「喰らう」

 熱を帯びて喘ぐ息は止めようもない。声が漏れるのだけは何とか阻止しようと震えながら歯を食いしばるが、それも無駄なこととでも言いたげに上の男が笑う。
 できうる限りの目で睨み返すものの、その指が唇に触れたかと思うと、あっさりと彼の努力はこじ開けられてしまった。
「何す……っ!?」
 小十郎の顔が近付いて、浮かせた吐息ごと食らわれた。欲情は吐き出せなくなり、呼吸困難で頭は霞む。苦しくて何も見えない。息も絶え絶えにのしかかる胸板を押しのけ、唇が離れてようやく肺が満ちていく。
「っ苦し……」
「わりぃな」
「……いきなり何なんだよ」
「てめえの息が熱かった」

 耳にかかるんだ、声も。そう言って、頬を紅く染めた元親の顎を持ち上げた。
「勿体なかった」
 至近距離の目は恐ろしい。
 再び理性を手放そうとする彼の頭の中には、捕食の二文字が踊っていた。


<終>


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