『魂の呼吸』

□久遠の果てに在るものは
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いつもどおり馬鹿でかい邸宅に帰ってくると、珍しく小包が届いていた。
これだけでも珍しいのだが、更に珍しいことに俺宛だった。心当たりのない俺は思わず首を傾げた。ここまで届いたということは、チェックに引っかからなかったということだ。
爆発物や危険物ではないようだ。
大きさもパソコン程度だ。手にとって見ると意外に軽い。ひっくり返して伝票を確かめる。
「……慶次からじゃねぇか」
よくここまで届いたな……。むしろどうして住所がわかるんだ。
俺の疑問は伝票を下まで読み進めることで解消した。底にはでかでかと、何の恥じらいもなく『片倉中将宅宛』とあった。それでいて宛先は『元親』となっているのだ。もうメチャクチャだ。差出人が慶次だったから届いたようなもんじゃねぇか。
この投げやりな郵送方法といい、相当呆れているか怒っているかどちらかだろう。多分、呆れていると思うがな。
それでも、いつか忘れたが、慶次に飯を奢った時の礼なんだろう。
小十郎と暮らすことを告げた時の慶次の猛烈な反対は、今さらだが、気づいた。
そんな状況でも、送ってくるところが、いかにも律儀で慶次らしかった。
だが、中身はまったく予想がつかなかった。
そこで俺はさっそく包みをはがすと、そこには手紙と箱。
とりあえず手紙は置いておいて、箱を開ける。平べったい白い箱だ。中身には、見覚えがあった。たしか、入浴剤だったと思う。小分けにされたパッケージにはちょっといくつかの種類があることがわかる。
さすが慶次だぜ、と思った。
「たまにはゆっくり湯船にでもつかるか」
いい機会だ。せっかく入浴剤も届いたし、いつもシャワーで済ませているから、たまにはいいだろう。
たまには使ってやらねぇと、屋敷に何ヵ所もある馬鹿でかいジャグジーつきのバスタブや映画にしか出てこねぇような猫足のバスタブが泣くってもんだ。
今日はもうやることもねぇだろうし。たまには、のんびり風呂もいいだろう。時間はたっぷりある。とりあえず、どのバスルームを使うかから考えようか。

猫足のバスタブに温泉の素という奇抜な組み合わせとなった。
入浴剤のパックを適当に1つ選び、封を切る。たっぷりと湯を張ったバスタブに中身の粉末をさらさらと注ぐ。粉末と湯が触れあった部分から、魔法のように色が変わっていった。全体に満遍なくふりかけてから、腕まくりをして湯船に肘まで浸けて混ぜる。すると、あっという間に湯船全体が乳白色に変化した。
「探したぜ、元親。何をしているかと思えば……」
後ろから声がかかった。どうやら見当たらない俺を探して、屋敷中探したような口ぶりだった。
「いつ帰ってきやがったんだよ、あんた」
「少し前にだ」
「へぇ」
今日はお早いお帰りで、などと嫌味を言うが、まったく小十郎は気にする様子もない。
それより俺が何をしているかに興味があるようだった。
「てめえこそ、どういう風の吹きだ?ゆっくり入浴とはな」
「いけねぇかよ、俺が風呂に入っちゃあ」
いいもんが届いたから、ちょいと使って見たかったんだよ。そう言ってタイルの上に投げ出したパックを取って、振る。
「なんだ、そりゃ」
「今夜は登別の湯」
と言っても俺にはそこがどこなのか、よくわからなかった。
「入浴剤さ。慶次がくれたんだよ。要は雰囲気だ、雰囲気。それっぽけりゃあいいんだよ。
納得しかねている小十郎に、そう言ってやる。
「そういうもんなんだぜ片倉さんよぅ。とっとと入ろうぜ?」
にやりと笑って振り返る。どうもその点に関しては、小十郎も異存はないようだった。
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