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□他が為に鐘は鳴る
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「………誰もいませんわよね……。では「どこに行かれるおつもりですか巫女様」キラッ」


 今日もまた脱走しようと抜け道の一つから出ようとしたラクス。非常口として作られたこの秘密の抜け穴を知っているのは代々神殿の最高位の姫巫女と神官長だけ。その秘密の抜け穴の一つを使って毎度毎度脱走してはこのキラに見つかり連れ戻されていた。いくつもある抜け道。どれを使うかはその日の気分次第。今日は天気もよさそうなので裏手の森にある湖まで行ってこようかと森への最短ルートの抜け道を使って神殿の外に出た。だが、毎度毎度のことで慣れていたのか相手もさることながらこちらの行動を見破っており、こうして出口で張られていた。


「巫女様。毎度毎度私が口を酸っぱくして言っておりますが貴女様は巫女姫であり、姫巫女。この神殿の最高責任者であると同時にこの国の王女殿下です。もしもの事があってはこの国の一大事です。お願いですからおとなしく神殿にお戻りください」


 キラは懇願するようにラクスに訴える。この光景もまたいつもの事。その時は素直に頷くが次の日にはまた同じことをする。ラクスはキラの懇願など聞き流し、右の耳からは入って左の耳から抜けている。キラの説教など全く聞いていない。それどころか今日はずいぶんと早く見つかってしまったと考えていた。


「聞いてらっしゃいますか?巫女様」


「聞いておりますわ。外は危ないので神殿から出るなと。この国の王女としての自覚を持てと言っておりますのでしょう?」


「聞いてらっしゃるのなら良いです」


 キラはラクスのその返答にため息をつきながらラクスを神殿内に押し戻す。ラクスにしてみれば毎回毎回同じことを言われているので聞かずともキラが言っている事はわかる。


『毎回同じ事しか言いませんもの。聞かなくても答えられますわ。耳にたこです』


 キラの小言を鬱陶しそうに聞くラクスは本日の脱走時間最短記録を更新してしまった事に悔しく思うしかなかった。そして神殿内に戻ったラクスはキラと云う見張りの下早目に本日中に決済しなければならない書類整理に手をつける事になった。

 ラクスが大人しく机に向かい決済している様子を見つめ、ほっと溜息をつくキラ。このお転婆王女がたびたび脱走しては連れ戻すと云う役目が本日分は終わった事に肩の力を抜く。この王女は脱走が日課だが脱走はなぜか一日に一回だけだ。もう今日は脱走しないだろうと書類に集中しているラクスの傍をそっと離れた。







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