 そんなリサを見ながら、大谷はニカッと笑うと、その頬に軽く触れて。
「ここ、めっちゃ膨れてるなぁ」
「これは元からこういう顔なん」
「そうやったっけ」
「もー知らん!」
 そう言って、リサは横を向き、大谷から視線を逸らすと。
 大谷は両手でリサの頬を挟み、強引に自分の方へ向かせる。

「なに・・・よ」
 大谷はリサの言葉も聞かず、顔を近づけてくる。
「お、大谷、アカンて」
「なんで」
「人に見られる・・・」
 思わず身体を後ろに引くリサに、大谷はとぼけた口調で言う。
「周り・・・誰もおらんで?」
「で、でもっ、遠くから見られるかもしれん・・・」
「見えへんて」
「なにワガママ言うてんよ・・・」
「・・・ちょっとチューしたなっただけやんけ」
「何言うて・・・って、もしかして酔っ払ってるんちゃう?」
「そうかもな」
「なに開き直って・・・」
「なんでもええがな・・・」
「よくな・・・」
「もーオレ、我慢の限界」
「え?なに言う・・・・・・・・・んーーっ」
 そして、リサの言葉を遮るように、大谷は唇を重ねたのだった。



 END
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