夢
□バレンタインデー・キッス
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「こんなに食いきれねーよ。あ―ぁ…断わりゃよかった。重い…」
「よく言うよ。前断わったら女の子泣いちゃって、結局もらった事あるじゃん」
「あれはズリィよな―。わん、女の子の涙苦手だしよ―」
アハハと笑いながら、心の中の私に言い聞かせる。
これでいい。
これ以上裕次郎の荷物を増やしたくないから。私からは渡さないんだ。
本命の、チョコレート。
少しうつむいているから、道路と自分の足しか見れない。
道路のアスファルトと、自分のスニーカーと、
「んで、や―の分は?」
…裕次郎のスニーカー。
「へっ?」
いつの間にか私の前に回り込んでいた裕次郎の顔が、私の顔を覗き込む。
「やーの分!…ぬーがよ[何だよ]?くれないんばぁ―??楽しみにしてなのによ―」
「……うん、無いっ!」
「えー!!」
「いや、毎年重い思いして帰ってるの見てるからさ、少しでも軽くしてあげようかな―…なんて」
私なりの気遣いで渡さないチョコ。
…嘘。
怖くて渡せないチョコ。