Short novel

月華の旋律
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「お兄様。お待ちしておりました。お姉様からお兄様がどこかにフラフラと行ってしまう前に捕まえて来なさいと」


 清涼殿から出た辺りに年の離れた妹が今か今かと待っていた様子で話しかけてくる。


「ステラ。ここは宮中だからそう云う呼び方はダメだよ。ずっとここにいたの?」


 すると可愛らしい頭を大きく振って頷く。まだ八歳のこの妹のこの仕草はあの姉が同じ年頃だったころよりも随分と素直で可愛く映る。ただの兄の眼から見た贔屓目なのかもしれないがこうして一生懸命にお勤めを果たそうとする姿がいじらしくも可愛い。にこにことそれでいて自分にはグサリと来る事を姉の言葉そのままに伝えてくる。おそらくその言葉の意味を理解していないだろう。


「はい。来るようにと文を書いていても楽の音を聞きつければそちらの方に行きかねないから首に縄つけて連れてくるようにとお姉様……東宮女御から仰せつかっております」


 妹のその言にがっくりと項垂れしゃがみ込む。妹の……(元は)姉の言う通りだったりするものだから強くは否定できない。姉の言いつけを守ろうとしゃがみ込んだ兄の首に縄を巻こうとするステラ。首に縄をつけて連れてこいとはそう云う意味ではないのだがこう云った可愛いしぐさをされるとどうやってやめさせるべきか悩むところだ。

 それにしてもいったい何の用事で自分を呼びつけたのだろうか?







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