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□Sweet & bitter heart
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アルフォート王国は自然と平和を愛する国であり、自然豊かな王国である。対して隣国、エトワールは資源は少ないが、その少ない物資をいかに活用し、かつ、いかに国を繁栄させるかを極めたところ、技術と武力にたけた国であった。
Sweet & bitter heart
アルフォート歴380年早春、国王と正妃の間に春の妖精の様な穏やかで美しい自慢の姫君が産まれた。そして隣国エトワール帝国にも姫君よりも3年早くお生まれになった皇子と同じ年の晩春に産まれた姫君がいた。ちょうど年の頃合いも良い事から100年続く両国間の同盟の取り決めでなされた両国統一の要としてアルフォートの姫君が成人すると同時にエトワールの皇太子の元に嫁ぐ事が決められていた。
だがそれはエトワールの皇子が行方不明になるまでの事。
5年前、皇子が何者かに襲われた。明らかに他国からの刺客であり、婚姻によるアルフォートとの合併を快く思わない者の仕業と考えられた。
この縁談が壊れる事を危惧した皇帝は皇子の名前以外公表されていなかった事を逆手にとり、皇子の身を守るため、そして後学の為に身分を隠し、行き先を非公式で留学させたと云う。
この時は皇子の身を守るためとばかり思っていたが皇子の成人の儀が非公開で執り行われた年の暮れに置き手紙を残し、行方知れずとなった。
それで焦ったのは同盟国のアルフォート。
娘を嫁がせるはずだった男が行方知れずとなった事で婚約そのものをどうするべきか考えなおす事になってしまった。
もしこのまま王女の成人の日まで皇子が見つからなければ王女の結婚相手を考え直さなければならない。皇子が無理となれば先王の唯一の子、先王の王女の子であり、現段階で次期王位継承権第3位の男の元に嫁がせる事になる。まだ皇子の安否が不明で正式な婚約者は皇子のまま。公に発表するには早い次の婚約に頭を悩ませていた。
「ラクス、会議の結果もし皇子が戻らぬ時はアスランの元に嫁ぐ事に決まりそうだ。まだ公式発表をするには早い。もしもの場合はそうなると思っていてくれ」
「はい、お父様」
結婚……そう言われてもピンとこない。
幼い時から会った事のない隣国の皇子と結婚する事が決まっていたからずっと自分の相手は皇子だと思っていた。
でもここに来てその皇子が姿を消した。
成人の時までには戻るが安全のため、皇帝とその側近のみしか皇子の留学先を知らない。
恋も愛も知らずに同盟の為に嫁ぐ事を決められ、結婚の日を、婚約者である皇子に会える日をただ待つだけの日だった自分。
でも今はそれが辛い。
もし皇子が見つかっても見つからなくても自分は政治的目的で結婚させられる。好きな人とは結ばれない。それが虚しかった。
好きな人が傍にいるのにその人とは結ばれない。
こっちの縁談がダメになったらすぐまた別の縁組が来る。ただその繰り返しにしかならない。それが辛かった。