Short novel
□名月の出会い
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幼稚園の迎えに来た保護者達の声と園児の声がこだまする。
ラクスは園から自宅に帰る園児達を見送り、その園児達に手を振る。今日も無事に一日が終ったと一息つくが、まだ一人の園児が残っていた。
ラクスは産休で休んだ先生の代わりに今日赴任してきたばかりでまだ園児達を把握し切れていない。たった一人残ってしまった園児に名札で名前を確認しながら声をかける。その園児はラクスを無視して画用紙に絵を描いていた。
「こんにちはステラちゃん。一体何を描いているのですか?」
ラクスは一人残った園児…ステラに声をかける。ステラはなおも画用紙と向き合ったまま、ラクスには見向きもしなかった。一通り書き終えたのか、手が止まったのを見計らい、ラクスはもう一度ステラに聞く。一体何を描いていたのかと。
「ウサちゃん。これ、パパにあげるの。きょうはちゅうしゅうのめいげつでお月様がきれいにみえる日だって。だからお月様にいるウサチャンかいたの」
ステラがラクスに対し反応しなかったのは集中していたためかと納得し、ステラが描いたその絵を見る。そこには園児が描いた説明されなければ分からない様な絵が描かれていた。
「旨く描けましたわね。きっとお父様もお喜びになりますわ」
するとステラはラクスの言葉に疑問符を浮かべ、違うという。
「ステラ、これ、パパにあげるの。おとうさまじゃないよ?」
ラクスはステラが『お父様』という言葉と『パパ』が同じ物だと理解していないと思った。
「そうでしたわね。パパ、喜んでくださると良いですわね」
そう言うラクスの言葉に飛び切りの笑顔で頷くステラの姿があった。
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