比嘉
□ワンサイド リスペクト!
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※「焼き肉の王子様」舞台設定
(…あ…!)
ワイワイと賑わう焼き肉屋で、その長身はとても目立った。
いや、背丈で言うなら、知念や慧くんと大差ないし、わん自身そんなに ちびらーでもない。
でも、不思議と引きつけられた目線は、確かにわんの尊敬する人を捕らえていた。
(千歳…千里っ…!)
中2の時、永四郎が収集してきた九州地区テニス部の情報。
その中の一人、千歳千里の存在を知ったわんは、
(デカい身体して、オールラウンダープレーヤー!?じゅんにかよ!?)
…と、衝撃を受けたわけだった。
そして、少しでも千歳って奴みたいに強くなろうと、形から入るわんは、まず髪を真似てみた。
黒髪ストレートから、茶髪パーマへの大変身。
お袋たちがなんか言うかな―とか思ったけれど、
「あいっ。裕次郎、似合っとーさ―」
「裕次郎、ぃやーも父ちゃんに似て、やんちゃやさ〜!」
…なんて、拍子抜けな反応だったし、翌日部活に行ってみれば、周りも髪をいじったようで、わんだけ浮いてる感もなかった。
「…おい。あれ。ぃやーが尊敬してる、千歳って奴だろ?」
ふと、回想にふけっていると凛が脇腹をつついて話しかけてきた。
「おお…」
「何か、声掛けなくていいんば?」
例えば、有名人とか アイドル。
“会ってみたい”と、憧れる存在は誰にでもいるだろうが、実際目の当たりにした時、何をしたいとか、何を言いたいとかが咄嗟に浮かぶことは難しい。
それは、わんも例外ではないわけで――
「はぁっ?何話すば!?」
と、裏返った声が出てしまった。
(ヤベッ!)
注目を集めてしまうかと慌てて口を押さえて周りを見れば、談笑している奴が多くてホッとした。
この騒がしい店内、わんの声は そう響かなかったみたいだ。
「おい、裕次郎」
「ぬーか?つか、お前のせいで――」
「うりっ。見ちみー」
凛の指差す先。
(え、何でさぁ…)
四天宝寺の、談笑の輪の中で、わんの方を見る瞳。
「よし、罪滅ぼし。行くさ―、裕次郎」
「はぁっ!?ちょ、待てよ凛!!」
その瞳の元に、ズルズルと引っ張られて行く。
…嫌〜な予感しかしねーけどな…。
「よう。わん、比嘉中の平古場凛」
「千歳千里ばい。たいぎゃ目立つ金髪ったいね〜。桔平んこつ、思い出すばい」
「んで、こっちは甲斐裕次郎な。ぃやーを尊敬してるんだとよ―」
「!!!??オイッ!!?」
サァッ…と、血の気が引く思いで凛の口を塞げば
「へぇ…!なーん、照れるっちゃね。」
…と、意外な言葉が返ってきて。
「俺んこと、尊敬しとっとね?ばってん、俺はそんな凄か男じゃなか」
と、ニコリと笑いながらも握手を求めてくれる 千歳千里という男を、わんは改めて尊敬するのであった。
ワンサイド リスペクト!
(良かったな―裕次郎。感謝しろよ―)
(…おう)