The oath of the star

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 纏わりつく熱気、背後から何かが迫ってきている感覚がして後ろを振り返っても何もなく、ただ闇が広がっている。一体ここはどこだというのだろうか?

 しばらくこの何もない不気味な空間を一人歩いて行くと、急に背中に生ぬるい感覚が当たる。振り返ってみるとそこには小さな子どもの手……その手の先にはなにもなく、そこから先は見えない。この闇でその先が見えないのだろう。その自分の背中に縋りつく様に掴むその子どもの手は青白く、冷たい。手は冷たいというのに生ぬるく感じるのを不思議に思っていると不意に感じる鉄の錆びたような臭いが鼻にくる。そこでようやく背中や足に触れる生温かい感触が液体である事に気付く。その正体を確かめようとその液体に触れた手を目の前にするとそれは赤い血……。よく見渡してみればただの闇でしかなかった空間はスポットライトを当てた様にところどころ薄暗く鈍く光る。

 その場はこの場所がどこかの研究施設であることを物語っており、その先になるのは実験に使われたであろうモルモットの死骸……。だがよく目を凝らしてみればそれはモルモットの様なネズミなどと言った実験動物などではなく人間。

 そう、その死骸はモルモットのように扱われた生まれ出る前の人間の標本だった。

 その不気味に光る標本に手を伸ばせば動かないはずの目がこちらを捕らえ、口元に笑みを浮かばせる。見間違いだと思い、その場を離れようとすると、その標本が声をたてて笑い、高らかに宣言する。


「お前のせいだっ。お前を創るために犠牲になった者たちの報いを受けるがいい」


 その標本の言葉をきっかけに今まで転がっていた遺体がこちらに近寄ってくる。そして背中に縋りついていた手は足止めするかの様にそして叫び声を上げさせないように自分の口を塞ぐ。先ほどまで一つだけだった手が何本も何本も自分に向かって伸びてくる。その手は血の気の引いた青白い腕。まだ幼いとしか言いようのない手が自分に絡まり、纏わりつく。その恐怖から必死でその腕を振り払い、その場を走り去るが、足元がぬかるんでいて旨く走れない。走ろうともがくが一向に進まない。それどころかどんどんとそのぬかるみはひどくなって行く。必死であがき、走っているうちに後ろからのびてくる腕の大群はなくなりほっと一息つく。

 だがそれはほんのひとときの安らぎだった。

 追ってくるものがなくなったと一息ついていると急に足を引っ張られて引き摺り込まれそうになる感覚がする。その手の主は先ほどのような子供の手ではなく大人の手。いつの間にか足元は液体の様になっていて、血なまぐさい池にかわり、その池に引きずり込まれていった。


「還せ……俺の命を返せ……」


 引きずり込む腕の主は恨みがましい目でこちらを睨みつける。だが顔はわからない。わかるのは睨みつけるように光る眼光だけ。そして一つだった腕が徐々に増えていく。そして口々に「還せ」と自分に追いすがっていく。

 必死であがいてその腕を外そうとすればするほど纏わりつき、離さない。そしてその執念とも言うべき力で引きずり込もうとする腕の主たちの正体が浮き彫りにされていく。


「ねぇ、なんで守ってくれなかったの?お兄ちゃん。熱かったよ………」


 それは自分が戦争で守るためと云う免罪符のもと奪ってしまった命。そして守ることができなかった命。小さくて聞き取りにくい声が聞こえる。その声がなぜ聞こえたのかはわからない。だがその事を悟るとその腕にあらがう力をなくした。






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